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2021/9/29 6:15

日常のゴタゴタに疲れたら、1000年前のペルシャの詩に癒やされてみる——『ルバーイヤート』

日常のゴタゴタに疲れると、『ルバーイヤート』(オマル・ハイヤーム・著/平凡社・刊)を読みたくなります。この本は、11世紀、ペルシャの詩人オマル・ハイヤームが著した四行詩を集めたものです。

 

彼は、天文学、数学、そして医学を修めた科学者でしたが、ルバーイヤートと呼ばれる四行詩を書き残した詩人でもあります。遥かかなたの地ペルシャ(現在のイラン)の詩人に、なぜそうも惹かれるのか、自分でもよくわかりません。けれども、体の具合が悪いとき、心が衰え何もかも投げ出したくなったとき、パラパラとめくっていると、エネルギーがチャージされていくような気持ちになるのです。

 

著者・オマル・ハイヤームについて

『ルバーイヤート』の著者オマル・ハイヤームは1048年に生まれました。科学者として活躍した人ですが、詩人であることはほとんど知られていなかったようです。ところが、19世紀の末になって、イギリスの詩人・E・フィッツジェラルドが英語の翻訳を出版したのがきっかけで、その名を広く知られるようになりました。優れた文芸作品は、時代を超えて生き残ることができるのでしょう。

 

科学者であるハイヤームが、いつから詩を作り始めたのか、はっきりしません。なぜ詩作を始めたのかもわかりません。もしかしたら、ただ単に好きだったから、自分の楽しみのための詩作だったのかもしれません。それとも、心に抱えた鬱屈をはき出すためにどうしても必要だったのでしょうか。

 

『ルバーイヤート』を翻訳した岡田美恵子は、オマル・ハイヤームが生きた当時、ペルシャがアラブ・イスラームの支配下にあったことに着目し、次のように述べています。

 

ハイヤームがいつから詩作をはじめたか不明だが、生前の彼は現代でいう科学者として生き、知られていた。科学者として生き、イスラームの信仰を強いられる不自由からのがれるために詩作を楽しんだものであろうか。とはいえ、他の詩人の作品がえんえんと続く長大なものであるのに対して、ハイヤームのは四行詩、きわめて短い。なお「四行詩」という語の単数形は「ルバーイー」、その複数形が「ルバーイヤート」である。

(『ルバーイヤート』より抜粋)

 

やはり、ハイヤームは詩作を通して、自らの魂を解放していたのでしょう。現代に生きる私たちも、自分では頑張って生きているつもりでも、時に呆然と立ち止まり、いったいこれからどうしようかと途方に暮れることがよくあります。そんなとき、『ルバーイヤート』にある詩の調べが、私たちの心に寄り添い、慰撫してくれます。

 

鏡餅と翻訳者

『ルバーイヤート』は今まで何冊かの翻訳が出ています。このコラムで取り上げたのは、2009年に初版が出た平凡社のものです。既に書いたように、翻訳したのは岡田恵美子。テヘラン大学文学部博士課程を修了した文学博士で、東京外国語大学教授、中央大学教授を歴任した研究者です。

 

アカデミックな世界に生きる著者ですが、『ルバーイヤート』で披露されるエピソードは、驚きに満ちた面白さです。

 

ある年の正月、浅草の仲見世通りをイラン人と一緒に歩いたことがある。初詣の終わった頃だったので通りは意外に閑散として、店の大きなショーウインドウには一抱えもありそうな「鏡餅」が飾ってあった。彼、S氏は立ち止まって珍しそうに眺めていたが、「あれは宇宙か?」と質問してきた。不意をつかれてすぐには答えのでてこない私に、「では日本の天地創造か?それとも混沌か?」とたたたみかけてくる。

(『ルバーイヤート』より抜粋)

 

宇宙? 天地創造? 混沌? まったくもってびっくりの反応です。けれども、では「鏡餅とは何か?」と、問いかけてみると、はっきりと答えられないまま、ただ戸惑う自分を発見します。その意味でも、本書は不思議さに満ちた本なのです。

 

私の好きなルバーイヤート

『ルバーイヤート』は四行で構成されていますが、短いながらも、中身はぎゅっと濃いと言っていいでしょう。私たち日本人は、俳句という文芸に親しんでいますから、とくに違和感なく受け入れられるのかもしれません。

 

好きな作品は人それぞれですが、参考までに、心に響いたものをいくつか紹介したいと思います。

 

穹窿にかかる星々は、
賢者たちを懐疑にいざなう。
心せよ、知性の糸の先を見失うな、
運行するものたちが、頭をふっているのだから。

 

この詩の「運行するものたち」とは、「宇宙で揺れうごく星々」を指します。思わず夜空を見上げ、きらきら光る星に目をこらしたくなるのではありませんか。

 

いざ、青春のめぐりくるこの日、
酒をのもう、酒こそわが喜び。
その酒が苦くとも、とがめるな、
わたしの生命だから苦いのだ。

 

お酒はイスラームでは禁じられています。ところが、『ルバーイヤート』には頻繁に酒がとりあげられています。ペルシャ時代の思い出が残っているからでしょうか。

 

ハイヤームよ、酒に酔うなら、楽しむがよい。
チューリップの美女と共にいるのなら、楽しむがよい。
この世の終わりはついには無だ。
自分は無だと思って、いま在るこの生を楽しむがよい。

 

私はこの詩がとても好きです。人間が最終的に行き着くのは死だとわかっていますが、せめてそれまでの間は楽しく、機嫌良くいたいからです。

 

それぞれの人にぴったりフィットしたルバーイヤートがあるはずです。あなたのルバーイヤートを探してみてください。時を超えたエネルギーが、あなたの心に響くはずです。

 

【書籍紹介】

ルバーイヤート

著者:オマル・ハイヤーム
発行:平凡社

盃に酒をみたし、この世を天国にするがよい、あの世で天国に行けるかどうか分からないのだから。——十一・十二世紀のペルシアに生きた科学者にして、虚無と享楽の詩人ハイヤーム。原語からの正確で平易かつ香り高い新訳に加えて、「人間は土から創られ土になる」など、私たちと同じようでしかし違うその世界観を解説、名高い四行詩を細かいところまで味わう一冊。

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