本・書籍
2023/2/14 21:30

一人だからこそ楽しめる。一人だからこそ癒やされる「温泉」−−『お一人さま逃亡温泉』

日本人は温泉が好きである。泊まった宿に温泉があると知ると、夕食前から入りたがり、さらに朝風呂にも浸かって堪能する。なぜこれほど温泉に入りたがるのか、その理由は、温泉への一人旅から透けて見えてくるかもしれない。

 

一人で温泉を目指す理由

先日、女一人で伊豆を旅した。一人で旅をする時は、素泊まりを選ぶ。駅周辺でお弁当やお菓子やドリンク、それから翌朝のパンを買い込んで部屋にこもるのが常である。

 

一人旅の理由は、同居している子どもと離れて一人になりたかったから。温泉付きの宿を選んだのは、疲れを癒したかったからだ。静かに過ごして、日頃のわちゃわちゃした暮らしから一歩離れたかったのだと思う。

 

人は、なぜ一人旅をするのだろう。なぜ一人になりたい時があるのだろう。その答のひとつが『お一人さま逃亡温泉』(みらいパブリッシング・刊)に書かれていた。この本の著者である加藤亜由子さんも疲れた時などに温泉に駆け込んでいる。

 

好きなことのために

本書では、加藤さんが単身で全国各地の温泉を訪れ、心ゆくまでその湯を堪能している。時には混浴や開放的な露天にも挑戦するなど、いい湯を味わうために突き進む様子は、読んでいて爽快ですらある。

 

彼女が心底温泉が好きなのだということは、本の熱量から伝わってくる。彼女が一人旅をするのは、温泉が好きだからなのだということがよくわかる。人は、好きなことのためなら一人で旅ができるのだ。

 

旅先での出会いも

一人旅といっても会話はある。宿の人や買い物での質問は楽しみのひとつだ。大浴場では湯船の中で話しかけられることもある。

 

本書でも、加藤さんが温泉について果敢に質問し、その知識を深めていく。この湯は飲んでも大丈夫か、顔にはたっぷりつけたほうがいいかなど、それぞれの湯でのリアルな聞き込みはとても参考になるし、読んでいると浸かってみたくてソワソワしてくる。

 

理想は連泊

伊豆に一泊した筆者が次に目指すのは、連泊である。子どもも成人したので、少し長いこと離れても大丈夫だろう。各地でワーケーションを楽しむ知人によると、旅先で仕事をしたいのなら3泊以上が適切だそうだ。1、2泊では移動時間ばかりがかかって集中しづらいという。

 

本書にも連泊に適した温泉宿の紹介があった。湯治に使われる宿などは、自炊設備も備えられていて、マイペースで過ごすことができそうだ。なかにはこたつが備えられている部屋もあり、実に落ち着けそうで魅力的だ。

 

忘れられない感覚

ひとたび湯に浸かると、その心地よさから、いつまでもそこで過ごしたくなる。本書では、朝風呂でうっとりしていたら帰りのバスに乗りそびれたエピソードも紹介されていた。それほどに去り難いのも、宿に温泉があるからなのだろう。

 

温泉の素晴らしさは、そこを離れてもじんわりと体が温かく、余韻が味わえることだ。それは大抵、帰宅後もしばらくは続いている。全身を癒してもらえた感覚、その心地良さが忘れがたく肌恋しいから、人は何度でも温泉を求めてしまうのだろう。

 

タイトルに「お一人さま」とあるように、カウンター席など、一人旅への心遣いがうれしい宿もいくつも紹介されているのがありがたい。一人で温泉を目指す人には助かる情報やレアスポットも紹介されていて、読んでおいて損はない一冊である。

 

【書籍紹介】

 

お一人さま逃亡温泉

著者:加藤亜由子
発行:みらいパブリッシング

仕事で、家で。空気と顔色を読みまくる。そんな気疲れ人間の皆サマ、温泉に逃亡しませんか。全方位に気を遣いまくる気疲れMAXの著者が、よどみもしがらみも洗い流す、心身スッキリ浄化の旅へとご案内!自由に、気取らず、お一人さま。「名湯こそ、心身を浄化してくれる。」をモットーに、ユニークな視点の11カテゴリで、33の温泉をドドーンとご紹介。

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