「アバター」というと、SNSやゲームのプロフィールキャラクターのことを思い浮かべるかもしれませんが、実は最近、それとは別のアバターが注目されています。今回紹介する「アバター」は人間が遠隔から操作するロボット。コロナ禍で外出しにくい状況となったいま、新しいコミュニケーション手段としての役割が期待されています。
アバターにはウェアラブルタイプ、釣りタイプ、ハンドタイプ、二足歩行タイプなど、様々なタイプがあるのですが、本記事ではそのなかでも注目されているコミュニケーションに特化したものを紹介。ANAのグループ企業「アバターイン」が開発した「newme(ニューミー)」は、パソコンからアバターにアクセスするだけで、限りなく生身に近いコミュニケーションを取ることができるロボットです。
アバターインCEOの深堀 昂さんに話を聞き、その合理性と運用のイメージについてわかりやすく解説していただきました。
コミュニケーションに特化した「newme」の普及
ーーまず、「アバター」の概念から教えてください。
深堀 昂さん(以下、深堀) アバターとは人間が遠隔から操作するロボットのことで、映画「アバター」でジェームス・キャメロン監督が描いたようなものをイメージしていただければ良いと思います。アバターには様々なものがあり、ANAホールディングス時代にCEATEC (アジア最大級のIT技術とエレクトロニクスの国際展示会)に出展した際には、多岐にわたるアバターを出展しました。
深堀 これらのアバターはそれぞれ特性が異なりますが、ビジネスという意味でのニーズを考えると、newmeというモデルが最も汎用性があると考え、弊社ではnewmeでのサービス化を準備しているところです。コミュニケーションに特化したモデルで、見守りもできるし、ショッピングもできるし、リモートワークを進化させた形で使うことができます。
「したくない移動」「できない移動」をなくすことができる
ーーnewmeの使い方を教えてください。
深堀 例えば、新宿の家電量販店に家族と一緒に冷蔵庫を買いに行ったとします。カラーリングの確認はもちろんですが、WEBサイト通販ではなかなかわからない雰囲気、扉を開けた感じ、細部などを確認するためです。
しかし、新宿の店には目当ての色がなく、「錦糸町店ならありますよ」と言われたとします。しかし、新宿まで来たのに、改めて家族全員で錦糸町まで移動するのは面倒くさいので、「今日はヤメて別の日にしよう」と諦めてしまうことはあると思います。
こういうときnewmeが家電量販店全店舗にあれば、人間が各店に出向かなくても、実際の冷蔵庫の雰囲気を、店員さんを介して現場で見ているように確認できます。もちろん、目当ての冷蔵庫がたまたま新宿のお店で売り切れてしまっていた場合でも、newmeを介して瞬時に他店へ移動できます。そんな使い方ができるのがnewmeです。
深堀 我々がずっと考えていることは「したくない移動」「できない移動」をなくしたいということです。ANA時代、海外出張で1週間で5か国を回るということをよくやっていました。最初の海外出張はワクワクしたものの、毎月のように海外出張に行き、だんだん移動するのはキツく感じるようになりました。これは「したくない移動」です。
「できない移動」というのは、例えば新型コロナウイルス感染拡大のパンデミックの際、感染された方が大勢入院しているエリアには行けないですよね。あるいは無菌室に入院されている白血病のお子さんも、病気を宣告されたその日から隔離され、親兄弟とは会えなくなってしまいます。そういった「できない移動」であってもnewmeを使えば、十分なコミュニケーションを取ることができます。
アバターはZoomやスカイプよりもコミュニケーション性が高い
ーーZoomやスカイプなどを使ったオンラインミーティングの進化版のようですね。
深堀 でも、コミュニケーションツールとしてのレベルは全く違います。例えば、今のオンライン会議などは、あらかじめ「何時からオンライン会議やるよ」と言って、パソコンの前に参加者全員が座り、作業を止めて話をするという超集中型ですよね。無言は基本許されませんし、だから電話をしているのと同じなんですよ。
しかし、newmeの場合は、リラックスしながら使うことができます。自走できるので、移動しながら現場の雰囲気を読み取ることができますし、無言でウロウロしているだけでももちろん大丈夫です。
また、例えば会社でいじられポジションのAさんが、外部から社内のnewmeにアクセスしていたとします。そこで社内にいる先輩のBさんが、背後からAさんのアクセスしているnewme付属マイクをコンコンと叩き、わざとAさん側に大きな音をさせて「うわっ! やめてくださいよ(笑)」みたいに、軽い冗談をやりとりすることもできます。これはあくまでも冗談の一例ですが、このように人間同士が普段接している感じと変わらないコミュニケーションを図ることができます。
実際に「newme」を使ってみた!
アバター出社が当たり前になる時代がやってくる
ーーこう考えると、それこそnewmeを使っての「新しい働き方」も生まれそうですね。
深堀 そうです。弊社ではすでにアバターワークをしている人もいますが、慣れると本当に人間が出社しているような感じで接することができます。
ーー会社に1台のnewmeしかない場合、複数の誰かが、時間ごとに予約するなどして、使い分けていくイメージでしょうか。
深堀 まさにそうです。会議室の予約のような感じで、「私は明日9時から18時までアバターで出勤します」という予約をします。そうすると、別の誰かはアバター出社はできなくなるというイメージです。これもnewmeの利便性が浸透すれば、複数あったほうが良いわけですから一気に広まり台数が出ると思っています。特に今はリモートワークの普及が追い風となっていて、浸透は来年以降急速に進むだろうと考えています。
2021年以降、一気に広まる可能性を持つ
ーー深堀さんが中心となり、ANAホールディングスで進めてきたアバター事業ですが、そもそも航空会社がなぜこの事業を始めたのでしょうか。
深堀 それまでの航空会社はどこも「快適な空の旅をお楽しみください」ということを謳ってきたわけですが、今は働き方もライフスタイルも多様化しているので、むしろ、人それぞれに異なるライフスタイルや理想的な働き方を提案し、そのうえで本当に余暇を楽しむ際に、飛行機を使っていただく時代ではないかと私は考えていました。つまり、モビリティ事業だけだと他のエアライン、鉄道に勝てないのではないか。こういった提案を私がANAホールディングスにし、それを後押ししてくれたことは良かったと思います。
こういった点からANAホールディングスでアバター事業をスタートし、今年からグループ企業として独立したのが弊社ですが、前述の通り新型コロナウイルス感染拡大で航空事業は大変な打撃を受けました。ですので、アバター事業は注目を浴びることとなり、急速に進んでいくだろうと思っています。
ーー実際にnewmeを使っての事業はいつ頃からになりますか?
深堀 来年春を目指しています。月額数万円になると思いますが、newmeをお貸し出しし、使っていただくレンタルサービスです。「ペッパー」「アイロボット」は実際に購入しないとならず、結構な高額でした。その点、newmeは月額でお使いいただけるものですので、コスト的にも安く運用いただけると思います。
技術的に言えば、最初に言ったような様々なアバターは作れるんです。でも、ニーズが限られコストもかかるので、現時点ではコミュニケーションに特化させたnewmeの普及を進めているところです。使われるすべての方が「ロボット好き」というわけではないですし、その意味でもnewmeは多くの人に親しんでいただけるようなシンプルな外見になっています。
アバター全般に言えることは、ロボット自体に性格や特徴があるわけではなく、そのアバターにインした人の特徴がそのまま表れるということです。誰でもアバターに接続することができ、そのうえで人それぞれの個性が出るものです。ここがアバターの一番面白いところですので、ぜひ、newmeを生活や働き方に取り入れていただき、幅広い活用を行っていただければと思っています。
撮影/我妻慶一
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