こんにちは、書評家の卯月鮎です。最近は「テレビは古臭いメディア」などといわれていますが、皆さんはいかがでしょう? 私は子どものころ、テレビ禁止の家に育ったので、さらに古いメディアである本ばかり読んでいたらこうなりました(笑)。
新しい何かが生まれると、それまでのものは古いと言われてしまう。振り返ってみれば、昭和30年代には映画と、当時新興メディアであったテレビとの火花散る戦いがありました。今回紹介する新書は、その時代のドラマチックな激動が感じられる一冊です。
気鋭のメディア研究者が解説するテレビと映画の相克
『東京タワーとテレビ草創期の物語――映画黄金期に現れた伝説的ドラマ』(北浦寛之・著/ちくま新書)の著者は、開智国際大学国際教養学部准教授の北浦寛之さん。専門は映画学、メディア研究。著書に『テレビ成長期の日本映画――メディア間交渉のなかのドラマ』(名古屋大学出版会)があります。
テレビ時代を予見した伝説のドラマがあった!?
1958年に開業した東京タワー。東京有数の観光名所となり、数々の映像作品で東京のシンボルとして描かれてきました。本書は、東京タワーを題材にした初期のテレビドラマ『マンモスタワー』に着目し、草創期のテレビ産業に迫っています。
伝説のドラマと称される『マンモスタワー』は、1958年にラジオ東京テレビ(現在のTBS)が「日曜劇場」枠で放映した作品です。開業間近の東京タワーが象徴的なモチーフとして使われているうえ、内容も「映画とテレビの対立」を映画会社の側から描くというユニークなもの。現在動画サービスやDVDなどで見ることのできない『マンモスタワー』ですが、十分に語られないまま忘れ去られるのはもったいない、と著者の北浦さんは言います。
なぜこのようなドラマが生まれたのか。本書は当時のテレビ業界の成り立ちと、ドラマ『マンモスタワー』の詳細の二部構成となっています。
第1部は「テレビ時代の到来」。第1章「東京タワーの建設とその背景」では、産経新聞の創業者・前田久吉の総合電波塔を作るというビジョンがメインとなります。東京に3局あるテレビ局が立てた電波塔を集約し、産経新聞の広告塔にするという計画を立てた前田。その裏には読売新聞社・社主の正力松太郎との因縁があったそうです……。
今では当たり前にあるテレビ局がどのように力を持っていったのか。「テレビ」というフロンティアに魅せられた人々のギラギラとした熱が伝わってきます。
第2部はドラマ『マンモスタワー』の誕生秘話。映画とテレビが今では考えられないほどの対立状態にあった時代。ゴジラの如く、怪物的な影響力を持つテレビの象徴としての東京タワーに、動揺する映画会社の社員たち……。メディアの主役交代劇を予見した刺激的な内容が紹介され、ぜひともドラマ本編を見たくなりました。
それから半世紀、今度はテレビがネットメディアにその座を脅かされようとしています。今何が起きているのか、今後どのような勢力図になっていくのか、そんなことを考えるヒントにもなる一冊。テレビの象徴が東京タワーだったとしたら、ネットメディアの象徴は何なのでしょうか? HIKAKINさんの豪邸でしょうか(笑)。
【書籍紹介】
東京タワーとテレビ草創期の物語 映画黄金期に現れた伝説的ドラマ
著者:北浦寛之
発行:筑摩書房
東京のシンボルとして親しまれ、数多くの映画やドラマ作品に映し出されてきた東京タワー。本書は、東京タワーが登場する現存最古のテレビドラマ『マンモスタワー』をめぐる若きテレビ産業の奮闘に迫る。
この番組が放送された一九五八年は、映画産業が観客数の最高を記録した絶頂期である一方で、東京タワーが「史上最大の電波塔」として竣工した年でもあった。映像メディアの主役が映画からテレビへと転換していく時代において、その緊張関係を象徴する『マンモスタワー』のユニークな魅力を気鋭のメディア研究者が描き出す。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。