本・書籍
2022/10/19 21:30

孤高のマンガ家つげ義春、82歳にして初の海外旅行へ行く

終始、らしさが出ている。日本のマンガ界において、生きる伝説となっているのがつげ義春。『ねじ式』『ゲンセンカン主人』『無能の人』『沼』『チーコ』などなど、マンガに文学、それも私小説のエッセンスを取り入れ、大衆娯楽だったマンガを芸術に高めたマンガ家だ。

 

貸本屋時代は大量のマンガを描いていたが、マンガ月刊誌『ガロ』に書くようになってから寡作になっていく。また、本人の性格からか、あまり人前に出ることもなく、他人との交流も必要最低限。そんなこんなでもう30年以上作品を描いていない。

つげ義春初の渡仏がメイン

そんなつげ義春が、フランスに行くという大事件(?)が起きるのは2020年のこと。フランスのアングレームという町で開催されている「アングレーム国際漫画祭」に出席するためだ。

 

実は数年前に、つげ義春のマンガが初めて英語とフランス語に翻訳され、海外で刊行された。これまで彼の作品は日本語版しかなく、海外のファンは自分たちの言語で読むことができなかったのだ。そんなこともあり、フランスではつげ義春が盛り上がっていたらしい。

 

この地で本人初の原画展を開催することになっており(日本でもしたことがないのに)、そのタイミングで渡仏ということになった。つげ義春、82歳。すっかり隠棲していたが、突如海外へ。その様子を記したのが『つげ義春 名作原画とフランス紀行』(つげ義春、つげ正助、浅川満寛・著/新潮社・刊)だ。

 

本書は、2019年に発行されたフランスの雑誌『ZOOM JAPON』に掲載されたインタビューと、渡仏の際の完全密着レポート、そしてつげ作品7作の原画が掲載されている。

 

つげ義春のインタビューというのはかなりレアなのに、フランスのメディアにインタビューを受けるというのはさらにレアだろう。また、渡仏記は同行した浅川氏の視点で書かれているが、つげは常に「帰りたい」「疲れた」「サンドウィッチのようなものが食べたい」としか言っていない印象。

 

それでも、漫画祭の授賞式に登壇し、数百人のファンの前で話し、笑顔で手を振っている。旅は人を変えるのか、日本では変えられないからやけになっているのかはわからない。

 

ファンにとっては充実している内容

つげ義春というマンガ家は、あまりメディアなどに出てくることはないため、本書はかなり貴重。あまり長くはないが海外向けの貴重なインタビューに、渡仏記。そして、代表作7編の原画が掲載されており、充実した内容だ(でもすぐ読み終わっちゃう分量)。

 

原画のほうも、写植が取れてしまっているところがあったりと、生々しくてよい。何度も読んでいる作品だが、原画で見るとさらに味わい深いものがある。僕の好きな「もっきり屋の少女」が載っていて、ちょっと喜んでしまった。

 

正直、つげ義春というマンガ家を知らない人にはオススメできる本ではないが、ファンならたいへん興味深いし、あまり詳しくないという人には「つげ義春ってこんな人なんだ」とわかる内容になっていると思う。

 

なお、本書は判型が大きいので、老眼が進んでいる僕でも読みやすかった。その点も高く評価したい。

 

【書籍紹介】

つげ義春 名作原画とフランス紀行

著者:つげ義春、つげ正助、浅川満寛
発行:新潮社

いま、世界がようやく、「つげ義春」を発見しつつある。その象徴が、2020年のアングレーム国際漫画祭での顕彰であり、人前に出ることを嫌う作家に、初の海外渡航をうながしもした。事前には、関係者でさえ半信半疑だった奇跡のフランス行きを、旅立ちから帰国まで、完全密着リポートでお届けする。さらに、「李さん一家」「海辺の叙景」「もっきり屋の少女」など、「ガロ」に発表した珠玉の7篇の原画を、初めて全頁まるごと掲載。筆触やベタ塗り、修正の跡といった“生”の質感を堪能されたい。あらたなる「つげ義春」の発見を、この一冊で−−。

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