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2018/9/3 16:30

【意外に知らない】コーヒーってどう作られるか知ってる? 超重要工程「精選」をインドネシアで調べてきた

朝食時に一杯、仕事中に一杯、ランチ後に一杯、夜のリラックスタイムに一杯と、「コーヒー」は身近なドリンクの代表格といえる存在です。

 

実際、需要も増えており、コーヒーの国内消費は2017年こそ前年比マイナス1.7%の46万4686トンでしたが、2011年~2016年までは5年連続で増加(全日本コーヒー協会「日本のコーヒー需給表」より)。また、家庭用コーヒーメーカーの販売台数は2011年と2015年を比較して1.4倍に伸長するなど、コーヒー豆を含めたコーヒー全般への関心が高まっています。

 

さて、コーヒーは、「栽培」→「精選」→「焙煎」→「粉砕」(→「ブレンド」)といった過程を経て、淹れられるのが一般的。焙煎以降の過程や保管方法などは店頭やカタログ・チラシでも語られることが多いですが、意外に知られていないのが、精選の部分。おいしいコーヒーに出合うためにはとても重要な項目です。

 

本記事ではキーコーヒーの「トアルコ トラジャ」の産地から、精選を中心に収穫や選別といった工程を現地レポートします。なぜ「トアルコ トラジャ」かというと、コーヒーの精選方法の中で工程数の多い「水洗式」と呼ばれるものを採用しているから。つまり、「トアルコ トラジャ」の精選方法を知ることで、コーヒー全体の精選方法を理解できるというわけです。

 

取材したのはインドネシア・スラウェシ島のトラジャ地方。ここにはキーコーヒーの子会社トアルコ・ジャヤ社が運営するコーヒー農園「パダマラン農園」があります。それでは、意外に知られていない「コーヒーの栽培と精選」の旅にご案内しましょう。

↑喫茶店や写真の商品パッケージでおなじみ「トアルコ トラジャ」の産地を訪れました

 

 

~本編に入る前に少しだけお勉強~

【コーヒーの精選方法の種類と流れ】

↑上記に当てはまらない精選方法も存在します。

 

コーヒーの精選方法は大きく4つあります。なかでもメジャーなのが、「非水洗式(Unwashed)」と「水洗式(Washed)」で、非水洗式はナチュラルと呼ばれることもあります。このほかに、「パルプドナチュラル」や「スマトラ式」といった方法も存在。トアルコ トラジャの豆を作るパダマラン農園は水洗式を採用しており、工程的には最も数が多くなっています。

 

各方法ともまず「粗選別」を行いますが、そのあとの工程に差が。パダマラン農園の場合、パルパーと呼ばれる脱肉機でコーヒー果実の「果肉を除去」。次に、「ミューシレージ」と呼ばれるコーヒー豆の外側にある粘液質をミューシレージリムーバーや発酵を経て取り除いていきます(ミューシレージ除去)。続いて「水洗」の工程では、豆のぬめりを落とすのと同時に、極端に軽いものを除去します。「乾燥」の工程は乾燥機や天日干しで行い、「脱殻」の工程で殻を取り除き、ようやく生豆になるという形です。生豆になったあとは細かい「選別」へと移っていきます。

 

ただ、単純に工程数が多いほうが良いというわけでもなく、その土地の栽培環境や状態、各々の個性を出すために上記のような違いがあります。次のパートから、精選前後の収穫や選別といった工程を含めて水洗式の工程を詳しく見ていきましょう。

 

【精選前の工程:収穫】

コーヒーの実を覆う皮はサクランボのような赤で、噛むとほんのりとした甘みがあります。パダマラン農園では、コーヒーの実を手摘みで収穫し、コーヒーの収穫期は通常5~10月の約5か月間。最盛期の6~7月には1日で400人を超える人手で収穫されます。携わるのは日雇いで雇われた近隣の住民たちです。

↑熟したコーヒーの実。ちなみに、コーヒーの花は白いというのはご存知でしたか?

 

↑コーヒーの実の収穫は手摘みで行われる

 

↑赤く熟した実が取り頃

 

実の収穫には特別な器具は必要なく、赤く熟した実を手でひねってとるだけ。とはいえ、生い茂った木をかき分けて熟した実だけを発見する作業はなかなか手間がかかる作業。筆者も挑戦してみましたが、20分で1kgほど収穫するのがやっとでした。慣れた人なら1日の作業で60kgも収穫してしまうというから驚きです。

 

↑作業は早朝から。この女性は1時間半で16kgも収穫したそう

 

続いて、精選の細かい工程を見ていきましょう。

 

【精選工程その1:果肉除去~水洗まで】

日本で流通しているコーヒー豆のほとんどは焙煎された状態ですが、パダマラン農園ではその一歩手前、「生豆(なままめ)」の状態まで加工され、消費国へ出荷されます。コーヒーの果肉を除去すると、ヌメヌメとした粘液質に包まれた豆が現れます。この状態は「パーチメント」と呼ばれ、このパーチメントを乾燥させて、脱殻したものが生豆になります。

 

コーヒーの実(チェリー)から生豆にする方法はいくつかありますが、先述の通り、パダマラン農園では「水洗式」という方法を採用しています。これは水洗いすることで、パーチメントの周りの粘液質を取り去ってから乾燥させるという方法で、欠点豆をより少なくできるのがメリット。水源が豊富なこの地で、安定した品質を確保するのに最適な方法だそうです。全世界的にもごくごく一般的な(精選)方法のひとつです。

 

↑果肉除去の工程を経た状態。コーヒーの実をむくと現れるパーチメントは、触るとヌメっとした質感がある

 

↑水洗の工程。一晩保管したパーチメントを水路で洗ってヌメりを落とす

 

【精選工程その2:乾燥】

乾燥に使うのはドラム型乾燥機。パーチメントに温風を当て、ドラムの中を循環させ続けて乾燥させます。豆に含まれる水分が10.5%になるまで約3日間、回し続けるのだそう。燃料には化石燃料のほか、パーチメント脱殻後のかすを利用した循環型燃料も使われています。

 

小規模な農家の場合、天日干しで自然乾燥させています。パダマラン農園でも乾燥機に入れるには足りない小ロットの場合は天日干しを併用しているといいます。

 

↑ドラム型乾燥機で乾燥させる

 

↑天日干しも併用されている

 

↑均一な水分量に乾燥された豆

 

 

【精選工程その3:脱殻】【精選後の工程:選別】

乾燥させたパーチメントを脱殻すると、「生豆」の状態に。ただし、そのまま輸出というわけにはいきません。最後の関門、選別の工程です。

 

↑脱殻機を通っていよいよ生豆になると選別の部屋。写真は選別工程の様子

 

まずは豆の大きさからグレードを選別。日本向けに輸出されるのは最高ランクの規格のみ。小さかったり、軽かったりする豆はインドネシアの国内向けの商品になります。ちなみに、大きさと欠点数でグレードが決まるのはアジアの産地の特徴。中南米のコーヒー産地では収穫された標高で決まるなど、産出国によっても基準が変わるそうです。

 

↑比重選別機を使って重さで選別される

 

選り分けられたコーヒー豆を待ち構えるのは、人の目による最終チェック。生育不良の豆や虫食い豆など、不良品を見極めて排除していきます。

 

↑一粒一粒検品して、不良品を取り除く

 

こうして、選り分けられた豆には、さらに厳重なチェックが待ち構えています。選り分けられた豆からランダムにすくい取られたサンプルは「検査室」と呼ばれる小部屋に送られ、正確に選別されているか検査されます。

 

このサンプルに黒く変色した豆が一粒でも紛れ込んでいたらアウト。最初から選別をやり直しになります。この厳密なチェックに合格した豆だけが、輸出用の袋に入れられて日本に向けて出荷されるというわけです。

 

↑サンプルを集める様子

 

 

↑検品の部屋の一角にある検査室。情を入れないために、誰が持ってきたか分からない窓口になっている

 

 

↑検査スタッフの目つきは真剣そのもの

 

↑不良豆のサンプル。上位グレードの基準ではこれらが1粒でも紛れていたらアウト

 

↑検査に合格して初めて、出荷用の麻袋に入れられる

 

 

↑仕事を終え帰宅する一団に遭遇。笑顔がまぶしい

 

 

 

【その他の重要工程:味の品質管理検査】

工程の図には入れませんでしたが、味の品質管理も大事な要素のひとつです。パダマラン農園の場合、「カップテスト」という検査が行われています。買い付け後、乾燥後など各工程で行われるカップテストは、コーヒーの味にブレがないかを確認する重要な検査。

 

カップテストを任されている彼らはパダマラン農園で数人しかいないプロ中のプロ。まさにトアルコ トラジャの味を守る「味の番人」と言っても過言ではないでしょう。カップテストは輸出後、日本で焙煎・包装する工場でも行われています。ちなみに、キーコーヒーの社員は全員カップテストができるそうです。毎朝の朝礼後にカップテストを行って、味覚や嗅覚を養っているのだとか。

 

↑カップテストでは1つのサンプルを複数カップに分け、味や香りを確認する

 

↑この日、パダマラン農園ではこの2人が1日に60サンプルをチェックした

 

【その他の重要工程:出張集買】

精選の工程とは少し異なりますが、集買も安定した品質をキープするには重要な工程です。「トアルコ トラジャ」の場合、パダマラン農園産の豆は20%程度。80%のコーヒー豆は、周辺のコーヒー生産者から買い付けられます。山々に囲まれたトラジャ地方には、各地に小さな村が点在しています。

 

↑集買所への道のり。細く荒れた山道だ

 

周辺の農家の多くは自給自足の生活をしています。その中でコーヒーは、たとえて言うなら「庭先に生えている柿の木」のようなもの。収穫量がとりわけ多いわけではありません。出張集買は、そうした村まで出向き、小規模な農家からコーヒー豆を買い集める取り組みです。

 

↑北部の産地・ぺランギアンの集買所。有力な農家の軒先を借りて行われる

 

コーヒー農家からはある程度乾燥させたパーチメントコーヒーが持ち込まれます。農家にとっては貴重な現金収入になるだけに、品質検査を見守る目は真剣そのもの。

 

↑たくさんの人が見守る集買の風景

 

 

↑手触りや香りから豆の質を確かめる

 

↑自給自足で暮らす農家にとって貴重な現金収入となる

 

出張集買で購入した豆が集められるのが、トラジャ地方の中心街・ランテパオにあるトアルコ社の事務所。ここでは購入した農家ごとにカップテストが行われ、品質に異常がないかチェックされます。

 

↑ランテパオにあるトアルコ社の事務所兼集買所

 

ランテパオでは、農家のほかに仲買人からの集買も受け付けています。厳しい品質基準はここでも共通で、カップテストをクリアした豆だけが買い付けの対象になります。

 

トアルコ社が買い付けするのは風味が優れるアラビカ種で一定の品質を満たしたもののみ。そのクオリティを確保するため、仲買人から持ち込まれる豆の全ロットをカップテストで検品しているそうです。仲買人の間ではトアルコ社の買付基準と買取価格の高さは知られており、良質なコーヒー豆はまず「チャレンジ」としてトアルコ社に持ち込まれるのだとか。

 

↑仲買人はトラックで横づけして大量の豆を持ち込む

 

↑ものものしい金網で仕切られた集買の受付窓口

 

↑検査室の一角には試験用の焙煎機がある

 

↑購入する豆の品質はロットごとのカップテストで確かめられる

 

こうしてトラジャ地方の各地から買い付けられたコーヒー豆は、パダマラン農園に送られ、「トアルコ トラジャ」の一部になります。同じトラジャ地方とはいえ、産地ごとに微妙な味わいの違いがあり、ブレンドによって細かな調整を施すことで、変わらないおいしさを保っているのだそう。

 

コーヒーの栽培と精選にまつわる流れをお伝えしましたが、コーヒーができるまでには、実に多く工程があり、多くの人がかかわることがおわかりいただけたでしょうか?

 

今回取材したキーコーヒーの「トアルコ トラジャ」にかかわる人たちは、パダマラン農園や工場で約600人、協力農家は約400人にのぼるそうです。この後の日本への輸出や焙煎の工程も含めると、その人数はさらに増えることでしょう。コーヒーを支える多くの人たちに思いをはせながら飲むトアルコ トラジャは、いつもよりも一層、深い味わいになりそうです。

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