こんにちは、書評家の卯月 鮎です。今やお金があれば宇宙ステーションに滞在できる時代になりました。こうなると、次は月や火星へのバカンスでしょうか? コロナ前は芸能人がこぞってお正月にハワイへ飛んでいましたが、「年末年始は火星でのんびりだよ」なんて未来がくるかもしれません。
将来的には火星に人類が進出!
今回紹介する新書『本気で考える火星の住み方』(齋藤 潤・著、渡部 潤一・監修/ワニブックスPLUS新書)の著者・齋藤 潤さんは、東京大学大学院理学系研究科鉱物学専攻博士課程を修了し、西松建設に勤務後に2005年からJAXAの「はやぶさ」プロジェクトチームに参加。カメラ観測チームのリーダー兼小惑星観測時の広報担当を務めました。現在は合同会社「ムーン・アンド・プラネッツ」で嘱託研究員として研究を続けています。
監修の渡部 潤一さんは天文学者で国立天文台の副台長。2006年に冥王星が「準惑星」になったときの惑星定義委員を務めたことでも知られています。以前このコラムで紹介した『古代文明と星空の謎』 (ちくまプリマー新書) など天文関連の著書も多数です。
火星の1日は何時間?
長年、宇宙と向き合ってきた著者の齋藤さんが本書で挑むのは火星の移住! 夢物語や空想の域を抜け出して、移住までの道のりを本気で探ります。
まず第1章「火星ってどんな星?」では、今わかっている火星の情報がまとめられています。みなさんは火星の1日は何時間だと思いますか? これが50時間や100時間だと私たちの生活も大きく変わってきます。コンビニの100時間営業なんて、どうなってしまうのか……(笑)。
でも、ご安心を。火星の1日は24時間37分で地球とほぼ同じ。地軸の傾きも似ていて季節の概念もあるそうです。地球人が生活スタイルの大枠をそのまま持って行けるかどうかの視点は意外に重要だなと感じました。
また、大気と季節があるため生命が存在する可能性も予想されています。1996年に火星からの隕石に生物の痕跡らしきものがあったとNASAが発表し、世界を騒がせました。この火星隕石の論争をきっかけに、かつての火星は生命の住める状況であったという方向へ、科学者たちの議論がシフトしているそうです。
現在は生命の兆候も掴めない荒涼とした砂漠でも、手を加えればなんとかなるかもしれない。地球と比べて人類に最適な環境とは言えませんが、最低限の条件は満たしていると考えられます。
本書のメインとも言えるのが第4章と第5章。火星探査プロジェクトによって集められた情報を齋藤さんが分析し、火星移住のビジョンを構想しています。移住の前段階では、国際法の整備や人体への影響の克服などの問題が焦点。
そして、火星開発を進めるにあたっては水資源の確保が重要となります。水は火星の地下にあるとされる氷から得ることに。しばらくは着陸船を居住区に使い、のちに地球から持ち込んだモジュール(組み立てユニット)をつないで基地を建設する。
火星基地というと赤い砂漠にぽつんと施設が建っているというイメージが映画やゲームではおなじみですが、齋藤さんは「基地は地下に置くべき」と書いています。その理由とは……。将来的に火星に新宿や梅田並みの地下迷宮ができて、ショッピングが楽しめるかもしれません。
中国やインド、アラブ首長国連邦(UAE)など世界各国が火星の探査プロジェクトを進めている現状。UAEの火星探査機「アル・アマル」は日本が依頼され、種子島宇宙センターから打ち上げられました。
各国政府や宇宙ベンチャー企業の思惑も絡む火星開発。純粋なロマンとして火星移住を夢みる時代は終わりつつあるようです。空想的フロンティアの消失は少し寂しさを感じますね。
【書籍紹介】
本気で考える火星の住み方
著者:齋藤 潤 ・著、 渡部 潤一・監修
発行:ワニブックス
地下なら火星に住める可能性が!? 2020年代に入り、NASAをはじめとする宇宙機関が地球にもっとも近い惑星である火星の探査を進め、次々と新発見が報告されています。そこで、本書ではあの惑星探査機「はやぶさ」の開発メンバーが現時点で火星についてわかっていること、そして以前より模索されている「人類が火星に住める可能性」について、タイトル通り本気で検討・解説します。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。