身近な南国フルーツの代表格・バナナですが、日本は99.9%以上が輸入。産地はフィリピンやエクアドルが中心です。これまで日本産もありましたが、温度や降雨量など栽培に適した環境としては不十分で、生産量はわずかでした。しかし、大発明といえる画期的な研究によって、バナナをはじめ“日本では南国の作物が育ちづらい”という常識が覆ろうとしています。今回は世界的ニュースといえる、奇跡的な国産バナナの最前線をお届けしましょう。
糖度が高いうえに3倍のスピードで育つ
商品名は「ともいきバナナ」。名称の由来は開発における関連企業「共生バンク株式会社」にちなんだものですが、このバナナは国産なだけでなく、たくさんの魅力を持っています。ひとつずつ解説していきましょう。
一般的なバナナの糖度は15度程度だといわれています。それに比べ、「ともいきバナナ」は約25度。1.6倍以上の甘さを持っているのです。そして、皮まで食べられることもこれまでのバナナにない特徴。あえて皮を食べる必要はありませんが、つまりは安全であり、雑味がないということなのです。
栽培面での特徴としては、赤道直下でない日本でも育てられるだけでなく、普通のバナナの約3倍のスピードで実が育つことも挙げられます。でも気になるのは、なぜそんな常識破りを実現できたのかということ。
秘密を解くカギは「凍結解凍覚醒法」(とうけつかいとうかくせいほう)にありました。これは特殊な溶液に浸した種子を、マイナス60度でゆっくり凍結し、解凍する農法のこと。この工程を経た苗は耐寒性を持ち、零下17度まで耐えられる(本来のバナナは年間約16~30度の気温が必要)ため、熱帯でなくても育成可能となるのです。
ゆっくり凍ることで環境に強いバナナが誕生した
田中さんは、もともとは海運や造船業関係の実業家。博士でも農家でもありませんでしたが、子どものころからバナナが大好きでした。しかも、当時のバナナはもっとおいしかったという記憶があり、約40年前から趣味で研究を重ねていたそうです。そこでわかったのは、昔の品種は「グロスミシェル」、いまの品種は「キャンペンディッシュ」であること。そして前者は1960年代に流行した「パナマ病」で、ほぼ絶滅していたのです。
「でも、なんとかしてあのバナナを食べたい」。そう思い続けた田中さんは沖縄でハウス栽培を始め、試行錯誤に明け暮れます。しかし、なかなかうまくいきません。そんなある日、奄美大島の特産品である植物「ソテツ」のドキュメンタリー番組を見て、なぜ「ソテツ」は5億年以上前から存在し、何度も氷河期を乗り越えることができたのか、を不思議に思いました。「もしかして、凍ったことで遺伝子に変化が起こったのでは?」。これが「凍結解凍覚醒法」のヒントになったのです。ポイントは、急速ではなくゆっくりと凍結させること。
そしてもうひとつ、「ともいきバナナ」の大きな特徴に、皮まで食べられることが挙げられます。この理由は、農薬を使っていないから。普通は農薬を使わないと、病原体にむしばまれやすくなってしまいます。でも「ともいきバナナ」は、炭素の効果で免疫力を高める新技術によって、無農薬栽培を実現。この技術も、田中さんが開発した画期的な農法です。
いま、世界のバナナは「新パナマ病」におびやかされています。これは農薬や化学肥料を使用し続けた結果、それに耐性を持った新種で、中国やフィリピンなどでは不作が懸念されているとか。そこで、田中さんは「ともいきバナナ」の新技術でこれを救えないか取り組むそうです。また、日本国内の耕作放棄地を活用して、全国規模でのバナナ生産を目指すとも。
さらには、バナナ以外の南国作物であるコーヒー豆、パイナップル、カカオ、カシューナッツなどを国内で栽培、収穫することにも成功しているとか。これら数々の事例が世界的に注目され、「日本の農業を変える」「世界の作物を救う」と期待されています。
「ともいきバナナ」はオンラインショップや、三重県伊勢市の「伊勢安土桃山城下街」というテーマパークで販売中。まだまだ希少なため1本877円とかなり高価ですが、贈答品にはぴったりかもしれません。育成期間が短いこともあり、増産体制が整えば身近な価格になってくると思いますが、とにかく注目すべき逸品といえるでしょう!