クレジットカードやキャッシュレス決済にまつわる疑問や悩みに“クレカの鉄人”岩田昭男師範が答える連載企画。今回は、キャッシュレス決済が普及してきたいま、改めて注目を浴び始めているATM(現金自動預け払い機)の最新情報を岩田師範が解説します!
【第16回】ATMの最新事情を詳しく知りたい!
【解説する人】岩田 昭男
クレジットカード分野の取材・研究に30年以上携わる、同分野のオピニオンリーダー。『あなたの生活をランクアップさせる プレミアムカード』(900円/マイナビムック)など著書・監修書多数。
【今月の悩める子羊】長都 泰雪(おさつ やすゆき)
妻と娘の3人で暮らす38歳会社員。近年キャッシュレスでの買い物がメインになってきたとはいえ、現金は常に2~3万円を財布に入れている。ところが普段利用している銀行のATMが突然撤去され、手数料無料での現金引き出しに手間取る事態に。そこで最近のATM事情とATMをより便利に活用する方法を教わるべく、道場の門を叩いた。
(相談者の要望)
〇最新のATM事情を知りたい
〇手軽に手数料無料でATMを利用する方法はないか教えてほしい
〇コンビニのATMをよりおトクかつ便利に利用する方法も知りたい
維持管理費が負担になり、銀行はATMを持て余し気味
師範 いつも使っていた銀行ATMがなくなって困っとるのはおぬしか。
長都 はい。自宅や会社の近くにあった私がよく使う銀行のATMが全滅しちゃって。ほかの銀行やコンビニのATMを使うと手数料がかかるんで、あまり使いたくないんです。
師範 なるほど。確かに近年、銀行ATMは減少の一途を辿っとるな。元々ATM(現金自動預け払い機)は銀行の所有物じゃったが、キャッシュレス決済の普及とともに利用頻度が減り、1台あたり月30万円とも言われる維持管理費が負担になっとる。正直どの銀行も、ATMを持て余しとる状態じゃ。
長都 キャッシュレス払いは現金引き出しの頻度が減るし余計な小銭もたまらなくて便利だと思っていましたが、銀行にとっては逆に不都合なことも起きていたんですね。
コンビニATMの進化が止まらない! 入出金でポイントが貯まるサービスも
師範 給料振り込みの普及による窓口の混雑と行員の業務負担軽減のために広まったATMが、ネットバンキングやキャッシュレス決済の普及でその存在意義を無くしつつあるのは感慨深いが、ともあれ銀行は、ATMを「できるだけやめたい」「お金を払ってでも下請けに出したい」と考えとるようじゃ。
そこで注目を集めとるのがコンビニATM。コンビニ的にも店内でお金が引き出されればそのまま買い物につながるということで、両者の思惑が一致。銀行ATMからコンビニATMへの移行が急激に進んでおる。コンビニATMで一番普及しているのはセブン銀行のATMで国内設置台数は約2万7000台にのぼる。
セブン銀行はコンビニATMを最初期に始めた銀行のひとつで、本体を小型化しつつICカード対応など機能を積極的にアップデート。コンビニATM普及の立役者となった。スマホがあればキャッシュカードなしで取引が可能になったのも画期的じゃったな。
長都 急に現金が必要なときにスマホだけで引き出せるのは確かにすごく便利です。
師範 スマホ決済アプリや交通系電子マネーへの現金チャージにも対応。ちなみにセブン銀行ATMは海外送金に対応しており、日本で働く外国人労働者が母国の家族に送金するのにも役立っとるそうじゃ。
長都 最近ではコンビニATMで提携銀行の口座開設や住所変更の手続きなんかもできるみたいですね。
師範 また、直近ではローソン銀行が今年1月から新型ATMの導入を開始。7月から流通予定の新紙幣に対応するほか、PayPayなどスマホ決済アプリに加えて、NFCにも対応することでSuicaなどの交通系電子マネーや楽天Edyなどの電子マネーへの現金チャージが可能になる。
また、ATMで入出金をするだけでPontaポイントが貯まるサービスでは、スマホのPontaアプリの読み取りが可能になるなど、利便性が大幅にアップした。
長都 ATM利用でポイントが貯まるとは魅力的ですね。
師範 とは言っても、毎月最大10ポイントだけじゃがな。
長都 でもまあ「ちりつも」だし、あるに越したことはありません。
師範 ファミリーマートにはイートネットATMのほか、一部店舗にはゆうちょATMが設置されとるな。イートネットATMはコンビニではファミリーマートのほかデイリーヤマザキなど、さらにスーパーやドンキホーテなどにも設置。どのATMもほぼすべての金融機関のキャッシュカードに対応し、現金が引き出せないということはほぼない。
コンビニATMを手数料無料で利用する方法とは?
長都 なるほど。それだと今後はコンビニATMに頼らざるを得ないですね。でも、個人的には手数料がかかるのがイヤで……。
師範 手数料を無料にする方法もないわけではないぞ。一番手っ取り早いのはコンビニ系の銀行口座を作ること。例えば、セブン銀行ATMも同行の口座があれば7時~19時の引き出し手数料が無料で、預け入れも24時間無料じゃ。
ローソン銀行の口座なら、ローソン銀行ATMの預け入れ/引き出しは7時〜19時まで手数料無料。ファミリーマートに設置のゆうちょATMはゆうちょ銀行の口座があれば平日の8時45分~18時と土曜日の9時~14時は預け入れ/引き出し無料となる。
長都 新たに口座を作ったりそこに定期的に入金するのは面倒だけど、確かに自分がよく使うコンビニ系の銀行口座があれば、時間帯に制限はあれど、手数料を気にせず現金が引き出せますね。
師範 さらに、他の銀行口座でも場合によっては手数料無料で現金引き出しは可能じゃ。三井住友銀行のキャッシュカードは、セブン銀行ATMやローソン銀行ATMなどで毎月25・26日8時45分~18時の預け入れ/引き出し手数料が無料(25・26日が土日祝日と重なる場合、25日はその前営業日、26日はその翌営業日が対象)。
三菱UFJ銀行のキャッシュカードは毎月25日と月末の8時45分~18時の預け入れ/引き出し手数料が無料となる(25日・月末が土日祝日・12/31など銀行休業日の場合はその前営業日が対象)。
一方、みずほ銀行の「みずほマイレージクラブ」会員なら、特典ステージに応じてイーネットATMでの利用手数料や時間外手数料が月に1~3回無料に。
長都 へえ、それはチェックする価値ありますね。それに、現在は私の買い物もキャッシュレスがメイン。現金で払う額はそんなに多くないから、現金引き出しも実は月に1回でなんとかなる。大手銀行キャッシュカードでのコンビニATMの現金引き出し無料の日があるのは、案外有益なのかもしれません。
今後はコンビニATMが社会の「ターミナル」として不可欠な存在に!
師範 日本でもキャッシュレス決済が本格化。それにより、ATMの役割が終わりつつあるように見えるかもしれんが、実際はそうではなく、「ATMの役割が大きく変わってきた」と見るのが正しい。
例えば、Suicaなどの交通系電子マネーに現金をチャージできるのは、JRや私鉄などの駅に設置してあるチャージ機の役割を代行するもの。ネットバンキングや、スマホアプリのアカウントと口座の情報の紐付けに利用できる「ATM認証コード」の発行サービスは、キャッシュレス決済のセキュリティ向上に寄与しておる。
最近では消費者金融の返済もコンビニATMでできるし、海外送金への利用や、行政サービスとの連携にも使われるなど、コンビニATMでできることはどんどん増えておる。今後はコンビニATMがひとつの「ターミナル」となり、社会インフラの一部として不可欠な存在になっていくじゃろう。
長都 でも社会的意義があるとしても企業としてメリットがないと続けていくのは難しいのでは?
師範 その点で注目なのがローソン銀行ATMじゃ。現金の入出金でPontaポイントが貯まったり、PayPayやLINE Payなどスマホ決済アプリに加えて、新型ATMでは交通系電子マネーへの現金チャージが可能になった。現金の入出金でPontaポイントが貯まることで、ATMがPonta経済圏の一部になることも十分に考えられる。
一方、セブン銀行ATMには7iDに口座を登録することで、ATMの利用時に5マイルが貯まるサービスもある(月3回まで)。ほかにも、ドコモの金融事業進出の可能性もあるなど、各社の今後の動向が大いに気になるところじゃ。
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構成/佐伯尚子 文/平島憲一郎 監修/岩田昭男