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2025/1/10 20:00

三井住友カードの「Suica潰し」にJRはどう対抗する? 2025年、知らないとソンするマネーの注目トレンド

クレジットカード・キャッシュレス決済に関する疑問や悩みに“クレカの鉄人”岩田昭男師範が答える連載企画。今回は2025年のキャッシュレス決済の注目トピックを取り上げ、業界の動きを岩田師範が解説します!

 

【第24回】2025年のキャッシュレス決済~ポイント還元の動向が知りたい!

 

【解説する人】岩田 昭男

クレジットカード・キャッシュレス決済分野の取材・研究に30年以上携わる“クレカのご意見番”。『あなたの生活をランクアップさせる プレミアムカード』(900円/マイナビムック)など著書・監修書多数。

 

【今月の悩める子羊】登志野 肇(としの はじめ)

会社勤めの傍ら、日々の“ポイ活”に励む37歳独身。クレジットカード3枚のほか、QRコード決済も各種利用し、ポイントがより多く貯まる手段を日々模索している。今回は2025年の“ポイ活”に役立つクレカ業界・ポイント業界の最新事情・展望について、岩田師範に話を聞きに来た。

 

(相談者の要望)

〇2025年に注目すべきクレカ~キャッシュレス決済のトピックを教えて

〇特に共通ポイント(ポイント経済圏)の動向が知りたい

〇生活に直結しそうな業界の動向があれば、詳しく教えて!

 

PayPayは既存ユーザーの囲い込みを本格化! 楽天ペイはみずほ銀行と提携しシェア拡大を狙う!!

師範 2025年のクレジットカードやキャッシュレス決済の動向を知りたいというのはおぬしか?

 

登志野 はい。特にポイント還元については “改悪”されるサービスと、三井住友カードのように利用シーンによって高還元率になるサービスが混在していると感じます。そんな業界で、今年はどんな動きがあるのかぜひ師範の見立てをお聞きしたいと思いまして。

 

師範 確かに2024年を振り返ると、残念ながら新規クレジットカードの発行は少なく、各ポイント経済圏はどちらかというと既存のユーザーを囲い込む動きが目立ったといえる。特に傾向が目立ったのがPayPay/ソフトバンクグループ。これまでもPayPayカード以外のクレジットカードからの引き落としではPayPayポイントが付かなかったが、2025年夏以降は新たな決済方法を導入。

 

他社クレジットカードを利用する場合は、手数料が利用者負担になる可能性が出てきた。そもそも、PayPayは2023年5月に他社クレジットカードの利用を停止すると発表。じゃが、ユーザーの反発の声を受けて停止時期を2025年1月に延期していたんじゃ。2024年12月には他社クレカの利用停止自体を撤回し、2025年夏以降は改めて他社クレカの登録手続きを行うことで、引き続き利用できるようになる。また、国際ブランドとの協議次第では、手数料が発生する可能性もあり、実質的な囲い込みが加速しそうじゃ。

 

また、PayPayと統合されるLINE Payは2024年10月に送金機能が終了し、2025年4月にLINE Payアプリが終了。LINE Payカードも2023年10月末にサービスを停止しており、2025年4月末にはLINE Payの全サービスが終了する。LINE Pay残高、LINE Payライト残高からPayPay残高への移行方法は今後案内される予定とはいえ、ユーザーの混乱は必至。こうした流れのなかでPayPayを離脱する者もある程度出るはずで、こうした動きが吉と出るか凶と出るか今後の動向に注目じゃ。

 

登志野 それに対して、ほかのQRコード決済会社はどんな動きを見せているのでしょうか?

 

師範 楽天ペイはSuicaや西友と提携するなど、引き続き「楽天ポイント経済圏」の拡大に積極的。2024年12月にはみずほ銀行との提携カードである「みずほ楽天カード」を発行した。ユーザーは利用状況に応じてATM手数料や振込手数料が優遇されるほか、みずほ銀行の会員制サービス「みずほマイレージクラブ」の優待特典も今後増える予定。みずほ銀行ユーザーは検討の価値ありじゃろう。

↑2024年12月に登場したみずほ楽天カード。楽天ポイントが貯まり、ATM利用料も無料だが、引き落とし口座はみずほ銀行の口座に限られる

 

登志野 このところ三井住友カードや三菱UFJカードが高ポイント還元で話題ですが、ここにきてみずほ銀行が楽天と連携を強めたのは大きいですね。

 

師範 特にみずほ銀行にとっては、これまでポイント経済圏に足掛かりがなかったため、今回の提携は大きな一歩といえるな。一方の楽天側も3大メガバンクのひとつと提携できたのは大きい。ただし楽天には楽天銀行があるため、みずほ銀行ユーザーに利する特典を積極的に打ち出しづらいのが悩みの種。これに限らず楽天グループは楽天カード、楽天ペイ、楽天Edyなどプレーヤーが多く、グループ内での協力関係を作るのが難しくなっているのが個人的には心配じゃ。

 

大型事業者を統合して日が浅いPontaポイントが今後の台風の目に?

登志野 ほかのポイント経済圏の動きはどうですか?

 

師範 dポイントを展開するNTTドコモは2024年11月から「dカード PLATINUM」の発行を開始。年会費2万9700円でポイント還元率最大20%、レストラン優待サービスやプライオリティ・パスなど上級カードならではの特典も充実した、ドコモ/dポイントのヘビーユーザーには魅力満点の1枚じゃ。対するKDDIも、Pontaポイント還元特典を強化した新料金プラン「auマネ活プラン+」で「au経済圏」ユーザーの囲い込みを強化してきておる。そんななかで特に注目なのは「Pontaポイント」じゃろう。ほかのポイント経済圏はどこもシステムがほぼ確立しているなか、Pontaポイント経済圏は最近au、ローソン、リクルート、三菱UFJニコスといった大型事業者同士がドッキングしたばかりで、いろいろな可能性が見え始めてきている。今後このグループがうまくまとまれば、驚異的な経済圏に発展するかもしれんぞ。

 

コロナ禍で大打撃を受けていたマイルの逆襲が始まる!

師範 2025年のクレカ~キャッシュレス決済業界では、ほかにもいくつかの大きな動きがある。まず、注目は航空マイルじゃな。コロナ禍で、ある意味インバウンドより痛手を受けたのがマイレージ。飛行機が飛ばないからマイルが貯まらず、すでにマイルを貯めている人も海外旅行ができず、マイルを交換して特典航空券を獲得する意味がなくなってしまった。2023年に新型コロナが“5類”に移行。国際旅客便数も徐々に回復し、海外旅行ニーズの増加への期待も高まっとる。そんな流れを後押しできるか注目なのが、ANAが2025年に発行する2種類のカードじゃ。

↑ANAが2025年に発行予定のカード「ANA JCB CARD FIRST」(左)と、「ANA JCB CARD Precious」(右)

 

まず、1月を目処に登場する「ANA JCB CARD FIRST」は従来発行されていた18歳~29歳の社会人を対象にした「ANA JCBカード ZERO」のリニューアル版で、年会費無料ながらマイル還元率が従来の0.5%から1%に倍増。入会・継続ボーナスとして3000マイルが付与される。さらに、年間利用額が税込100万円以上の会員は5000マイルがもらえ、仮に年間100万円使ったとすると合計1万8000マイルが貯まり、東京〜札幌間の往復1人ぶんの特典航空券に交換できる計算じゃ(レギュラーシーズンの予約の場合の例。必要マイル数は搭乗クラスやシーズンにより異なる)。搭乗時のボーナスマイルが10%ぶん付くのも“若きマイラー”には見逃せんポイントじゃの。

 

登志野 それは30歳未満の旅行好きなら絶対持っておくべきカードですね。私は対象外ですが(涙)。

 

師範 ただし、このカードは5年間限定で、その後は自動的にANA JCB一般カードに切り替わる。そしてもう1枚、3月頃に登場予定の「ANA JCB CARD Precious」は、現在「ANA JCBワイドゴールドカード」の所有者で年間ショッピング利用額が税込300万円以上の人が対象の招待制カード。年会費は3万9600円で、従来のゴールドカードにはないプライオリティ・パスが付帯されるほか、年間利用が300万円以上だとマイル還元率が1.2%(300万円未満なら1%)、入会・継続ボーナスで5000マイルが付与される。搭乗時のボーナスマイルが25%ぶん付与されるのはゴールドカードと同じじゃ。

 

登志野 若者向けの「ANA JCB CARD FIRST」は5年間限定ながら、特典的には招待制の「ANA JCB CARD Precious」より上。これで年会無料はおトク過ぎです!

 

師範 それほど航空会社にとって、“未来のお客様”である若者は「宝物」なのであろう。ちなみにコロナ禍以降、マイルを電子マネーとして使う動きが出てきたのも注目すべき変化で、特にANA Payはサービス開始から1年5か月で累計会員数100万人を突破。ANAとしても「瓢箪から駒」の利用者数激増で、これにより航空系の“デジタルマネー”が一般の生活のなかで中心的役割を担う可能性も出てきた。旅行の際にもお土産の購入に使うなどいろいろな価値を生み出すことができる。今後“旅行通貨”として独り立ちする可能性もあり、ワシは密かに注目しておるところじゃ。

 

クレジットカードのタッチ決済を使った「キャッシュレス乗車」が関西を中心に本格普及

登志野 航空マイル以外にも、キャッシュレス決済業界で大きな動きがあると先ほど師範はおっしゃってましたが、それはどんな動きでしょう?

 

師範 ひとつは関西を中心に進んでおるクレジットカードを使ったキャッシュレス乗車の本格普及。三井住友カードが主導・推進する公共交通機関向けタッチ決済サービス「stera transit」が去る10月から大阪メトロ、近鉄、阪急、阪神の4つの鉄道で運用を開始した。2021年より南海電鉄で国内初の実証実験が開始して以降、全国32都道府県130の公共交通機関で採用されてきたが、今回これに548駅が加わり、タッチ決済乗車が利用可能に。2025年末までに全国でシェア7割獲得を目指しとるそうじゃ。

 

登志野 キャッシュレス乗車って具体的にはどうやるんですか?

 

師範 その名の通り、タッチ決済対応のクレジットカードやスマホを端末にタッチして改札を通ることになる。紙のチケットやSuicaなどの交通系電子ICカードがなくても交通機関が利用でき、海外からの観光客には特に便利。大阪万博開催間近ということで、関西での普及が一足先に進みそうじゃ。ちなみに現在はVisa、JCBなどが対応済みで、Mastercardも順次対応が進んでおる。

 

登志野 ポイント還元の面でのメリットはどうなんですか?

 

師範 クレジットカードのタッチ決済での交通利用は、通常のクレカ決済と同様にポイントが貯まる。例えば楽天カードなら、乗車料金100円ごとに1ポイントが付く。SuicaやPASMOなどの交通系ICカードはチャージ時にポイントが貯まるカードが限られるため、これは多くの人にとってメリットとなるな。また、先日三井住友カードが京王電鉄でのタッチ決済乗車で利用額の半額をキャッシュバックするキャンペーンを行ったが、今後もこうしたキャンペーンが行われる可能性は大きい。そもそもワシから見ると、キャッシュレス乗車の本格化は三井住友による“Suica潰し”の感があるが、Suicaのような通勤・通学に最適化したデバイスはあっても良いし、むしろあるべきだとワシは思う。クレカなら買い物のほかに、決済システムが複雑な鉄道やバスにも使えるというが、果たして本当にそこまで手が回るのか、思わぬトラブルが起こりはしないか。いくら海外の交通機関はクレカ決済が席巻しているといっても、餅は餅屋。無理するなと言いたい。

 

登志野 でも、Suicaを運営するJR東日本なんか今後苦しい戦いを強いられそうですね。

 

師範 そうじゃな。実際、JR東日本が12月にSuicaの新戦略を発表したが、その中身を見ると完全にクレジットカードのタッチ決済に対抗したものになっていた。ゆくゆくは改札にタッチするのもやめて、無線で改札をスムーズに通れるようにするらしい。

 

登志野 改札をタッチなしで通れるのは便利だし未来を感じますね。

↑JR東日本は2024年12月にSuicaの刷新を発表。タッチなしで改札を通過できる「ウォークスルー改札」などの新サービス提供を予定しているという

 

師範 また、Suicaを買い物で利用する際にも上限2万円の規制をやめ、多額の買い物ができるようにする予定。いずれにせよ、交通分野での小手先の技術競争ではなく、より乗客のことを考えたいろいろなサービスを開発してほしい。旅行もただ単に目的地に移動するのでなく、例えば「行き先を教えられずに旅行が始まる」茶目っ気のあるツアーなど、ゲーム性があって個人的に面白いと思うぞ。 

 

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構成/佐伯尚子 文/平島憲一郎 監修/岩田昭男