本・書籍
2022/11/30 21:30

鉄道がもっと身近な存在になる1冊。人と鉄道の記憶を綴るアンソロジー『鉄道小説』がめっちゃいい!

鉄道開業150年を記念し、『JR時刻表』や『散歩の達人』などを発行する交通新聞社が、鉄道にまつわる短編集を発売しました。その名も『鉄道小説』! 小窓が付いているようなブックケースから本を取り出すと、鮮やかな色の表紙が広がります。それはまるで、知らない駅のホームに降り立った時のようなドキドキ・ワクワク感。ページをめくりながら、個性豊かな5名の作家さんの物語に、時を忘れて引き込まれてしまいます。どのお話も知らない街なはずなのに、その場に行ったかのような気持ちになって、これまたいい旅気分。

 

ということで、めっちゃいい! と語彙力ゼロなタイトルをつけちゃうほど、隅々まで愛が詰まった短編集『鉄道小説』をご紹介します。今回は、このプロジェクトに関わった4人の編集者にお話を伺いました。

 

交通新聞社が、文芸ジャンルに新たに取り組む理由

今回お話を伺ったのは、交通新聞社で働く4人の編集者。西日本支社の上野山さん、月刊誌『散歩の達人』編集部の中村さん、会員誌『ジパング倶楽部』編集部の吉野さん、そして時刻表編集部に所属する渡邉さんです。みなさんは、本業のお仕事もしながら「鉄道開業150年に向けて、文芸作品を作ろう!」と『鉄道小説』の制作に取り組まれていました。社内で有志が集まって新規プロジェクトが立ち上がるって素敵ですよね!

 

ちなみにこの4人が「文芸ジャンル」に取り組むのは初めて。普段は、雑誌や時刻表など、同じ本でも全く違うジャンルに関わっていたため、戸惑いも多かったとか。どんな思いでプロジェクトに参加したのでしょうか?

 

渡邉さん「有志のブレストで、フィクションや漫画、文芸を取り扱っていない当社でも、そういった作品に挑戦したいって話が出たんです。情報は役に立つけど常に更新され、流れていくもの。長く愛される文芸作品を作れればと提案したのが始まりです」

 

吉野さん「もともと販売部にいたので、直接お客さまの声を聞く機会が多かったんです。好きな仕事だったのですが、異動後はなかなかその機会も少なくなっていました。このプロジェクトに関わることで、またお客さまと近い距離で関われるのでは? と期待を込めて参加しました」

 

中村さん「これまで当社の雑誌・ウェブなどさまざまなコンテンツに携わってきましたが、一次コンテンツとしてゼロから新しいものを生み出したことがありませんでした。そういった作品づくりを素直にやってみたいと、参加しました」

 

上野山さん「小説が好き、っていうのが一番の動機ですかね。自分の行動を振り返ってみても、何年も大事にしている本ってやっぱり小説なんですよ。誰かに大事にされる本を作りたい、という思いで参加を決めました」

 

2021年の鉄道の日(10月14日)に、正式に「鉄道開業150年 交通新聞社 鉄道文芸プロジェクト」が始動し、「ご期待ください」の動画をリリース。

 

一体何が起こるのか見ている私たちには謎でしたが、裏では『鉄道小説』発売に向けててんやわんやだったそうです!著者に依頼を開始し、急ピッチで書籍の制作と文学賞の詳細を決めていったそうです。

【プロジェクトページはこちら

 

5人の作家への思い

『鉄道小説』には、個性豊かな作家5人の短編小説が掲載されています。

 

「犬馬と鎌ケ谷大仏」 著・乗代雄介
「ぼくと母の国々」 著・温又柔
「行かなかった遊園地と非心霊写真」 著・澤村伊智
「反対方向行き」 著・滝口悠生
「青森トラム」 著・能町みね子

 

もともと文芸作品が好きだった4人は、打ち合わせを重ね「この人にお願いしたら、面白そう」という人にアプローチし、この5人に絞っていったそう。実は、本プロジェクトにはリーダーが不在。本業もしっかりこなしながら、ひとりひとりの「文芸作品を生み出したい」という熱い想いでたくさんのハードルを乗り越えていったのだとか。痺れる〜!

 

そんなみなさんが、思いを込めて企画し進めていった『鉄道小説』。進めていく中での思い出話を伺いました。

 

吉野さん「私は澤村伊智さんの『行かなかった遊園地と非心霊写真』を担当しました。澤村さんにお願いしたことは『怪談だけれど、150年企画の本なので人が死なないように』ということ。もともと怪談作品が好きで、澤村さんの大ファンだったので初めて目を通した時の喜びは忘れられません。何度も読んで、いろいろ質問して、原稿を仕上げていく工程を振り返るだけでも楽しい思い出です。最高でした」

 

中村さん「滝口悠生さんの『反対方向行き』を担当しました。私自身、初めての文芸編集だったので最初から最後まで緊張しっぱなし。すごく個人的な話になるのですが、滝口さん作品のファン。過去に鉄道のお話も書かれているし、記憶について印象的に書ける著者さんだからお願いしましょうとチームメンバーには伝えていましたが、『絶対お願いしたい!』とかなり熱を込めていました(笑)。初稿が上がってきた時は、コレコレ〜! と本当にうれしかったのを覚えています」

 

上野山さん「全体を通して言えることなのですが、企画軸と作家軸をどこまで守るか? というのは編集で心がけたところです。短編集なので、テーマにどれだけ沿っているかは重要なポイントですが、作家さんの個性を消してまで優先することではありません。いろんな読み手を想定しながら、話し合ったのが思い出ですね」

 

渡邉さん5人の作家さんには社会の歴史と個人の歴史が交わるような小説をテーマに執筆をお願いしたのですが、それぞれの作風・個性でそれを表現してくださって、いい本になったなぁと感じました。また、初めてつくる文芸の書籍ということもあり、装丁にもこだわりました。ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』のハードカバー版のように、紙の本ならではの読書体験ができるような本……そんなコンセプトです。本としての存在感を出していくためにいろいろ工夫いたので、発売してSNSなどで装丁についてコメントいただけているのを見ると、ちゃんと伝わったんだなぁとしみじみしますね」

 

実際に内容についてもお伝えしたいのですが、ぜひ『鉄道小説』でお確かめください。ネタバレないようにお伝えすると……5作品ともめっちゃいい! です(笑)。

 

日常の何気ない風景に「鉄道」がある

最後に、これから『鉄道小説』を読まれる読者に向けてみなさんからメッセージをいただきました。

 

上野山さん「共感ポイントがいっぱいある短編集。『人と鉄道の記憶』という割と日常的なテーマを扱っているので、多くの方にお楽しみいただける内容になっています。日常の何気ないところで“あっ、鉄道って身近にあったんだな〜”と感じていただけるはずです」

 

吉野さん「150年を記念して作られた本ですが、なんとなく“今”を切り取った身近な一冊になっています。どの作品も心地よい読後感を味わってもらえると思います。この記事を読んでいただいたのも何かのご縁ですから、ぜひ読んでみてください」

 

中村さん「ただただ自画自賛になっちゃうんですけど、 私自身が、最初の読者として感じた感動を、これから読んでいただくみなさんにも感じてもらえたらうれしいですね」

 

渡邉さん「20代の若手社員から『交通新聞社からこういう本が出てうれしい』って言われたこともうれしかったです。幅広い世代の方に楽しんでいただけると思うので、手に取って読む体験も含めて『鉄道小説』を味わってもらいたいです」

 

取材前につるたも読ませてもらったのですが、鉄道に乗りながら読みたい! そんなことを思った1冊でもありました。旅先に向かう車内、仕事帰りの車内、週末のちょっと浮かれた車内など、いろんなシチュエーションにも、寄り添ってくれるはずです。

 

改めて考えると鉄道ってすごく身近な乗り物ですよね! 撮り鉄さんや乗り鉄さんなどの鉄道好きな方だけでなく、普段の生活の中に鉄道があることを『鉄道小説』を読みながら実感しました。

 

また、鉄道開業150年を記念したプロジェクト内で進められていた「鉄文(てつぶん)」文学賞については、大賞と『旅の手帖』編集長賞受賞作が『旅の手帖1月号』(12月9日発売予定)にて、『散歩の達人』編集長賞受賞作が『散歩の達人1月号』(12月21日発売予定)にて、『鉄道ダイヤ情報』編集長賞受賞作が『鉄道ダイヤ情報1月号』(12月15日発売予定)にて、全文掲載される予定。『鉄道小説』と併せて、鉄道の文学作品を楽しんでみましょう。

 

【書籍情報】

鉄道小説

著:乗代雄介、温又柔、澤村伊智、滝口悠生、能町みね子
発行:交通新聞社

『JR時刻表』や『散歩の達人』でおなじみの交通新聞社が、鉄道開業150年の特別な年にお届けする、新しい『鉄道小説』です。5人の作家が描く“人と鉄道の記憶”についてのアンソロジー!

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