数多く販売されている牛乳のなかで、平均価格帯よりも約3~4割ほど高いにも関わらず、「明治おいしい牛乳」はトップシェアを誇ります。その味を一度口にすると、「他の牛乳では物足りなくなる」という評判。2016年には新パッケージ(九州で先行販売)となり、さらに他商品と差別化を図ってっているように映ります。この「明治おいしい牛乳」にはどんな秘密があるのでしょうか。明治の松浦 永さん、石井裕一郎さんに話を聞きました。
「おいしい」は商標登録できなかったが、自信をもってあえてこの名前に!
――明治の牛乳開発のもともとの始まりはいつごろのことだったのでしょうか?
松浦 永さん(以下:松浦) 当社が「明治牛乳」のブランド名で販売を始めたのが1928年ですので、ちょうどいまから90年前のことです。宅配で届けているような、壜の牛乳が始まりでした。牛乳は、原料に生乳を100%使用し、その生乳を殺菌しただけの、加工度が低い商品なので、どこのメーカーが作っても差を出しにくかったんです。なのでせいぜい「脂肪分の高い生乳を使う」「どこどこ産の生乳を使う」といったところでしか差別化ができませんでした。
そんな中、「明治おいしい牛乳」は1989年に「もっと牛乳は美味しくなるはずだ」と研究を重ねて、2001年にようやくテスト発売に辿りつきました。
――12年もの時間を研究と開発に費やすということは、よくあることなのでしょうか?
石井裕一郎さん(以下:石井) いえ、あまりないと思います。長いです。普通の飲料商品の開発で言うと、「こういうニーズがある」「こういうトレンドがある」といったところから開発をスタートして、1~2年で商品化されることが多いですから。
松浦 そういう意味で「明治おいしい牛乳」は、当社の牛乳の知見を生かしながら、「どうやったら違いが出せるだろうか」「全国に流通させるにあたって、どうしたら鮮度を維持し続け、お客さまにお届けすることが出来るだろうか」と突き詰めていったので、研究のスタートから商品化まで12年もの時間がかかったのです。
――具体的な開発のポイントは何だったのでしょうか?
石井 当時の開発チームは試行錯誤の中で「牛乳嫌いな人が牛乳を嫌う原因である乳臭さを解消すればよいのでは?」という仮説に至りました。すぐには解決方法が見つからずそれから数年が経過してやっと「牛乳の中に溶けている酸素が加熱殺菌する工程で酸化してしまい、おいしさを損ねているのでは?」という次の仮説が生まれたのです。これをもとに技術開発を進め、「牛乳中の溶存酸素を低減した状態で加熱殺菌を行うことでおいしさを向上させる製法」を確立したのです。この製法を当社では「ナチュラルテイスト製法」と呼んでいます。
――この堂々とした商品名は、どうやって決まったのですか?
松浦 数百の候補のなかから、「明治おいしい牛乳」に決まりました。「おいしい」という言葉は商標登録が出来なくて、ほかにも似たような名前の商品が出せてしまう状況だったようですが、それをわかっていながらも味への自信があったので、あえてシンプルに「おいしさ」を伝えやすくするために、この名前になりました。
新パッケージで「明治おいしい牛乳」がよりおいしくなった理由
――2016年には、新パッケージが登場し話題になりました。今年3月からは全国で新パッケージが販売されるそうですが、実際に味を比べてみると、コクや後味も格段に良くなった印象です。
松浦 「おいしさ」を追求して発売して以降も、「どうしたら、もっとおいしくお届けすることが出来るだろうか」という研究を重ねてきました。この試行錯誤はずっと続けていたのですが、さらに美味しく飲んでいただくために、容器にこだわることにしたのです。
さきほど説明した「ナチュラルテイスト製法」で作った牛乳のおいしさをそのままお届けするために、テトラパックさんと共同で研究を重ね、独自のパッケージを実現しました。
石井 例えば、コンビニやスーパーでは明るい棚に商品が陳列されていますが、ああいった場で2~3日間光に照らされていると、どうしても酸化して風味が落ちてしまいます。それを避けるためにも遮光性の高い、今回の新パッケージを採用したのです。また、キャップ付き容器なので、開封するまで中身が直接空気と触れにくくなっています。
松浦 あと、牛乳は通常3~4日かけて飲みきる人が多いと思うのですが、開封後はたとえ数日でも時間の経過とともに牛乳の「新鮮なおいしさ」が失われていきます。新容器はキャップ付きでしっかりリキャップできるので、開封後も「新鮮なおいしさ」をしっかり保存します。
新しい容器によって、酸化や劣化をより防げることになったというわけです。
――この新パッケージは、カタチも独特ですね。天面の部分が斜めになっていたり……。
松浦 当社ではこのパッケージを「おいしいパック」と呼んでいますけれど、天面の部分が斜めなのは、注ぎやすさがまず一番の理由ですね。
新パッケージをゴミに出す際は、従来よりもむしろ開けやすくなっていた!
――新パッケージはリサイクルの仕方も独特ですね。これは最初、戸惑いました。
松浦 おっしゃる通り、新パッケージは「リサイクル、どうしたらいいの?」という声を多くいただいています。
特に多かったご質問がキャップを取った後の注ぎ口です。まだご存知でない方も多いのですが、これはポリエチレンという、従来のゲーブルトップ容器でも表面コート層として使われている素材で出来ているので、つけたままで紙パックとしてリサイクルに出すことができるのです。最終的には再生紙メーカーの工場で分離されて紙部分は再生紙に、ポリエチレンは固形燃料等に生まれ変わります。
石井 あとはリサイクルする際の簡単なパッケージの開き方ですね。頑丈そうに見えるパッケージですので、「ハサミを使わないと開かないと思われる方が多いのですが、実は手で開けるんです。パッケージやホームページの説明を見て頂くとわかるのですが、パッケージを逆さまにして底の部分の耳を開いて、ぐっと指で押すと底が裂けて開くのです。一度コツがわかると案外簡単なんですよ。
松浦 私ごとですが、うちは飲んで洗って乾かして、10個くらいのパッケージを溜めているのですが、「今日はやるぞ」というときに、子どもと一緒にパッケージを開く競争をしています(笑)。「どっちが早く開けることができるか」という。
価格は高めなのに、トップシェアになった理由とは?
――ところで、新パッケージの「明治おいしい牛乳」、スーパーなどでもあまり値引きされるのを見かけません。これはどうしてなのでしょうか?
松浦 重ねてのお話になりますが、それまでの牛乳は産地と乳脂肪分でしか差を出しにくかったので、どうしてもスーパーなどでは価格競争の対象になっていました。「あっちが安いなら、うちも安く出来るようにがんばろう」と。
でも、そうなると生産者の方々の生活にも影響が出てきます。そこで、当社は生産者の方々とともに生乳にこだわり、製造技術の革新によって牛乳の価値を高めてきました。その結果としてお客様に「おいしさ」という本質的価値で選んで頂き、おかげさまでトップシェアとなったのがこの「明治おいしい牛乳」なのです。
石井 発売当初からのファンの方に支えられてきた商品ですが、これからはさらに多くの方に飲んでいただきたいですね。「ゆりかごから墓場まで」じゃないですけど、長きにわたって親しんでいただける商品になっていけるといいなと思っています。
この春「ナチュラルテイスト製法」が進化し、明治おいしい牛乳は、さらに「おいしさ」が向上。生乳を工場に受け入れてすぐに、溶存酸素を低減することで、もっと「新鮮な生乳のおいしさ」に近づいたそうです。ぜひ他の牛乳と飲み比べてみてください!