しばしば、グルメの街と称される五反田。確かにジャンク系から上品・洗練系まで、低価格な業態から高級レストランまで多彩な飲食店が点在している。そしてもちろん、五反田にも街中華の名店は存在。今回紹介するのは東口を出た目の前、戦後すぐから長年この場所にあり続ける老舗「亜細亜」だ。
戦後すぐから五反田駅前を見守り続ける生き字引
店が入っている建物をよく見ると、両隣とつながっている。これは大昔から長屋だったことの証であり、そのなかでも数十年以上残っているのは同店のみ。事実として歴史は古く、五反田の生き字引といえる存在なのだ。
ルーツは、初代の劉 家祥(りゅう かしょう)さんが戦時中に中国・広東から日本へ移住したのがはじまり。いまはないが、1901年に創業したという銀座の「中華第一楼」を経て、終戦直後に飲食店をはじめた。当初は大井町で営業していたが、なかなか軌道にのらず一時閉店。だがちょうど同郷出身の知人から、五反田で営んでいる喫茶店「亜細亜」を閉めたいという話を聞き、譲渡する形で店名ごと受け継いだという。それが1947年のこと。
現在は、二代目の顯明(けんめい)さんと奥様の瑶姫(ようき)さんが店を盛り立てており、後継者である三代目の裕光さん、眞喜子さん夫妻がこれをサポート。家族で70年以上営業していることもあり、三代にわたって通う常連もいるとか。
1階と2階は温かみを感じさせるダイニング。3階は打って変わって、会食にも使えそうな落ち着いた空間となっている。幅広い食シーンで使える同店だが、訪れるのはビジネスパーソンや近隣の住民が中心。五反田エリアの日常使いで重宝する、まさに街中華なのだ。
受け継がれる本場広東仕込みの味に舌鼓
往年の常連をはじめ、多くのファンにそれぞれの好みがあるため、メニュー数は豊富。そのなかでも人気の高い一皿が「五目硬やきそば」だ。こちらは全国各地のかた焼きそばを1000皿以上食べたという達人が絶賛したことで知られており、見逃せない逸品である。
野菜はシャキっと、コリっとした食感を絶妙に残すべく、サっと油通し。そこに肉や魚介を加え、動物系の素材と野菜を使って毎朝炊き上げる秘伝のスープであんに。味付けは素材のうまみを生かすよう、塩を中心とした調味料で輪郭を整えていく。
アラカルトも充実。つまみながらしっぽりと飲み、最後は食事で閉めるという客は多く、特にスピーディに飲みたい人に好評なのが「チャーシューメンマ」だ。全体的なボリュームもさることながら、メンマ自体もかなり大きく食べごたえがある。
丁寧に仕込みがされているため、歯ごたえはコリっとしていながら、中身はしっとり。酒のラインナップも豊富で、とりあえずのビールと一緒にオーダーされることが多いという。
惣菜的な料理で特に人気なのは「酢豚」だ。こちらも具材がゴロっとしてボリューミーだが、ハーフサイズが用意されていることで、おひとり様にも重宝されているという。味は「五目硬やきそば」の野菜と同じく、新鮮さを生かした食感が印象的。そして、香ばしさすら感じるパワフルな肩ロース肉とのコントラストもたまらない。
時代ごとに一部の盛り付けが変わることはあったものの、基本的な味付けは創業時から同じだという。広東仕込みのハイレベルな技と、それを長年受け継いできた一族の絆が人気を支えているのだ。これからも五反田の街になくてはならない存在であり続けるだろう。アクセスも至便なので、途中下車してでもぜひ訪れていただきたい。
【SHOP DATA】
亜細亜
住所:東京都品川区東五反田1-13-9
アクセス:JRほか「五反田駅」東口徒歩1分
営業時間:11:30~14:00 17:30~22:30(L.O.21:45)
定休日:木曜