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2018/12/9 10:30

ギンビスの長男的商品「アスパラガス」ーー「変えないこと」に注力した50年の歴史

お菓子メーカー・ギンビスの代表的商品、アスパラガスビスケット(以下、アスパラガス)が最初に量販されたのがいまから50年前の1968年。同社の前身でもある銀座ベーカリーで販売しヒットとなったビスケットの経験を活かし、「独自性のあるビスケットを」と量販されました。

 

その斬新なネーミングの本商品は、形状、素材でいまなお類似商品が出ないままです。果たして発売後50年を経たアスパラガスには、どんな秘密・変遷があったのでしょうか。

 

今回はギンビス マーケティング部の澁谷昌孝さんにお話をうかがいました。

 

 

原料とは関係なく、この商品名になった理由とは?

――そもそものギンビスの成り立ちから教えてください。

 

澁谷昌孝さん(以下、澁谷) 弊社はもともと宮本製菓として和洋菓子を作っていました。宮本製菓という前身の会社があり、1945年には名称を「銀座ベーカリー」と改めて銀座1丁目にレストランを開店しました。

 

銀座ベーカリーでは、“銀座”と“ビスケット”を合わせたネーミングのギンビスコというビスケットを販売し、ヒットしていました。銀座とビスケットへの思いは強く、弊社名称の由来にもなっています。

 

弊社は創業当時から「他社がうちの真似をしても、うちは他社の真似を絶対にしない」という信念の元に開発を行っており、このギンビスコも、またアスパラガスも同様の思いで開発したと聞いています。

 

――ネーミングもそうですが、形状もかなり斬新だったのではないでしょうか。

 

澁谷 それまで、ヨーロッパから輸入されたビスケットは丸や四角が一般的だったのですが、それを持ちやすい棒状にしたことがまず斬新だったと自負しています。

 

さらに「ビスケットやクッキーは子どものためのお菓子」という既成概念を覆すべく、塩を足しごまも加えて、子どもから大人まで日本人の舌に合うように工夫したところも斬新だったと思います。

 

――しかし、なぜ「アスパラガス」というネーミングだったのでしょうか。原料にもアスパラガスはもちろん、野菜は入っていません。

 

澁谷 ちょうど50年前の販売時は、高級食材としてグリーンアスパラガスが市場に出回り始めた頃で、この「アスパラガス」というネーミングで高級感を付与させたかったこと、そして、特徴的な棒状のカタチがアスパラガスに似ているという意味もあって、この名称になりました。

 

↑東京・人形町にあるギンビス本社。職人気質が残る硬派な印象です

 

 

原料も味もほぼ50年前と同じのまま

――当初の市場の反応はどうだったのでしょうか。

 

澁谷 販売当初はすぐには売れなかったようです。そこから50年間、徐々に浸透していき、現在に至っております。

 

――原料、形状の変更を考えられたことはなかったのでしょうか。

 

澁谷 はい。創業者が開発した最も長い商品であり、アスパラガスとともに成長した側面がありますので、これはほぼ変えていません。

 

しかし、この「変えない」ということは実はすごく難しいんです。ビスケットを製造する上では気候の変動も影響がありますし、シンプルな素材で作っているぶん、産地やロットが変われば途端に違う味になってしまいます。

 

ですから、この「変えない」というところが最も難しく、現場でも苦労をしているところですが、ずっと変えない努力をし続けているからこそ、今年の50周年を迎えることができたと考えています。

 

↑50年間、「変えない」ことにこだわったアスパラガス。ただし、オリジナル商品であってもコストコなどの量販店仕様に、パッケージを巨大化させるなどの試みはあったそうです

 

 

アスパラガスを楽しむ派生商品

――そのシンプルで親しみやすい味だからこそ、例えばアスパラガスそのものを食べるだけでなく、違う素材と合わせての楽しみ方はかなり多そうですね。

 

澁谷 これは私個人的にも楽しいと思うのですが、野菜スティックに盛りつけて食べる方法は公式におすすめしています。

 

あと、チョコソースやディップをつけて食べるのも美味しくて、これは試される方が多いです。チョコと合わせたミニアスパラガスチョコという商品も販売していますが、これはチョコに合うよう、使用する原料選びにこだわっています。

 

――つまり、オリジナルのアスパラガスは頑ななまでに変えないものの、こういった兄弟商品は柔軟に変えたということでしょうか。

 

澁谷 そうですね。もち麦を配合したメープル風味、バタートースト味、さらに1歳のお子さまから口にできるミニアスパラガスベイビー乳酸菌プラスといった商品は、オリジナルのアスパラガスの良さを最大限残しながら、新しい展開にも挑戦した商品です。

 

↑オリジナルはほぼ変えないものの、その良さを活かした派生商品では、微妙なアレンジが施されているそうです

 

 

「変化をさせない」ことで、さらなる未来へ

――今年の50周年でのプロモーションにはどういったものがありましたか。

 

澁谷 これまでの周年期もそうだったのですが、パッケージで周年を印字したり、復刻版パッケージを作ったりしましたが、大々的にプロモーションを打つことは特にありませんでした。

 

ただし、食シーンへの創出的な挑戦は行い、先日は昭文社の『ことりっぷ』とのコラボイベントを実施しました。アスパラガスをピクニックなどのお出かけに気軽に持っていっていただくための催しでしたが、大いに盛り上がりました。

 

アスパラガスを食べてくださっているお客さまからは、「4世代で食べています」「3世代で食べています」といったお声をよくいただきます。

 

これはきっと、当社がずっと同じ品質でアスパラガスを作り続けてきたからこそのお話ではないかと自負しております。これからの将来も、ずっと食べ続けてくださっているお客さまの期待に応えられるよう、「変化をさせない」ことを守り続けていきたいと思っています。

 

↑地に根ざすようなイベントには熱心に取り組み、アスパラガスの新たな楽しみ方を提案しています

 

 

お菓子だけでなく、あらゆるビジネスモデルで変化とスピードが求められる時代ですが、あえて一線を画し、従来の味、姿勢を貫き続けてきたからこそ、消費者からの手厚い支持があることを証明したアスパラガス。これから先の未来も、ずっと変わらない味であり続けることに期待を寄せるばかりです!