本・書籍
2022/5/3 6:00

世間のブルーオーシャンを仕事にするにはどうしたらいい?——『「ない仕事」の作り方 』

マイブーム、ゆるキャラ、クソゲー、DTなどなど、今我々が日常会話で使ったりメディアで見ることがあるこれらのキーワード、実はすべて同じ人物が生み出している。その人物とは、みうらじゅんだ。

 

みうらじゅんの職業は「イラストレーターなど」

みうらじゅんって誰? という人のために簡単に説明すると、元々は漫画家で、そのほかにも文筆業、ミュージシャン、評論家、ラジオDJ、解説者などなどさまざまな活動を行っている。自称「イラストレーターなど」。

 

そんなみうらじゅんは、これまで誰も見向きもしなかったさまざまなことを世間的なブームに押し上げてきた。これを「マイブーム」と呼び、一般的なものにしたのだ。もちろんマイブームも造語だ。

 

彼がどうやって、一般的には存在しない市場を見つけ、それを仕事にしてきたのか。その方法論が記されているのが、『「ない仕事」の作り方 』(みうらじゅん・著/文藝春秋社・刊)だ。

 

気になることに「名称」と「ジャンル」を与える

本書は、2015年に出版され、同年の本屋大賞発掘部門「超発掘本!」を受賞している。みうらじゅんが人と違う着眼点を持っているのは子どものころから。仏像が好きで、自分で仏像のパンフレットを切り抜いてスクラップし、オリジナルの仏像スクラップを作ったことから始まっている。後年、仏像好きということから、同じ仏像好きのいとうせいこうとの仏像巡りを記した『見仏記』などが生まれている。

 

いったい、どうやってこれまでなかったものを見つけ出して、それを仕事に結びつけているのか。本書にはこう記されている。

 

まず、名称もジャンルもないものを見つける。そしてそれが気になったら、そこに名称とジャンルを与えるのです。

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

たとえばゆるキャラの場合。全国各地の着ぐるみのキャラクターに興味を覚えたとき、そのいびつさとせつなさに気付き、虜になった彼は、それに名前を付ける。普通に説明すると

 

地方の物産店で見かける、おそらく地方自治体が自前で作ったであろう、その土地の名産品を模した、着ぐるみのマスコットキャラクター

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

という長い説明を、一言で表現するために作った名称が「ゆるキャラ」なのだ。また、彼はこうも述べている。

 

「ゆるキャラ」と名づけてみると、さもそんな世界があるように見えてきました。統一性のない各地のマスコットが、その名のもとにひとつのジャンルとなり、先に述べた哀愁、所在なさ、トゥーマッチ感、郷土愛も併せて表現することができたのです。

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

確かに、「ゆるキャラ」というたった5文字の名称なのに、すべての特徴と感情が収まっているように感じる。

 

ネガティブ+ポジティブな単語を組み合わせる

また、ネーミングに関しても彼独自の方程式がある。

A+B=ABではなく、A+B=Cになるようにするのです。そしてAかBのどちらかは、もう一方を打ち消すようなネガティブなものにします。

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

ゆるキャラはもちろん、「カスハガ」(意味不明で価値が感じられない観光地で売っている絵はがき)や「クソゲー」(お金を出してまで買ってやるようなレベルではないくだらないゲームソフト)、「いやげ物」(もらってもうれしくないお土産)という言葉も、この方程式に当てはまっている。

 

このような考え方ができるようになると、世の中のちょっとしたことをとてもおもしろく感じられるようになるのではないだろうか。

 

グッズを収集して自分を洗脳する

いくら、みうらじゅん個人がおもしろいと思っても、それを周囲が、世間がおもしろがってくれなければ大きなブームにならず、仕事にもならない。そこで彼が行っているのが「自分の洗脳」だ。ただ、他人を洗脳するよりも自分を洗脳するのは難しい。そこで彼が取る行動がある。

 

興味の対象となるものを、大量に集め始めます。好きだから買うのではなく、買って圧倒的な量が集まってきたから好きになるという戦略です。

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

まさに洗脳。行動を起こすことによって自分を錯覚させるという、なかなかマゾヒスティックな戦略だが、集まったものを見れば自然とそのジャンルへの愛情が深まるだろう。

 

かくいう僕も、アコースティックギターが好きですでに10本以上所有している。それほど高額なものはないが、それだけの数が集まると「やっぱり俺ってアコギ好きなんだなぁ」と思い、いろいろ詳しくなってしまった。ギターを弾きたいのか、買いたいだけなのか、よくわからなくなっているが…。

 

アイデアに行き詰まったときにヒントになるかも

本書は、みうらじゅんがどうやって今のような仕事をするようになったのか、また巻末には師匠ともいえる糸井重里とのトークライブの模様も収録されているので、みうらじゅんという人物に興味のある方はご一読を。0から1を作り出すためのヒントが隠れているので、行き詰まったときに読むといいかもしれない。

 

【書籍紹介】

「ない仕事」の作り方

著者:みうらじゅん
発行:文藝春秋

「マイブーム」「ゆるキャラ」など新語を生み出し、それまで世の中に「なかった仕事」を企画、営業、接待も全部自分でやる「一人電通」という手法で作り続けてきたみうらじゅん。アイデアのひらめき方から印象に残るネーミングのコツ、世の中に広める方法まで、その驚きの仕事術を丁寧に解説。糸井重里さんとの対談も収録。

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