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2022/8/21 21:00

宇宙争奪戦勃発か!? ロマンとマネーが結びつく宇宙ビジネス最前線~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。今やさまざまな国や地域が密接に関わり合い、ひとたびコロナのような伝染病が流行るとあっという間に地球規模で危機が生じてしまいます。どこかで封じ込めようとしてもなかなか難しいもの。

 

こうなると、これまでSF小説の話でしたが、宇宙への脱出も少しだけ現実味を帯びてきます。昨年、前澤友作さんが日本人の民間人として初めて国際宇宙ステーションに滞在しました。今後宇宙への旅行が当たり前になれば、地球の危機に「しばらく宇宙で遊んでいようか」なんて選択肢も出てくるかもしれません。

“サラリーマン宇宙旅行者”が語る宇宙ビジネス

さて、今回紹介する新書はよくわかる宇宙ビジネス 日本初サラリーマン宇宙旅行者からの提言』(稲波紀明・著/星海社新書)。著者の稲波 紀明さんは、船井総合研究所シニアプロフェッショナル兼宇宙ビジネスコンサルタント。日本IBM在職中の2005年にヴァージン・ギャラクティック社の宇宙旅行に申し込み、宇宙旅行者100人に選ばれたのち、宇宙旅行や宇宙ビジネスに深く関わり、メディアにも登場して発信を続けています。

計算が立ち始めた宇宙ビジネス

第1章「宇宙の魅力と可能性を感じ続けた17年」では、宇宙旅行者を希望したきっかけと具体的な訓練の内容が語られます。

 

ヴァージン・ギャラクティック社の宇宙旅行の日本人枠は1人だけ。宇宙に憧れ、大学時代に宇宙物理学を選考していた稲波さんは、ダメもとでエントリーしてみたのだそう。そして抽選の結果、惜しくも2位の補欠……と思いきや当選者がキャンセルし、繰り上がり当選に! といっても旅行代金は約20万ドル(当時のレートで2200万円)。思い切って払った稲波さんのもとにヴァージン・グループの会長リチャード・ブランソンさんから届いたのは、カリブ海の島にある自宅への招待状だったとか。

 

「すごくおもしろい人で、一緒にいると人を驚かせよう、楽しませようとする」と稲波さん。リチャード・ブランソンさんの仕事ぶりはその後のビジネスのヒントにもなったといいます。実際にはまだ稲波さんの宇宙旅行は実現していませんが、ヴァージン社が2021年に宇宙旅行事業を本格始動させたため、夢へまた一歩近づいています。

 

第2章以降は、稲波さんが宇宙開発の歴史と、最新のプロジェクトや宇宙ビジネスを紹介していくという構成。私の宇宙開発のイメージは昔のままで止まっていました。それを更新してくれたのは第4章「世界の宇宙開発の変化(ニュースペース)」。宇宙開発というとアメリカのような大国が主導するイメージがありましたが、今や中東やアフリカといった新興国や民間のベンチャー企業も盛んに手掛けるようになっているとか。

 

たとえばアラブ首長国連邦は2009年に種子島宇宙センターから人工衛星を打ち上げて宇宙開発を本格的に始動させ、2020年に初の火星探査機を火星周回軌道に投入するまでになっています。アフリカではエジプト、アルジェリア、ナイジェリアなども中国とパートナーシップを結んで人工衛星を打ち上げています。

 

日本も近年、人工衛星等の打ち上げ及び人工衛星の管理に関する法律「宇宙二法」が成立するなど、ビジネス環境が整備されつつあるそうです。本書で取り上げられている日本のベンチャービジネスも興味をそそるものばかり。依頼者が指定する場所に衛星から人工流れ星を作る企業「ALE」、気球による体にやさしい宇宙旅行を目指す「SPACE WALKER」、専用の人工衛星で人やペットの宇宙散骨を行う「SPACE NTK」……。

 

ビジネスという現実的な観点と壮大な宇宙のロマンが結びついた一冊。宇宙旅行を控えるコンサルタントという独自の立ち位置から、わかりやすい言葉で最新の宇宙ビジネスが語られ、各国や起業家が宇宙という空間をどう捉えているのかが見えてきます。

 

使い道も所有者もまだはっきりとは決まっていない広大なフロンティア。その争奪戦が本格化することは間違いないでしょう。

 

【書籍紹介】

よくわかる宇宙ビジネス 日本初サラリーマン宇宙旅行者からの提言

著:稲波紀明
発行:星海社

2021年は宇宙旅行元年ともいうべき変化の年でした。民間人も宇宙旅行に行ける、人工衛星を打ち上げられる、そんな時代の到来とともに宇宙にまつわるビジネス市場は日本国内だけでなく世界中で一気に拡大の機運が高まっています。地球上にあるモノ・サービスを宇宙に持っていく、それだけで新しいビジネスチャンスが生まれるーこのまたとない好機に、さまざまな分野から宇宙の可能性を広げてくれるプレイヤーの参加を増やしたい。そんな思いから、少しでもわかりやすく、身近に感じられる宇宙ビジネスの入門的ガイドを1冊にまとめました。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

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