牛乳と混ぜるだけで美味しいデザートの出来上がり! みんな大好きなフルーチェが誕生したのはいまから42年前の1976年のことですが、この長い歴史のなかには数々の隠されたトリビアがありました。今回は、フルーチェの販売元、ハウス食品の光安真佐子さん、長瀬仁美さんに、そのお話をじっくりお聞きしました。
【フルーチェトリビア①】フルーチェのルーツはカレーだった
――フルーチェが発売された1976年当初は、レトルト商品自体が少なかったのではないかと思います。
光安真佐子さん(以下:光安) そうですね。フルーチェより前に、弊社ではククレカレーというレトルトの商品を出していましたが、それも当時としては新しいものだったと聞いています。
長瀬仁美さん(以下:長瀬) それまで保存できる食料品と言うと、缶詰が主流でしたので、レトルトはやはり斬新だったようです。
光安 缶詰は開けたり捨てたりするのもそれなりに大変ですが、レトルトはやっぱり使いやすいですし。
フルーチェはレトルト殺菌ほどの高温ではありませんが、保存料なしで長期保存できる殺菌技術を使って、あるいは弊社のプリンミクス、ゼリエースといった自分で作るデザートの技術を使って、新しいデザートができないかと転じられてできたものでした。火を使わず、小さなお子さんでも一人でできるものですので、当時としてはかなり目新しかったものだったと聞いています。
【フルーチェトリビア②】フルーチェは牛乳以外では固まらない
――フルーチェは牛乳に混ぜるだけででき上がるデザートですけど、この仕組みはいったいナンなのですか?
長瀬 牛乳の中にあるカルシウムと、フルーチェに入っている食物繊維であるペクチンが反応することで、固まって美味しい食感を生み出しています。
――ということは牛乳以外と混ぜても固まらないわけですね。
光安 そうです(笑)。今、長瀬が言ったペクチンというのはジャムなどを作るときにフルーツを切って火にかけると、トロンとしてくるアレなのです。ジャムは砂糖でトロンとしますが、フルーチェはカルシウムでトロンと固まらせる食物繊維を使っています。
でも、確かに不思議ですよね(笑)。販売当初はこの仕組みを疑問に思われるお客さまも多かったと聞いていますし、いまでも特に夏休みの自由研究などでお子さんが試される際などには「どうして固まるの?」というお問い合わせは数多くいただきます。こういったお声を受けて、いまではパッケージ裏面に詳しく記載するようになりました。
【フルーチェトリビア③】ハウス食品では全国にある牛乳を取り寄せて実験をしている!
――ただ、牛乳も商品によって微妙に脂肪分やカルシウムの含有量が異なりますよね? これにはどう対処されているのでしょうか?
光安 おっしゃる通り、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳と様々なものがありますので、全国からあらゆる牛乳を取り寄せて、フルーチェと混ぜた際、きちんと固まるかどうかと、味にブレがないかを定期的に確認しています。
長瀬 こういったデータを残しておくと、お問い合わせをいただいた際にも、即座にお答えすることが出来ますので。
【フルーチェトリビア④】かつて野菜味のフルーチェがあった!
――これまでの歴史のなかで数々のフレーバーがあったようですが、定番となるのはどのような味なのでしょうか?
光安 定番は1976年の発売初期からあるイチゴ、ピーチ、オレンジですが、年ごとに様々なフレーバーを出しているんです。目立つところだとフルーチェアジアとか。または「果肉をいっぱい食べたい」というお声をいただき、果肉を2倍にし、味も濃くして仕上げた贅沢イチゴ、贅沢ピーチといったものもあります。
長瀬 あと珍しいところでは、2002年から始まった「Cの果実」です。ビタミンを配合したキウイ&アセロラ、パイナップル&シークワーサーなどもありました。異なるフルーツを混ぜて、より美味しくフルーチェを楽しんでいただきたいという思いで発売しました。
光安 あとは、野菜果汁を合わせたベジタブルフルーチェというものもありました。
――野菜味ですか!?
光安 野菜嫌いなお子さんが多いので、フルーチェに野菜の栄養素を加えたら子どもたちは食べてくれるはず……という声を多くいただいた時期がありまして、満を持して発売しました。
――実際の味はどんなものだったのですか?
光安 フルーティーで野菜の味もするという結構美味しいものだったのですが、結果を残せず廃版となりました。
【フルーチェトリビア⑤】定番フレーバーでも3~4年に一度味を変更している!
――定番のフレーバーであっても、マイナーチェンジというのはされてきているのでしょうか?
光安 もちろん行っています。特に定番フレーバーは3~4年に一度、お客様の嗜好ニーズの変化にあわせて微妙に変更しています。やはり、時代ごとにより美味しいフルーチェを楽しんでいただきたいという思いがあるからなのですが、一般のお客さまには「変わった!」とはすぐにわからないところで、よりおいしく調整しています。
長瀬 本当に「ちょっとずつ」という表現がしっくりくる感じですね。
――新しいフレーバーを開発されるときは、どうやって味を決めるのですか?
光安 たとえばマンゴーの場合だと、生のマンゴーを食べたときの美味しさ、加工されたマンゴーの美味しさでは印象が異なりますので、このときはあらゆるマンゴーの味づくりにしたものを、研究部門、企画部門の各担当者で食べ比べて、討議を重ねて、各者が納得するまでフルーチェに落とし込みます。
自分のデスクの近くにクッキング部屋みたいなところがあるのですが、このときはずっと食べ比べていますね。
長瀬 「今日もフルーチェを食べてるんだね」って社内でよく言われます(笑)。
光安 でも、集中しているときは味覚が研ぎすまされているので、自分たちでも驚くくらい味の違いがわかるようになります。
【フルーチェトリビア⑥】混ぜるまでもない完成版フルーチェも販売されていた!
――あとは、牛乳と混ぜて完成させるものではなく、すぐに味わえるハンディタイプのフルーチェや飲むフルーチェなどもあったようですが。
光安 フルーチェは「作ることが楽しい」のに対して「すぐに食べられると良いんですけど」というお声も一定数あって、そこにお応えして出した商品ですね。
――飲むフルーチェは想像ができないですね。
長瀬 プルンとした食感、果肉のツブツブ感はそのままに飲めるものですね。2011年に出た缶入りの飲むフルーチェは、冷やした缶を10回振ると、あの食感になる仕組みでした。
光安 今はこれも廃版になっていますが、美味しい商品でしたよ。
【フルーチェトリビア⑦】フルーチェは和風味開発に挑戦し続けている!
――様々なフルーチェのフレーバーですが、これまでに商品化には至らないまでも、挑戦されたものはありますか?
光安 随分前から試行錯誤しているのに、いまだ実現に至っていないのが和風味ですね。特に抹茶はすごい可能性があると思っていますので。
長瀬 牛乳を使う設計ですので、牛乳に合う素材ならだいたい試してきていますね。
光安 和風味だけでなく、既存のお菓子でもチョコレートやキャラメルなんかも合うのではないかと試行錯誤を続けています。
【まとめ】フルーチェは、他のデザートと融合してさらなる未来へ!
――これだけの試行錯誤やアツい思いを持って開発されているフルーチェですが、フルーチェ自体を使ったデザートのレシピもサイトで紹介されていますね。
光安 はい。フルーチェってすごくプルンとしていて美味しいけれど、世の中にはまた違う食感の美味しいお菓子がありますよね。
そういったものとフルーチェとを融合させたお菓子ができるんじゃないかと思って。フルーチェムース大福、フルーチェチーズパフェ、フルーチェドームケーキとか……どれも美味しいのですが、こういった挑戦も日々行っています。
長瀬 ちょうど昨年の2月に一般のお客さまを本社にお招きしてフルーチェパーティというものを開催しました。そういった場でも、こういったフルーチェの色んな使い方をお試しいただいて、盛況でした。
光安 やっぱり社内で食べて「これは美味しい」と言っていても、ときどき不安になりますから。「自分たちはもともとフルーチェが好きだから、『美味しい』と思うだけなんじゃないか」って。
でも、そういった試作品をお客さまにお試しいただき、様々なご意見をうかがうと、それが立体的な開発になっていきます。これからもフルーチェそのものの開発はもちろんですが、フルーチェを使ったデザートなどの新しい可能性も探究し続けていきたいと思っています。
フルーチェと言うと、女性が好きなデザートかという先入観がありましたが、取材時に光安さん、長瀬さんからは「いやいや、むしろ男性のフルーチェ好きの方の熱量はすごいです。ボウルに入れて一気に食べる方もいるようです」とお聞きしました。すごいですね。いつかGetNavi webで男子フルーチェ部を開設できたら……と思った取材の帰り道でした。賛同者求む!
撮影/我妻慶一