JRに西武線と地下鉄が交わるターミナル、高田馬場。大学や専門学校が点在することから学生の街としても知られ、2000年代初期のラーメン激戦区でもある。つまりは安うまグルメの宝庫であり、街中華の名店も存在。そのなかから、今回は特に個性的な一軒「秀永」を紹介したい。
食べやすく仕上げられた個性派二大めしは必食だ
同店の個性を光らせているのが、独創的なメニューの数々だ。ラーメンやチャーハンなどの王道も当然あるが、それらを凌駕する人気の逸品をご覧いただきたい。まずは、ネーミングからして独特な「ほんこん飯」(ほんこんはん)を。
具材のベースは同店の「ホイコーロー」(920円)と同じ。調味はテンメンジャンとしょうゆ、酒。にんにくでパンチのある風味を、豆板醤で辛味を演出している。ただ「ほんこん飯」の場合はご飯がよく進むよう、若干濃い味付けに。またご飯と一緒に食べやすいよう、野菜を小さめに切っている。
これと双璧をなす名物が、「バッコチーハン(とりめし)」だ。こちらは「ほんこん飯」以上に珍しい(「ほんこん飯」的な料理を提供する街中華はある程度存在)メニューであり、特にユニークなのは、ぎんなんが入るところ。名称のバッコは漢字で「白果」と書き、これがぎんなんのことなのだ(チーハンとは鶏飯のこと)。
辛さはなく、やさしい甘味がおいしい。また、ご飯と絡みやすいよう片栗粉でとろみを付けているため、全体的にマイルドな味わいとなっている。
気配りとおいしさへのあくなき探求心が人気の秘訣
最近になって人気が高まっているのは「ロース飯」。これも独特のネーミングだが、台湾料理の「排骨飯」(パイコーハン)に似た一皿だ。
排骨とは豚肉にスパイスを効かせた衣を付けカリっと揚げたもので、つまりそのカツをのせたワンプレートである。ここでは、その麺バージョンにあたる「ロースめん」を紹介したい。
カレー粉で下味を付けた豚のロースに、小麦粉と片栗粉のブレンドをまぶして排骨に。麺のうえにのせたら、最後にしょうゆベースのあんをかけて完成だ。
排骨の存在感は具材としてだけにあらず。肉に浸透したスパイスの風味が少しずつスープにとけだすことで、食べ進めるうちにどんどん魅惑的な味わいに変化していく。
「ほんこん飯」は、忙しい香港のタクシー運転手がサクっと食べられるようにという背景から生まれたとされる「的士飯」に似ている。それにしてもなぜ同店にはトガったメニューが多いのか。荒谷店主に聞いたところ、自身が創業者にあたる叔父から受け継いだとのことで詳しくはわからないそう。ただ、ベースは広東料理とか。叔父が修業した店の味が引き継がれているという。
とはいえ荒谷さんは伝統の味をそのままにせず、少しずつ進化させている。たとえばそれが、食感を豊かにするために「バッコチーハン(とりめし)」へ加えたぎんなんであり、「ロース飯」を麺に仕立てた「ロースめん」だ。
そういえば、同店の飯類に付く汁物は中華スープではなくみそ汁。これは「日本人ならみそ汁のほうがいいのでは」という「秀永」流の哲学だとか。料理がわかりやすい名称になっているのも、そんな気配りからだろう。ときに攻めつつも、守るべきところは大切に。それが安うまグルメ激戦区・高田馬場で永年愛される、「秀永」の人気の秘訣なのだ。
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
秀永
住所:東京都新宿区高田馬場2-8-5
アクセス:JRほか「高田馬場駅」徒歩6分
営業時間:11:30~15:30、17:00~22:00
定休日:日曜