街中華のなかには、ときに個性的な料理が名物となっている店がある。今回紹介する、キラー通りの「中華風家庭料理 山之内 神宮前店」もそんな一軒だ。たとえば、冷やし麺タイプの「ねぎそば」。夏季限定ではなく、冬でもオーダーが絶えない同店の大定番である。ほかにもトガったメニューが異彩を放つ、同店の魅力をお伝えしよう。
シンプルなねぎそばと納豆チャーハンはクセになるウマさ
この「ねぎそば」は見た目こそ非常にシンプルであり、使われている食材も必要最低限。麺のうえに白髪ねぎと刻みチャーシューがのり、茶褐色のタレがかかった潔さ満点の一品だ。
ところが、ひと口食べると箸はもう止まらない。特製のしょうゆダレは程よい濃さで、シャキっとしたねぎとも相性抜群。シンプルゆえに単調になるかと思いきや、それぞれのキャラクターが際立っているのでまったく飽きることがない。しかも、さらに味のマンネリ化防止に一役買っているのがチャーシューだ。
ただ、肉の存在感をプラスするだけではない。八角という、本格中華でおなじみの甘味を帯びた香辛料が隠し味に使われており、これが好アクセントを演出する。なお、「納豆ねぎそば」(850円で、こちらは昼も夜も同価格)というさらに個性的なメニューもあるのだが、この納豆自体も「山之内」の魅力だ。
いくつかの納豆メニューがあり、なかでも多くのファンを持つのが「納豆チャーハン」。納豆だけでなく、細かく刻んだにんじんが入っているのも特徴で、ほんのりと甘みを加えている。そして一般的なチャーハンよりしょうゆの味が強めになっており、これは納豆との相性をよくするためのテクニックだ。
中華風家庭料理の超名店のルーツだった!
一品料理で絶大な人気を誇るのは「ネギワンタン」だ。これは仕込みが大変なため、夜限定となっているが、それはビジュアルを見れば一目瞭然。ワンタンが隠れるほど、大量の白髪ねぎがのっている。ねぎは「ねぎそば」などにも使われる同店必須の食材であり、聞けば1日に仕入れる数は約30本。5kgもの量を極細にカットし、みずみずしい白髪ねぎに仕上げるのだ。
皮は麺と同じ製麺所に特注したものだが、あんは自家製。使う具材はあえて極少にしており、しょうがやにんにくなどは入れず豚の挽肉とねぎだけ。これを薄口しょうゆで味付けし、素材本来のうまみを凝縮させる。
オリジナリティの高い「山之内」の料理だが、にんじんや納豆を使うチャーハンなど、どこか家庭的なレシピを彷彿とさせるものも。この秘密を聞くと、そこには同店のルーツとなる名店の存在があった。
キラー通り沿いにあるここは、青山の骨董通りで絶大な人気を誇る「中華風家庭料理 ふーみん」がもともとあった場所。ふーみんは1971年に開業し、1986年に現在の地へ移転したという。それまでふーみんで働いていたのが、「山之内」のオーナーである山之内敏昭さん。つまりは移転を機に独立し、古巣の跡地を受け継いで「山之内」を開業したのである。
やがて「山之内」も繁盛店となり、渋谷の宮益坂エリアに2号店となる「中華風家庭料理 Yamaのuchi 渋谷店」をオープン。山之内オーナーはこちらに拠点を移し、いまも渋谷店で腕を振るっている。これら3つの店にはすべて「ネギワンタン」「ねぎそば」「納豆チャーハン」、そして「たらこ豆腐」という個性派メニューなども共通して存在するが、最も街中華な雰囲気なのが原点の地である「中華風家庭料理 山之内 神宮前店」なのだ。
こぢんまりとしているぶんアットホームで、ひとりで気軽に食事やお酒を楽しめる。お客の9割は常連だというが、そのなかにはプロ野球選手や芸能人も少なくない。また、場所柄アパレルやクリエイティブ系の企業で働く業界人も多く、彼らの想像力をかきたてるのに欠かせない存在でもあるのだ。最寄り駅から少々歩くが、だからこそ穴場といえる立地。ぜひ訪れておきたい名店である。
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
中華風家庭料理 山之内 神宮前店
住所:東京都渋谷区神宮前3-38-11
アクセス:東京メトロ銀座線「外苑前駅」徒歩8分
営業時間:平日12:00~14:30/18:00~21:30(L.O.)、土曜12:00~14:30
定休日:日曜、祝日