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2022/2/27 19:00

100均ショップは「新しい命が生まれる場所」ーー『100均グッズ 改造ヒーロー大集合』の発想力に高鳴る

「楽園だ」。私がそう感じる場所の一つが「100円均一ショップ」。

 

炊事や洗濯・掃除などに使う日用品、衣料品、文房具、食べもの、駄おもちゃ、果ては「何に使うのかよくわからないモノ」までズラリ並んだ100均ショップ。ここは、生きるためのパワーをチャージする場所だ。雑貨をショッピングバスケットへ投入するたびに、単に「安いからおトク」だけでは終わらない高揚感が私の全身を包む。まるで、新たな命をいただいているかのような。

 

そんなふうに日々100均に救われている私に、光が降り注いだ。『100均グッズ 改造ヒーロー大集合』(平凡社)が発売されたからだ。

 

100均グッズ 改造ヒーロー大集合

著者:安居智博

発行:平凡社

テレビやSNSで話題沸騰。軍手、タワシ、ペットボトル、水引が「魔改造」でとんでもロボットに大変身。ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100」に選出された造形作家の世界。100円ショップにある日用品や駄玩具、また、包装紙や千代紙などのプリント柄の紙など、なんでもロボット化してしまう安居さんの驚異の発想力のすべてがここに。たくさんの作品写真と制作プロセス写真で、58のヒーローが登場します。

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根底にある「100均グッズのデザインへのリスペクト」

ページをめくれば、ぅおおぉ(ため息)。

 

タワシ、輪ゴム、水道ホース、千代紙、パーティグッズの「鼻メガネ」などなど、暮らしに密着した地味ぃなアイテムの数々がなんとスーパーヒーローに変身。どれも、支えがなくとも絶妙なバランスで自立しているからすごい。「ドメスティックロボ、発信!」の掛け声一つで、ダイソー、セリア、ワッツ、シルクなど全国各地の秘密基地から、いつでも怪獣が暴れる街へと飛び発ちそう。彼らにはそんな正義への強い意志を感じる。100円玉から生まれたとは思えぬカッコよさなのだ。

 

 

作者は京都にアトリエをかまえる造形作家の安居智博さん。とはいえこれらの100均ヒーローズのほぼすべては、ビジネスから生まれたものではない。安居さんが仕事の合間に、言わば解放されるために改造したものなのだ。

 

モノづくり系のクリエイターさんは、仕事を離れた趣味もモノづくりである場合が多い。切って、つないで、変身させる。その行為は安居さんにとって職業ではなく人生そのもの。だからこそ、安価なグッズにも地球より重い魂が宿るのである。

 

安居さんが生みだすスーパーヒーローたちは、なぜこんなに凛々しいのか。それは素材となる100均グッズのプロダクトデザインにリスペクトがあるからだろう。

 

たとえばテニスボールのヒーロー「ウィンブルドーン」(いい名前!)は、スポーツのボールを切り刻む行為に愛好家が嫌悪感をいだかぬよう、本来のテクスチャーを分断したり削り落としたりせず曲線をそのまま活かしている。

 

「初心者マーク」を改造した「ワカバー」(うまい!)も本来の左右対称な意匠を遵守しながらスマートに再構築しているのだ。だって、そこを覆しては“交通違反”なのだから。

 

反対にブルーシートの「バショトリー」(最高!)はあえて紙ヤスリでダメージを与えている。現場で貢献してきた実績を表現しているのだ。ゴム風船「ヨクバルーン」は経年とともにゴム層がはげてきているのだが、それもまたわびさびある味わいだと、そのままの姿を残している。

 

 

そういえば幼い頃に読んだ雑誌『テレビランド』のカラーページには、ボロボロに傷ついたマジンガーZが横たわっていた。「日本を守るため、傷だらけになるまで身を挺して闘ってくれたのか」と、胸に熱いものがこみ上げてきた。100均のグッズで、まさかあの日の涙が蘇るとは。

 

輪ゴムはゴムの木が生まれた南国をイメージ。便所のサンダルはモビルスーツのような重厚感をもたせる。バトミントンの羽にはフェミニンな気品を漂わせる。電気コードに至っては、分解することで「仮面をはずしたヒーロー、正体やいかに!」とドラマ展開まで魅せてくれる。

 

安居さんは、軍手の黄色いイボイボを「美しい」と語っている。私たちは日用品を美しく感じるアンテナを、社会の固定観念に毒されるうちに、いつしか失っていたのかもしれない。安居さんはこのように原型となる100均グッズのデザインを美しいものとして尊重し、メーカーや愛用者が拒絶しない愛あるデザインを仕上げているのだ。

 

きらめきながら現れる100均ヒーローたち

 

さらに重要なのが、安居さんは100均ヒーローズが真価を発揮できるよう、シチュエーションをしっかり考えている点だ。

 

たとえば、「その件、俺に仕切らせてくれ」とぬっと現れた、弁当を仕切るバラン。光を透かし、着色をほどこさず重ねた部分の濃淡のみによってカラーリングを表現しているから驚き(バランのみならず、安居さんはすべて縮小や拡大コピー、着色などをせず、マテリアルそのままの色合いや質感で造形している)。

 

20個のラムネ菓子入りボトルから誕生したヒーローは「内部が透けて見えることを前提に、可動の構造を構築すること」と自らに高難度なミッションを課している。そうして見事にブドウ糖を充てんするスケルトンの勇者が登場した。

 

 

透明の小さな醤油挿しを集結させた「大醤軍(だいしょうぐん)」は中銀カプセルタワービルを想起させる構造美がある。象のかたちをしたジョウロは実際に水をほとばしらせて灯りを乱反射させ、カリスマ性を演出している。食器洗いスポンジは泡の海を割って水面から飛び出し、シャボン玉は七色にきらめきながら敵を幻惑させる。

 

このように安居さんは光の透過がもたらす効果を存分に採り入れている。思えば「光」はヒーローになくてはならない要素。子どもたちはミクロマン、変身サイボーグ、人造人間キカイダーやハカイダーなど光学迷彩で神々しく輝くヒーローやヒールに憧れた。元祖ヒーローと言えるウルトラマンは光の国からやってきたではないか。

 

そういった憧れの気持ちがオブジェに反映しているから、この新刊からは単なる100均グッズ工作本とは一線を画する感動がもらえるのである。

 

素材と素材を結ぶ独自技術「ヤスイ締め」

 

100均のチープな雑貨に正義の心を芽生えさせた安居さん。実現できた最大の理由は、小学校3年生のときに発明した関節可動の仕組み「ヤスイ締め」だ。接着剤が効かない素材どうしを針金でつなぐ技術を安居さんは少年期に早くも開発していたのである。

 

 

小学校2年生からペーパークラフトに関心をいだき、小学校3年生で「ヤスイ締め」によるロボットレスラー「カミロボ」を誕生させた。カミロボプロレス界はのちに15団体が乱立。ベルトを奪いあう戦国時代へと突入していった。小学生のときに制作した第1号レスラーのマドロネックキングをはじめ、死闘を経てもなお600体以上のカミロボが現存しているというから、たまげた。いかに「ヤスイ締め」が優れた技法であるかがうかがい知れる。

 

そう、安居さんにとって、素材と言えば紙だった。歴史を変えたのは爪楊枝、アルミホイル、コンクリートブロックによる悪役レスラー「異素材軍団」の参上。安居さんは「紙か、紙以外か」とまるで工芸界のローランドのように紙に想いを馳せていたが、異素材軍団の意外な健闘により、次第に紙以外にも惹かれていったという。安居さんにとって当初は悪役だった異素材だけで、こうして単行本にまとまるとは感慨深い。「かみ」に背くとは、まるで悪魔が正義に目覚めたデビルマンのストーリーのようだ。

 

100均で生まれコロナ禍に立ち向かう勇者たち

 

安居さんの100均グッズ改造に拍車がかかったのは、コロナ禍が原因だという。展示会などの機会を失い、「俺のステイホーム、なめんなよ!」とクリエィティブの魂に火がついた。

 

人と人との分断が余儀なくされる昨今。この亀裂を元に戻すには、人間関係にも「ヤスイ締め」が必要だろう。そういう点で、地球全体が危機を迎えるなかでヒーローたちが立ち上がったこの新刊は、とてつもなくタイムリーと言える。100均グッズのヒーローたちに希望をもらいながら、コロナが収束するまで、しばし辛抱しようではないか。

 

100均グッズ 改造ヒーロー大集合

著者:安居智博

発行:平凡社

テレビやSNSで話題沸騰。軍手、タワシ、ペットボトル、水引が「魔改造」でとんでもロボットに大変身。ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100」に選出された造形作家の世界。100円ショップにある日用品や駄玩具、また、包装紙や千代紙などのプリント柄の紙など、なんでもロボット化してしまう安居さんの驚異の発想力のすべてがここに。たくさんの作品写真と制作プロセス写真で、58のヒーローが登場します。

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