サントリーが本格芋焼酎に力を入れていることをご存知でしょうか。焼酎は約15年前にブームがあったカテゴリーで、いまも根強いファンが多いお酒。特に飲食店におけるデータによると、一番飲まれているのはビール(37%)で、実は次が焼酎(17%)なのです(清酒11%、サワー10%、ハイボール9%、その他16%)。そんな背景から誕生したのが、本格芋焼酎「大隅〈OSUMI〉」です。
製法には独自の新技術が採用されているとのことで、個人的に気になっていました。それが今回、原料となる芋の収獲季に合わせた酒造見学会が開催されるということで、鹿児島まで取材へ。畑や工場を見てわかった、つくりかたの特徴をレポートしていきます。
土壌や芋の品種によって焼酎の味はガラっと変わる
訪れた大隅酒造は、鹿児島県東部の曽於(そお)市大隅町にあります。芋焼酎といえば鹿児島県というイメージだと思いますが、それはやはりサツマイモの名産地だから。そして鹿児島県は大きく、西の薩摩半島と東の大隅半島に二分され、後者の北部に位置するのが大隅酒造。
大隅半島の土壌の特徴は、桜島の火山灰を多く含むアルカリ性の黒ボク土であること。この土壌がでんぷん質の凝縮した芋を育て、シラス台地に磨かれた清純な水とともに、焼酎にも豊かな甘味をもたらすのです。
黄金千貫の特徴は、ほんのり甘くて上品な香味。食用の芋の場合は糖度がよしあしのひとつとされますが、焼酎で大切なのはでんぷん価(含有量)。「黄金千貫」はこのでんぷん価が高いために蒸すとホクホク感が出て、焼酎ではフルーティな味わいをつくりやすいそうです。一方で傷みやすい繊細さをもっており、それもあって大隅酒造では収穫から仕込みまでをスピーディに行っています。
自然のなかで丁寧につくられている
畑見学のあとは、いよいよ大隅酒造へ。工場内部に入り製造現場を見学してきました。
まずは麹(こうじ)づくりの現場から。麹は発酵に欠かせない素材のひとつで、ここでは国産米を1日6トン使用。洗って蒸したあとに麹菌を混ぜ、40時間かけて米麹をつくっています。
麹にも黒、白、黄などの種類があり、「大隅〈OSUMI〉」に使われているのは黒麹。芋らしい風味をしっかり残す特徴があります。また、雑菌の繁殖を抑制するクエン酸を多く生成する麹で、気温や湿度の高い南九州や沖縄においては、安全な酒づくりに欠かせない存在となっています。
次に向かったのは、芋の加工現場。洗浄した芋をチェックし、品質基準に合うかどうかを選別。大きいものはこぶし大にカットして、蒸す工程へ運ばれて行きます。
次は発酵の工程を見学。そこは巨大な仕込みタンクの上部に床を設えた部屋で、フロアにはタンクの作業を行う穴がいくつもありました。最初の部屋は、前記の米麹と水と酵母で発酵させた、一次もろみが眠るタンク。次の部屋は一次もろみと芋と水による二次もろみのタンクです。
おいしい部分だけを抽出した焼酎が大隅だ!
焼酎には主に、甲類と乙類の2つがあります。そして乙類は本格焼酎とも呼ばれ、「大隅〈OSUMI〉」はその本格焼酎。甲類と乙類の違いは蒸溜方法にあり、量産に向いた連続式蒸溜器を使ってクセを抑えた軽やかな味になるのが前者。単式蒸溜器を使い、素材感にあふれる個性的な味になるのが後者です。
蒸溜されたできたての液体は、ウイスキーでいう「ニューポット」のようなもの。特別に香りだけ確かめさせてもらいましたが、タイミング的に蒸溜の最後の方だったため、ツンとしたフレーバーを感じました。もちろん、こういったネガティブな部分は「大隅〈OSUMI〉」の場合は一切使いません。このカット技術こそが「大隅〈OSUMI〉」最大の特徴なのです。
それは「香り厳選蒸溜」と呼ばれる、サントリー独自の新製法。蒸溜後半に出てくる雑味や苦味成分を含んだ蒸溜液をカットし、芋本来の甘やかな香り、コクがある部分だけを抽出する蒸溜方法です。いわば、おいしい部分だけを使っているといえるでしょう。
これはウイスキーづくりで培った知見を活かした製法とのことですが、確かに納得。というのも、ウイスキーの蒸溜ではポットスチルから溜出してくる最初と最後を取り除いた、中溜部分の液体のみを樽熟成にするからです(ミドルカットと呼ばれます)。
こうしてつくられる「大隅〈OSUMI〉」。見学後は試飲もさせてもらいましたが、製造法を学んだあとは味わいも格別。ふっくらとした芋の甘い香りと、すっきりとした後口のキレが両立し、スイスイと飲みやすいおいしさでした。なお、実は本稿は見学ツアーの前編。後編では「大隅〈OSUMI〉」の味を中心とした特徴に迫りつつ、一流バーテンダーに教えてもらったアレンジ法や、東西の飲める店などを紹介していきます!
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