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2024/3/5 10:30

“ビル向けのiOS”が生まれる!? パナソニックと福岡地所が進めるビルOSの実証実験を取材

オフィスや商業施設などが入る都会のビルは、現代人の生活から切り離せない存在です。この記事でとりあげるのは、その建物を裏で支えるビル管理。ビルの裏側は普段表に出ない部分ですが、ここでいま、静かな革新が始まろうとしています。

 

その革新の正体が「ビルOS」。私たちにとって身近なOSといえばWindowsやMac、iOSやAndroidですが、これがあるおかげで、PCやスマホで各種のアプリを使うことができています。ビルOSでは建物にその概念を導入しようというシステムです。これが実現すれば、スマホをカスタマイズするかのごとく、建物のシステムを組み立てられるようになります。

 

そんなビルOSについて、現在、パナソニックと福岡地所が共同で実証実験を進めています。ビルOSは、私たちにどんなメリットをもたらすのか。両者に取材しました。

 

ビル管理に、iPhone登場級の革新を起こす?

従来のビル管理では、ビルオートメーションシステム(BAS)というものを通して、中央で一括管理を行なっていました。空調や照明などの各システムを連携させることは可能ですが、多種多様なメーカーの製品を連動させるのは大変で、ビルごとにオリジナルのシステムを作る必要がありました。

↑従来のビル管理システムのイメージ。各方面を中央から一括管理することはできていますが、システム間の連動性は強くありませんでした

 

ビルOSは、それらの連動を容易にし、幅を広げるシステムです。難しい話になるので例えを出します。

 

私たちはiOSやAndroidといったOSが入ったスマホ上で、様々なアプリを使っています。多様なアプリが動作するのは、その基盤となっているOSがあってこそ。統一されたOSがあるおかげで、アプリ間での情報のやりとりが容易になり、カメラアプリで撮った写真を別のアプリで編集するといったような連動ができるのです。

 

iOSやAndroidはスマホやタブレット向けのOSですが、ビルOSはその名の通りビル向けのOSです。照明や空調、セキュリティ、あるいはスタッフの人員管理などのビルを構成する様々なシステムが、同じOSの上で動作するようになります。

 

従来のBASでは、ビルごとにオリジナルのシステムを構築する必要がありましたが、ビルOSならその必要がありません。iOSに対応したアプリが全てのiOS搭載端末で動作するように、一度構成したシステムを容易に複製できます。しかもビルOSは、各種設備が通信機能に対応してさえいれば、既築の建物にも導入可能。これが普及すれば、全国のビルのスマート化が一気に進むポテンシャルがあるのです。

 

iOSやAndroidは、携帯電話をスマート化し、世界に大きな革新を起こしました。ビルOSは、それと同様にビルをスマート化させる存在です。

 

↑ビルOS導入後のイメージ。各システムがOSを基盤にして、横でもつながります

 

とはいったものの、ビルOSの開発は、まだ草創期にあります。どのようなアプリがあれば利便性が高まるのか、精査していく段階です。そこで、ビルOSを開発するパナソニックと、たくさんのビルを運営する福岡地所が連携し、ビルOSの有効性を確かめて開発につなげるための実証実験を始めました。

 

ビルOSの効果はいかほど? パナソニックと福岡地所が実証実験を実施

実証実験は、福岡地所が運営するビルに、パナソニックが開発したシステムを導入する形で行われています。その舞台は、福岡市の中心部に位置する天神ビジネスセンター。天神駅直結のこのビルには、地下に飲食店、1階に商業施設、上階に多数の企業オフィスが入居しています。

↑天神ビジネスセンター。2021年9月に竣工した新しい建物です

 

↑ビル地下の飲食店街入り口

 

今回の実証実験は、ビルの設備管理と清掃に携わるスタッフ、エレベーターの動きに焦点を当てています。管理スタッフ、清掃作業員の合計40名と、エレベーターに小型のビーコンを装着。人やエレベーターがどの階にいるのか常時把握し、その稼働状況を可視化できるようにしました。これにより、人やエレベーターが非効率な動きをしていないか、稼働が多いのはどの時間帯かなどのデータを測り、管理を効率化するためのシステム開発に繋げます。

↑ビルスタッフが装着するビーコン(中央の白い物体)。これと同じものが、スタッフ用エレベーターのなかにも設置されます

 

↑各階のバックヤードには、ビーコンからの電波を受信する装置が置かれていました

 

↑実験で明らかになった、ある1週間のエレベーター稼働状況。月曜日火曜日の午前10時前後に、稼働が集中しています

 

これだけ読むとかなり初歩的な内容に思えるかもしれませんが、この実験に福岡地所のアドバイザーとして携わる荒井真成さんによると、ビルOSを実際のビルに導入して効果を測る事例は、これまであまりなかったものだそうです。

↑福岡地所アドバイザーの荒井さん。荒井さんが福岡地所に行った提案が、今回の実証実験を行うきっかけになったといいます

 

ビルOSの普及に向けての大きな障壁のひとつが、その効果がはっきりと証明されていないことでした。この実証実験は、その壁を少しずつ取り払っていこうという試みです。

 

2026年度の実装を目指して

福岡地所の担当者は「2026年度に、実建物へビルOSを実装したい」と語っています。まずは今回の実験で有効性や課題を検証し、2024年度に具体的なシステム案の検討、2025年にはビルOS上で利用できるアプリの開発コンテストを、外部事業者も巻き込んで開催するというマイルストーンを設定しているそうです。

 

実証実験の発表会で、荒井さんは「将来的には、エリア内にある複数のビルを同一のOSで管理し、そのエリアの魅力を向上させる取り組みをしたい」と夢を述べました。今回の実験は小さな一歩ですが、その先に広がる夢は非常に大きなものなのです。