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2021/8/5 17:45

日本唐揚協会・仕掛け人に聞いた。これからの時代のファンコミュニティの作り方!

一般社団法人日本唐揚協会(以下、唐揚協会)をご存知でしょうか。「唐揚げが一番好きで、唐揚げを食べると幸せになれる」人たちによって組織化されている団体で、当初はファンコミュニティだったものの、現在の会員数は18万人オーバー。大手食品メーカーも無視することができない組織となり、「唐揚げ」というメニューの再評価、再認識を浸透させる世界一大きな唐揚団体に成長しました。

 

他方、現在のSNSでは、ファンコミュニティの細分化が進んでいますが、日本唐揚協会ほど規模のあるコミュニティは、なかなか目にしません。そこで、今回は日本唐揚協会の仕掛け人で、現在もなお会長兼理事長を務めるやすひさ てっぺいさんに「これからの時代のファンコミュニティの作り方」をテーマに、そのツボや推測を聞いてきました。

↑一般社団法人日本唐揚協会・会長兼理事長のやすひさ てっぺいさん。今回はやすひささんが週の半分ほどを過ごしているという小田原・国府津にある「海辺のキッチンラボ」を訪ねました

 

ファンコミュニティ成功への大前提は「やらないことを決める」

--まず、唐揚協会の成り立ちと安久さんの略歴からお聞かせください。

 

やすひさ てっぺいさん(以下、やすひさ):もともと僕は1996年にITで起業をして経営を行っていたのですが、唐揚げ好きが高じて2008年に唐揚協会を立ち上げました。と言っても、2008年当初は「こんなことを始めます」と名刺を配っていただけなので、本格稼働したのは翌年の2009年7月からです。この年の年末から翌年明けまでに会員が1000人を超えてからは、この活動が単なるファンコミュニティの域に収まらなくなっていきました。

 

スポンサー企業がついてくださり、様々なイベントの実施や、唐揚げ商品のプロデュースをさせていただいたりしながら現在の会員18万人に行きついたという経緯になります。

 

--ということはわずか1年前後で、会員数が1000人となり、それから12〜13年ほどで18万人にも膨れ上がったということになりますよね。ここまでの成長は事前に想定されていたのでしょうか。

 

やすひさ:いや、ここまでの規模になるとは考えていませんでしたよ。活動初期は「まぁ1000人を超えたら、何かやれることが広がるだろうな」「勝ちだな」と考えていた程度でした。例えばビジネスだと、ある程度期日を切って、そこまでに達成できなかったら諦めるとか軌道修正をしたりしますよね。でも、そういったことをせず、会員になりたい方からの会費も取りませんでした。振り返ってみると、そのスタンスがとても大事なことだったんだと感じます。

 

--というと?

 

やすひさ:「唐揚げ好き」の人たちに入っていただくのに、「唐揚げ好きですよね? ぜひ入ってください。それとお金もください」って言われたら、僕はイヤなので。「好き」だけで、お金を取られるのはおかしいと思って、会員費を取りませんでした。

 

それと団体名を「日本唐揚協会」と、いかにもそれっぽい名前にしました。同じ唐揚げ好きの人たちが集まる団体名なら「唐揚げファンクラブ」とかでも良かったですけど、なんとなく「唐揚げのことならなんでも知っていそうな雰囲気」を漂わせたことが、多くの方にご参加いただけるようになった要因の一つだと思います。

↑「やりたくないこと」を決めた上で、唐揚協会が掲げることになった壮大なテーマ

 

2011年を境に大きく変わった「価値観」が唐揚協会を後押し

--現在のSNSでは、ファンコミュニティの細分化が進んでいますが、協会を立ち上げた2008年は、SNSが一般的ではない時代でした。

 

やすひさ:おっしゃる通りです。最初は「『唐揚げ好き』が集まる、よく分からない団体を立ち上げるなんて」と結構バカにもされました(笑)。

 

でも、この後の2011年に、甚大な被害を受けた東日本大震災が起きましたよね。実はこの震災の経験を境に人々の価値観は大きく変わったと思っています。2011年の震災では人の命だけでなく物質的な被害も目にしてからは、物質的なものよりもずっと価値があるものとして「人との繋がり」「本当に好きなものとは何か」に重要性がシフトしていったことが今に繋がっていると思っています。

 

つまり唐揚協会の取り組みも、この時代の変化にマッチしたのではないかなと。その点では「早かった」とも言えますが、あくまでも「時代が変わる」瞬間が意外と早く訪れたということでもあったと思います。

 

2011年、ちょうどローソンのからあげクンが25周年を迎える年だったのですが、「自粛ムードで何もできない」となっていたところにローソンが日本唐揚協会とコラボして、からあげクンのプロモーションを行いました。すると、それが爆当たりして前年対比1.8倍にまで売り上げが伸びたそうです。これだけの影響力は僕も想定していませんでしたが、これくらいを境に唐揚協会が本格的に唐揚げ好きの仲間が増え、ビジネスに繋がっていきました。

↑唐揚協会が毎年主催する「からあげグランプリ」。全国の唐揚店さんのうち、どこが一番か競い合うもので、今年(第12回)は4月に授賞式を開催。「スーパー総菜部門」と「唐揚店舗11部門」の各部門別に金賞・最高金賞が贈られました

 

「新しい技術だからって受け入れられる仕組みになる」というのはもう無理

--2011年、震災前の1月ではありましたが、この年より「からあげグランプリ」という「日本で一番うまい唐揚げ店はどこか」を競い合うイベントも主宰されるようになります。現在まで12回開催していますが、これは本来の目的の他にも何か計算があったのでしょうか。

 

やすひさ:ありました。「からあげグランプリ」を通して因果のようなものを忍ばせました(笑)。唐揚協会としては会員を増やしたいし、その数が組織の強みです。その一方「からあげグランプリ」に出場し、受賞を目指すお店は、自店の常連さんなどに投票してほしいわけです。さらに会員さんも投票するのはやぶさかじゃない。

 

この3点の関係性の中で生まれたアイデアが「会員の方は5倍の投票券をプレゼントします」というものでした。こうすると、受賞したいお店の方は自店のお客さんに唐揚協会の会員になっていただくようプッシュしてくれます。また、常連さんも、お店を推したいし熱心に参加してくれると思います。このことで唐揚協会の取り組みも知ってもらえるし、結果的に会員数も増える。これがさらに広まっていけば、グランプリの価値も上がっていくだろうし、より盛り上がることで、店舗同士が切磋琢磨し合う中で、それぞれの商品である唐揚げそのものもおいしくなるのではないかなと思っています。

↑唐揚協会の会員「カラアゲニスト」認定証の例

 

↑「カラアゲニスト」になると、協会発行の名刺も

 

↑ジャケットの襟元にさらりと付ける「カラアゲニスト」協会章

 

コミュニティ構築に際し「お金」「即金性」を考えたらまずうまくいかない

--Facebookなどでは結構盛んになっているファンコミュニティ、やすひささんはどう見ていらっしゃいますか?

 

やすひさ:すごい楽になったなと思いました。SNSを使えば瞬時に広がっていくこともあるわけで、その点は本当に羨ましいです。

 

--唐揚協会ほどの規模感に成長したファンコミュニティって少ないですよね。

 

やすひさ:そうかもしれないけど、ただちゃんと運営すれば「唐揚協会なんて鼻クソみたいな存在になる」と思うものも存在しているんですよ。その一つが「全日本もう帰りたい協会」。「会社に行きたくなくて帰りたい」「学校からすぐに帰りたい」ことをツイートする団体があって爆盛り上がりした時期がありました。これをガチで運営したら、もしかしたら100万人規模になるかもしれないと思います。きちんと組織化して準備、段取りを踏める人さえいれば、すごいコミュニティに成長しそうな気がします。

 

--これは想像ですが、唐揚協会の成長ぶりから、やすひささんは特にビジネス前提でのコミュニティの作り方の相談を受けることも多いのではないかと思います。とはいえ、個人的には最初に「お金」のことを考えると、うまくいかないような気もします。

 

やすひさ:絶対そうです。最初に「お金」のことを考えていたら、コミュニティ運営はできないし、まず即金性を考えるなら別のことを考えたほうが良いですよ。あくまでも「好きでやる」ことでないと続かないと思います。

 

唐揚協会は誰かに命令されて始めたわけでもなく、無理やり始めたわけでもないです。要は「自分が楽しい」がために始めているわけですから、そこにかかる労力は、むしろ娯楽なんですよ。人から見たらバカみたいに見えるかもしれないし、とんでもない労力で大変そうに見えるかもしれないけど、自分としては「好きでやっているだけ」。だからこそ「好き」ってことが持つ力って、マジですごいものだと思っています。

↑やすひささんが本拠地を構える「海辺のキッチンラボ」玄関。やすひささんの著書や関連商品などが陳列されています

 

↑「海辺のキッチンラボ」のキッチンには、唐揚げ調理動画撮影用のカメラとパソコンが設置されていました

 

↑「海辺のキッチンラボ」やすひささんのワークスペース。パソコンモニタが4台ありますが、全く無駄のないデスクでした

 

コロナ禍以降、人々の価値観はどう変わっていくか?

--今はコロナ禍ですが、これから人々の価値観はどう変わっていくと思われますか?

 

やすひさ:僕自身もコロナ禍以降、こっち(小田原・国府津)に拠点を移してテレワーク、オンライン会議とかを行っていますけど、このことで「近くても遠い」人間関係が普通になり、より自分の内面に向いた世界になっていくんじゃないかと思っています。

 

これまでも「自分の価値は重要」とされてきましたが、同時に「他人との関係性も大事」とされていました。でも、今までのようなフェイスtoフェイス、スキンシップ、直接的コミュニケーションである「他人との関係性」はとても弱まっていく10年になるかもしれないです。

 

--2011年を境に、「お金や物質」から「人との繋がり」に価値観がシフトしたところが、「人との繋がり」は薄まるということですか?

 

やすひさ そうです。つまり関係性のパラダイムシフトなんですね。2011年を境にした「物質」から「精神」へのシフトはいきなり起きたことでしたが、これからもメチャクチャ距離の近い関係性から、一気に離れた流れは加速すると思います。だからこそ自分自身に向き合って、自分と他人との関係にも向き合っていく時代になっていくでしょう。

 

--こういった変化の中でも、例えばファンコミュニティはなくならないと言えますか?

 

やすひさ:はい。「人間関係が遠くなった」「自分自身と向き合う」ことを前提にすれば、また違う方法でのコミュニティ、繋がりは構築できると思います。

↑時代が変わろうとも、唐揚協会はさらに進化していくと思われます!

 

やすひささんのお話は、誰でもわかる言葉である一方「言われてみれば確かに!」と膝を打つ話ばかりで、これまでの熟考を経て生まれた考えのように思いました。

 

ファンコミュニティは、対象分野が「好きであること」が最優先。しかし「好きのままではダメ」でもあります。ファンコミュニティを構築されたい方、是非今回のやすひささんのお話を参考に、実践されてみてはいかがでしょうか。

 

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