バナナ、メロン、アーモンド、抹茶、マンゴー、有田みかん、ラッシー……これ、全部豆乳のフレーバーです。
近年、スーパーを賑わせているキッコーマンの豆乳ですが、2018年3月現在で全41種類もあり、様々なフレーバーを豆乳で再現。しかし、何故こんなに多くのフレーバーがあるのか、バニラアイス、チョコミント、みたらし団子といった常識を打ち破るようなフレーバーはどうして開発したのかなど、多くの謎があります。これは販売元のキッコーマンに聞いてみるしかない! というわけで今回はキッコーマン飲料のチルド営業本部の荻生康成さんにお話を聞きました。
1980年代に一気に広まり、一気に衰退した豆乳市場
――もともと豆乳はいつから販売しているんですか?
荻生康成さん(以下:荻生) 全国で豆乳の販売をスタートしたのが1979年のことでした。それまで「豆乳」というものは、豆腐店とゆかりのある方は耳にすることがあっても一般には知られておらず、まして「豆乳を飲む」という習慣は日本人にはまだなかった時代です。豆乳は腐りやすく、当初は全国に流通させるにしても賞味期限の問題で、なかなか難しかったんです。
やがて紙パック入りの豆乳が登場して、1980年代半ばごろから一気に市場が拡大。それでもまだ豆乳事業はまだ若く、沢山の企業が開発に参入しても品質がなかなか安定しませんでした。要は「豆乳=まずい」みたいなイメージをもたれるようになり、拡大した市場が一気に縮小してしまったんです。
しかし、それ以降も「どうしたら、もっと美味しく飲んでいただけるだろうか」といった意味での開発を続けていました。そんななか、2000年代に入るころに「大豆の栄養が健康に良い」という風潮が世に浸透。再び豆乳のマーケットが拡大し、もう一度ご評価いただく機会が増えていきました。これが大まかな弊社の豆乳開発の流れですね。
豆乳のフレーバー実現までに30年以上の月日が……
――1980年代に耳にされた「豆乳=まずい」という時代から、2000年代では製法上の進化はあったんですか?
荻生 もちろんあります。大豆は栄養分は豊富ですが、特有の臭み、味、えぐみなどがどうしてもあるんですよね。こういったネガティブな要素をいかにして除去し、良いところを引き出す製法の研究を重ねてきており、2000年代には当時よりずっとおいしい豆乳を作ることができるようなりました。
また、特に苦労の末に生まれた「おいしい無調整豆乳」という商品によって、「大豆の青臭さを消すことも、香ばしさをつけることもできる」といった技術にまで派生し、味や香りのコントロールがようやくできるようになりました。現在、数多くある弊社の豆乳のフレーバーも、これまでの技術によって、誕生させることができたものです。
――つまり、1970年代後半から数えると、あの数々のフレーバーに至るまで30年以上の時間がかかったというわけですね。
荻生 長きにわたって開発をし続けていますが、おかげさまで現在では豆乳のシェアの50%以上をキープし続けています。
お菓子代わりの豆乳を目指し、増えたフレーバー
――豆乳のフレーバーが増えていったのは2000年代というわけですね。
荻生 はい、コーヒー、紅茶、バナナといった定番のフレーバーはもう少し前からありますが、メロン、アーモンド、甘酒、白桃、ココアといった商品は2007~2008年くらいから増えていきました。
――しかし、細かいフレーバー設定ですよね。みたらし団子、バニラアイスなど(笑)。
荻生 季節限定ですと、焼きいも、おしるこ、さくらなどもあります(笑)。味そのものを豆乳で再現することは最優先ですが、日本人が好きで、すぐ味を想起しやすいものを、そのままフレーバーにしようという思いがあります。曖昧なボヤッとしたフレーバーではなく、より具体的でわかりやすいものを……というのがまずあります。
――それでバニラではなく、バニラアイスなんですね。
荻生 そうですね。「バニラ」と言っても、「えっと、味はどんなものだっけ?」となりますが、「バニラアイス」だと想像がつくという。あと、お客さまに豆乳を飲む時間帯をうかがうと、食事と食事の間、いわゆる間食のように飲まれることが多いと知りました。そういう時間ですと、どうしてもスナック菓子を食べたくなったり、甘いものが欲しくなったりするわけですが、「食べたいけど、摂ると身体に良くないだろうな」と思って控えることが多いのではないかと思うんです。
しかし、間食の際に手を出しても身体に良いものなら、きっと支持されるだろうと考え、お菓子にとって代わるような豆乳を目指し、焼きいも、おしるこ、みたらし団子、バニラアイスといったフレーバーを開発したという理由もあります。
具体的過ぎる豆乳フレーバー。味種決定の裏側では……
――現在は終売になっていますが、過去には健康ラムネ、健康コーラ、ジンジャーエールといった豆乳もあったようですが。
荻生 これらも具体的ですし、健康的な豆乳と炭酸飲料とはだいぶ距離があるものですので、アンマッチで良いのではないかと思い発売に至りました。販売当初は反響をいただきましたが、現在はラインナップからはハズれてしまいました。
――失礼に聞こえたら申し訳ないのですが、このラインナップ群を見ると、正直笑いを狙っているのではないかと思ってしまうところもあります(笑)。
荻生 いや、おっしゃる通りです(笑)。クスっと笑ってもらったうえで、手に取っていただくことは想定しています。我々はこのことを「わくわく感」と呼んでいますが、その「わくわく感」で豆乳の市場が盛り上がっていけば良いですよね。ですので、当然「面白いものを」「笑っていただけるものを」とウケを狙っているところはあります。
もちろん、弊社の豆乳でしか飲めない味を追求したいという思いには変わりはありません。
――そういったフレーバーの採用・不採用はどのようにして決められるのですか?
荻生 会議で意見を出し合い、面白かったら市場調査をします。たとえば豆乳だけでなく、フレーバーとなる商品のマーケットがどうなっているか、ルーツは何なのかなど。
そこで最終的に豆乳に落とし込んだときに、「本当においしいものに作れるか」「おいしく飲んでいただけるか」というところで決定するようにしています。
近年の豆乳支持の高まりは、数多くあるフレーバーによるものではなかった!
――未来の豆乳に対し、考えていることはなんですか?
荻生 現在、豆乳のマーケットが伸びている一番の理由は、これまでにお話した味種というところとは別で、豆乳を料理に使ったり、コーヒーに混ぜて使ったりするお客さまが増えたことなんです。
有名な豆乳鍋は、いまから10年くらい前からご家庭でも食べられ始めたものですが、いまでは鍋の定番メニューの一つになりつつあります。こういったところに対応できるような商品もさらに開発していきたいと思っております。
――すでに豆乳仕立てのコーンスープ、豆腐のできる豆乳といった商品もありますね。
荻生 はい。鍋もそうですが、豆乳を使ってスープを作る方が増えています。それを受けて、もっと簡便にするためにあらかじめコーンスープにして販売している商品もあります。また、「キッコーマンの豆乳でお豆腐はできないんですか?」というお声を沢山いただいたことで販売するようになった豆腐のできる豆乳は、雑味のないスッキリした豆腐ができると好評をいただいています。
このように豆乳を楽しむシーンは近年、すごく広がってきていますので、我々としてはさらなる豆乳のご提案、新しい豆乳の使い方を今後も研究していきたいと思っています。
41種もの数があるキッコーマンの豆乳フレーバーの裏側には、このような隠された秘密、思いがありました。飲む際は意外なフレーバーなもののほうこそ、新しい発見があるかも? ぜひ様々な味の豆乳にトライしてみてください!
撮影/我妻慶一