本・書籍
2016/9/11 15:00

癌とは悲しみと戸惑いに満ちた病気だと思う。が、しかし……

私は乱読で様々なジャンルの本を読む。浅く広く読むので、しっかりと身についているのか不安だが、昨年、とりわけ熱心に読んだ本がある。今まで手に取らなかったジャンルだ。それは……。癌に関する本だ。理由は……。夫が筋肉にできる珍しい癌になり、その治療をめぐって読まざるを得なかったからだ。

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■癌に関する本はあまりにも多い

癌に関する本は多い。医師によるもの、患者によるもの、患者の家族によるもの、その数は膨大だ。内容も多彩で、ある本は「早期発見こそが大事」と説き、一方では「末期癌からの生還」を描いたものもある。治療についても、「手術はしてはならない。自殺行為だ」というのもあれば、「化学療法は健康な細胞も殺す」として、慎重論を唱えるものもある。

 

■夜中に隠れてこっそり読書

読む度に私は混乱した。けれども、読まずにはいられなかった。だって、何の知識もないのだもの……。夫が癌になるなんて、考えてもいなかったもの……。「そんなの聞いてないし。言っといてくれたら、研究しといたのに」と、一人、天を仰いで呟いたものだ。

 

しかし、自分がそんな思いを抱えていることを病人には知られたくない。そこで、夫が眠ると、深夜、こそこそと起き出しては読んだ。不倫しているかのような怪しさだった。インターネットもなめるように読んだ。画面に顔をくっつけすぎて本当になめそうなくらいだった。

 

■治療、我が家の場合

やがて、インターネットを開くと、右側に出てくる広告は「癌免疫療法」や「癌のサプリメント」ばかりになった。おそらく夫は気づいていただろうが、何も言わなかった。こうして、研究に研究を重ねたが、答えは出なかった。

 

結局、私は紹介された病院で出会った医師の説明と眼力を信じ、彼の言う通りに治療を進めるのが一番いいという結論に達した。夫は「わかった」と言い、その通りにした。

 

手術は成功し、病巣は取り切り、濃厚な化学療法を経て、夫は職場に復帰した。もちろん、今も検査には行かなければならず、その度に元気がなくなるが、それでも彼は生還したのだ。しかし、癌はいったんかかると、ずっと患者を苦しめ続ける病気でもある。再発の不安が常につきまとうからだ。

 

■答えはあるのか?

夫が癌になって思うのは、癌は理解するのがなかなかに難しい病気だということだ。いつ、どこにできるかわからない。戦おうにも、どの戦い方を選ぶべきかわからない。医学用語も難しい。何よりも、答えが一つではない。そもそも、答えがあるのかどうか、判然としない。

 

『がんのひみつ』(田川 滋・漫画、橘 悠紀・著/学研プラス刊)は、小さな子供でもわかるように、癌についてわかりやすく解説し、その対処法を描いた漫画だ。親戚のおばさんが乳がんにかかり、不安に陥る男の子ヒロト君に、医師が癌という病気について、予防や治療、退院後の生活まで、丁寧に教えてくれる物語だ。

 

■家族を巻き込む癌という病気

癌は本人はもちろん、家族や親戚までをも巻き込む病気だ。皆が悩み、苦しみ、そして多くの家族がなぜか思う。 「癌になったのは、私たちのせいではないのか?」と。私も思った。今も思っている。私のせいで夫は癌になったのではないか、と。

 

理由はわからないが、その考えが頭から離れない。そして、夫は夫で、私に言う。「癌になってごめんね。本当にごめんね」と。

 

■悪いのは私か?

病院で出会う多くの患者さんも同じ事を言っていた。ご本人が悪くて癌になったわけではないのに、患者さんの多くが家族に謝り、家族はその謝罪の前に返す言葉もなく立ち尽くす。私はそんな光景を何度も見た。

 

私の場合はこう思った。もし、もっと早く気づいていれば。もし、無理にでも大きな病院に引っ張っていけば。もし、食事に気をつけていたら。たくさんの「もし」が無限にわいてくる。

 

謝る夫に対しては、こう答えるしかなかった。「あなたが悪いわけじゃない」。では、何が悪いのか? ひょっとして、この私? 私が悪かったのか? 何の脈絡もなく、しかし、自信をもって私は思うようになった。煙草も吸わない夫が癌になったのは、私のせいだ、と。

 

■癌の謎が解ける日まで

手術から1年3ヶ月がたった今も、夫は謝り続けているし、しばしば落ち込み、不安をもろにぶつけてくる。私は私で、罪悪感から逃れられず、投げかけられた思いを抱えたまま、「困ったねぇ」と、途方に暮れる。私自身は癌になったことがないので、夫の気持ちが本当にはわからないのだ。

 

しかし、一つだけ感じているのは、癌は後悔と不安といらだちを生む病気だということだ。なぜ? 何が悪くてこうなったの? そんな悲しみの袋小路に入ってしまったら、これからは『がんのひみつ』を読もうと思う。

 

原因の解き明かしに一生懸命になる医師と少年が、希望を与えてくれるからだ。癌の謎が解ける日が来ると信じて、一日一日を乗り切るしかない。どんな病気も苦しいものだろうが、癌は悲しみと戸惑いに満ちていると思う。が、しかし、希望はあるのだ。きっとあるのだ。ないはずがない。(文・三浦暁子)

 

【参考文献】

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がんのひみつ

著者:田川 滋(漫画)  橘 悠紀(構成)
出版社:学研プラス

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