終わりの見えないウクライナ戦争。台湾に対する中国の示威行動。北朝鮮から相次いで発射されるミサイル。そしてスーダンの内戦。今の世界は、薄い氷の上で絶妙なバランスを取りながら存在しているような状態なのかもしれない。
地政学が最強である4つの理由
『地政学が最強の教養である』(田村耕太郎・著/SBクリエイティブ・刊)は、現代日本が置かれている状況のさまざまな位相の理解を助けてくれる一冊だ。ひとことで地政学と言っても、地理学的要素から始まって気象学、民族学、経済学、そしてもちろん政治学など含まれる要素はとても多い。
地政学が宿す包括性には、たとえば“学際的”なんていう言い方よりはるかに有機的な響きを感じる。著者の田村氏が「地政学が最強の教養である」と言う理由として、まず以下の4点を挙げておく。
*世界情勢の解像度が上がる
*長期未来予測の頼もしいツールとなる
*“教養”が身につく
*視座が変わる・相手の立場に立てる
自分なりのフィルターを作る
田村氏はまず、地政学を次のような言葉で位置付ける。
地政学は国際関係の背後にある中長期的な国の動きを読むアプローチといっていい。それに対して、「国際関係論」や「国際関係分析」は短期の国同士の動きに注目するアプローチと言える。
『地政学が最強の教養である』より引用
では、今の世の中で地政学的なアプローチが必要な理由とは何か。
国際情勢を常にフォローするニーズは高まり続ける一方だ。ただ、垂れ流されるニュースをフォローするだけでは情報に振り回されるばかりだ。その背景にある本質を理解すれば、今後の展開への解像度が上がり、主体的に準備ができる。
『地政学が最強の教養である』より引用
地政学とは、既存の情報に対する自分なりのフィルターをかけていく上でのきわめて有益な知識ということになるだろうか。
今の時代だからこその知見
章立てを見てみよう。
第1章 なぜ地政学が最強の教養なのか
第2章 「地政学の思考法」を授けよう
第3章 「島国」の地政学
第4章 「内陸×大国」の地政学
第5章 その他の地政学
第6章 未来の地政学
第7章 日本がやるべきことは
日本との関係性が高い国家から始まって、全世界がカバーされていく。読み進めて行くうちに、「日本はなぜこの国に援助をしているのか」「なぜこの国との関係が良くないのか」「この国と日本の過去と未来」といった疑問への的確な答えが浮き彫りになっていく。
リスクと変化
田村氏は、極東地域について以下のように述べている。
そして今後は我が国の隣国である、中国、台湾、朝鮮半島で地政学的リスクが高まる。わが国の輸入品の多くは台湾近辺を通過して届くが、台湾近辺で何かが起これば我が国は兵糧攻めにあうようなものだ。もし仮に台湾戦争となれば、台湾に近い先島諸島、米軍基地が集中する沖縄をはじめ、本土でも直接の戦争被害が起こる可能性がある。
『地政学が最強の教養である』より引用
今年に入ってから、日本のEEZに落下する北朝鮮のミサイルの数が驚異的レベルで増加している。ニュース番組でJアラートの精度が問題になったり、いざという時の避難場所となる地下鉄の入り口の場所が紹介されたりしているのを目の当たりにすると、極東地域の不安な状態を身近に感じざるを得ない。
この10年で、世界はものすごく変わった。特にこの3年はコロナ禍という100年に一度レベルのパンデミックが発生し、ChatGPTの開発によって社会のさまざまな側面に大きな変化が起きようとしている。おそらくほとんどの人が生まれて初めて体験する大きな変化の中を、どうやって生きて行けばいいのか。地政学の知識がある種の道標となるに違いない。
ロールプレイング感覚
田村氏が語る地政学の特徴を端的に示す一文を紹介しておく。
日本という島国を前提にロシアや中国やアメリカなど他国のことを考えるのではなく、相手の地理的条件の中に自分を置いてリーダーとして国家を運営するロールプレイングをやってみるのだ。
『地政学が最強の教養である』より引用
田村氏によれば、地政学の本質とは「自分がその国のトップだったらどう考えるか」さらに言うならは「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」に他ならない。
プーチン氏/習氏/バイデン氏の立場で考える
ロールプレイングゲームでもある地政学の本質とは、こういうことだ。
「あなたがプーチン氏だったら、北方領土の領有権をどう考えるか?」「あなたが習近平氏だったら、台湾への対応をどう考えるか?」「あなたがバイデン大統領だったら、今後のウクライナ戦争や台湾有事への対応をどう考えるか?」。そのためには相手の環境に身を置いて、その上で相手の行きつくであろう考えを予測し、それらへの対応を準備することこそが「地政学の本質」なのである。
『地政学が最強の教養である』より引用
絶えることなく変化し続ける数えきれない要素で満ちた現代では、決まった視点から見ているだけでは本質が見えない。地政学なんて、自分ごとではない? いや、そうではないはずだ。“最強の教養”を通して、世界と自分との関係をリアルに感じ、解き明かそう。
【書籍紹介】
地政学が最強の教養である
著者:田村耕太郎
発行:SBクリエイティブ
経済学・哲学・歴史学・宗教学・文化人類学・政治学・地理学。地政学を知ることは、“全学問の制覇”である!