昼はランチ、夜は夕食に晩酌と使える店が街中華には多く、それが魅力のひとつだ。だが、いわゆるアイドルタイムといわれる15~16時台や深夜に営業しているところはそう多くない。その点、今回紹介する「三幸園」はふところが広い。通し営業で平日は深夜2時、金曜は3時まで煌々と明かりが灯っている。しかもここは、餃子の名店としても有名なのだ。
月に1万2500人が食す伝統の餃子
場所は、カレーの街や本の街といわれる神保町。同店のアクセスは抜群で、駅から徒歩1分もしない好立地にある。赤くて目立つ看板、その日の定食が書かれたボード、食品サンプルが入ったディスプレイ。味のあるのれんこそないものの、これは古きよきレストランスタイルの街中華だ。
料理はやはり餃子から。多いときは1日2000個以上出て、月間1万2500人に食されるというから驚きだ。創業した1956年から、製法が60年以上変わらない伝統の逸品。聞けば、先代の祖母のレシピが基になっているという。
あんの割合はキャベツ、ニラ、ネギといった野菜が8、豚のひき肉が2。これを、長年の付き合いがある製麺店に特注した皮で包んでいく。味の特徴は甘さとジューシーさ。これは野菜が多めだからでもあるが、味付けに秘密がある。それを知るのは料理長と副料理長のみだが、やはり秘伝。
食べればわかる独特の甘味。なお、にんにくとしょうがも入っているが、決して主張しすぎるレベルではない。そのため女性にも大人気だという。味がしっかりしているためそのままでもうまいが、昔は店頭で売っていたというラー油をはじめ、好みの卓上調味料で“味変”するのもまた格別だ。
遅めランチも深夜晩酌も大宴会もウェルカム
餃子はもちろん鉄壁のおいしさだ。しかしパンチがあるという表現は似つかわしくなく、どこかやさしい。料理長に聞くと、「餃子以外も食べてほしいから、そういう味にしているんです」という。言い換えれば、どんな料理にも寄り添う餃子ということだろう。確かに同店のメニューは麺、丼、定食、つまみと多彩で、総数もかなり多い。なかには、中華としては珍しい肉の部位を使う一皿もある。
豚の首であるトントロは、豊かな脂と独特のシャコっとした歯ごたえをもつ焼肉の定番部位。甘くシャキっと炒められたねぎ、コリっとしたきくらげと調和して絶品だ。時代の嗜好などに合わせて開発した、比較的新しいメニューとのことだが、その傾向はほかの料理にも。
これら一品料理には200円で「ライス」を付けられ、それを定食として楽しむお客も多い。また、奮発して360円の「半チャーハン」をオーダーするという選択肢もある。ちなみにこの「半チャーハン」、セットでなければ注文できない的な“縛り”がないのもうれしい。
半ライスはあっても、半チャーハンをアラカルトで提供してくれる店はそう多くない。だが「三幸園」はアリなのだ。だから、酒のシメに少しだけ飯物を食べたいというニーズに応えてくれる。また酒飲みに対する理解はほかにも見られ、たとえば宴会向けの大皿メニューが豊富に用意されている。
唐揚げのほかに酢豚、かに玉、海老チリなど様々な定番中華が大サイズとなっており、ハーフサイズでのオーダーもできる。事実として宴会は多く、その証拠が大皿メニューなのだが、それだけの大人数を収容できる席の多さも同店の特徴だ。その数、なんと126席。
中心的存在の餃子を司令塔に、脇を固める多彩なメニューの数々。おひとり様のランチや晩酌でも、サシ飲みの2人組でも、数人から大所帯の宴会でもいい。すべてを受け入れ、望み通りのひとときを過ごさせてくれる。そんな安定感抜群の味と空間が、常時お客が絶えない人気の理由なのだ。
なお、前述したように神保町といえばカレーの街としても有名。とはいえ同店を含む駅の約50m圏内は、日本屈指の中華激戦区でもある。上海蟹の「新世界菜館」、冷やし中華の元祖的存在「揚子江菜館」、ノスタルジックな餃子店「スヰートポーヅ」が点在する奇跡のエリアなのだ。神保町の老舗中華四天王といえる陣営だが、使い勝手のよさでいえば「三幸園」に軍配が上がるだろう。この界隈で遅めのランチ、または深夜の晩酌というシーンが訪れたら、ここに救いを求めるべし!
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
三幸園
住所:東京都千代田区神田神保町1-13 1~3階
アクセス:東京メトロ半蔵門線ほか「神保町駅」A7出口徒歩1分
営業時間:月曜~木曜11:00~翌2:30/金曜11:00~翌3:30/日曜、祝日11:00~23:30(各L.O.30分前)
定休日:土曜