グルメ
2021/1/21 10:00

超レッドオーシャンの「レシピサイト業界」に新しい動きが。月間2000万ユーザーを抱える「Nadia」の本質的な「モノづくり」

2012年に開設したレシピサイト「Nadia(ナディア)」は、いまや月間2,000万人が利用している巨大メディア。コロナ禍でおうち時間が増えた昨年以降、料理に挑戦したい意向のユーザー増加にともない、これまで料理をしなかった人たちにも「Nadia」の魅力が広がってきている。

 

今回は、Nadiaがなぜここまで大きな成長を遂げたのか、その秘密や経営理念について、Nadia運営会社の株式会社OCEAN’S代表取締役社長CEO 葛城嘉紀さんを直撃取材。急成長するメディアを育て上げた立役者の言葉には、ビジネスのヒントがあふれている。ぜひ全ビジネスマンに読んでほしいインタビューだ!

 

“味・レシピ・写真” 三拍子揃ったプロが手掛けるレシピサイト「Nadia」

 

――まずは、レシピサイト「Nadia」のサービスの特徴を教えていただけますか?

 

葛城 「Nadia」は、厳しい審査を通過した約600名の「Nadia Artist」と呼ばれる料理家、料理研究家、フードコーディネーターの方だけが投稿できるレシピサイトです。誰でも投稿できるわけではないので、質の高いレシピや写真だけが必然的に集まっており、その結果、ユーザーの方々からご好評いただいています。

 

――コロナ禍によってアクセス数がぐっと上がったとお聞きしていますが、具体的に人気が高かったレシピの傾向などはありますか?

 

葛城 お菓子作りをする人が増えましたね。ホットケーキミックスを使ったレシピも人気でした。あとは、炭水化物系のレシピ……チャーハンやパスタなどのレシピがかなりアクセス数増でしたね。家にいる時間が長く、食費もかかるため、大量調理で乗り切りたい! という方が多かったからでしょうか。

 

――検索レシピ結果を紐解くと、その時々の時代背景がわかりますね。

 

葛城 本当にそのとおりです。昨年8月は野菜の値段が高騰しましたが、あっという間に野菜をたくさん使ったレシピのお気に入りが減りました。それが12月に入って値段が落ち着いてきたら、再び増えだしましたからね。あとは、「クリスマス」でレシピを検索する人が例年より多いのも特徴的でした。外でイベントができないから、おうちクリスマスをやろうという人が増えたからでしょうね。

 

「全ての行動は誰かのために」をモットーに30歳で起業

 

――料理サイトはいくつもありますが、サイトの運営と並行して、料理家の方々を「Nadia Artist」としてマネジメントするというビジネスは新しいと感じました。この企業形態に至った理由や起業した背景についてぜひお聞かせください。

 

葛城 もともと音楽が好きだったので、「好きを仕事にしたい」という想いから、最初はソニー・ミュージックエンタテインメントに入社しました。L’Arc~en~Cielやゴスペラーズ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなどアーティストの音楽プロモーターとして、テレビ局やラジオ局にCDを持ち込んでいましたね。とても楽しかったのですが、自分の好きなことを追求するよりもだんだんと「誰かの成功のために貢献して、『ありがとう』と言われること」のほうが、やりがいがあるなと感じるようになり、「全ての行動は誰かのために」という自分なりの信念を掲げました。その想いを体現するには、別に音楽じゃなくてもいいな、と。そこで、どの方法がもっとも人に貢献できるか? と考えたとき、自分で会社を立ち上げることが一番だと思ったんです。

 

――それで、すぐに起業したのでしょうか?

 

葛城 いえ、まずはビジネスを学べる会社に……とリクルートに転職しました。SUUMOなどのインターネットメディア運営を手掛けた後、30歳で起業しました。

はじめはいろいろな会社のHPやシステムを作っていたんですが、「HP作ります」っていう会社は死ぬほどあるじゃないですか。それでは、自分の強みが表現できないなと感じていて。自分が選ばれる理由を持つサービスやプロダクトを作らないと、と悩んでいましたね。そんなとき、料理の出版等を取り扱う経営者の方や料理研究家の方々に出会う機会がありました。「料理研究家ってなに? そんな職業あるの?」という未知の分野だったんですが、話を聞いていると非常に興味深いんですよね。子どもやパートナーのために料理を作りたいという人に向けて、リクエストにピッタリのレシピを提供する。まさに、「誰かのために」を体現している職業だな! と。僕の信念である「全ての行動は誰かのために」に、バチッとハマったんです。

そんな流れがあり、ソニー・ミュージックエンタテインメントで経験した人のマネジメントと、リクルートで経験したメディアコンテンツ事業を”料理”という事業領域で合体させ、「Nadia」という新サービスを作ることになりました。

自分の強みやキャリアを改めて棚卸しし、自身の強みを活かした唯一無二のサービスをつくることを心がけています。苦手なことは隠す程度、得意なことに全力投球するがモットーです。

 

良質なコンテンツを積み重ねれば、必ずメディアは大きくなる

 

――2012年にサイトがオープンし、直近3年ではユーザー数を約5倍に伸ばしています。まさに順風満帆で快進撃を続けていますが、ズバリ、その秘訣は何でしょうか?

 

葛城 Nadia Artistの想い、そしてひとつひとつのレシピを大切に、サイトを運営していることが大きいと思います。時短レシピもあれば手の込んだレシピもありますし、たくさんの食材を使った栄養重視のレシピも、食材ひとつだけで作れるレシピもあります。そのときに流行っているレシピだけを集めるのではなく、Nadia Artistの個性を活かした料理の発信を大切にしています。

そして、僕らOCEAN’Sのスタッフは、レシピをより輝かせるための表現方法や、マーケティングをもとにした展開方法をアドバイスしたり、投稿や提案されたレシピに対するフィードバックを細やかに行うよう助言したりと、Nadia Artistが気持ちよく活動できるよう陰で支えています。Nadia Artistの方と伴走している感じですね。

 

――Nadia Artistとスタッフ、お互いの夢を応援し、それぞれが自分の役割をきちんと果たしてきた結果、ユーザーに受け入れられるサイトに成長したのですね。

 

葛城 良質なコンテンツを少しずつためていけば、必ずメディアって大きくなっていくんですよね。インターネットメディアが指数関数的に成長していくことはリクルートでの経験からわかっていましたし、アクセス数が上がるにつれてマネタイズもついていくと理解できていました。あとは、我慢して経営を続けていけるか、モチベーションをキープできるか、ともに戦える仲間はいるか、資金をショートさせないか……そんなことを考えながら、10年弱走り続けてきました。今でこそ約75,000レシピありますが、開設当初は1レシピでしたから。

ようやくスタートラインに立って、走り出せたかな、と思っています。まだまだ、これからです!

 

一貫してブレない企業理念

 

――さらに会社を成長させていくため、そして葛城さんの理念を会社全体に浸透させていくために、経営者として心がけていることはなんでしょうか?

 

葛城 ふたつあります。ひとつは、恒久的に僕自身が会社の理念を発信していくこと。スタッフからしてみれば、また同じことを言っていると思ってしまうかもしれませんが……毎日生きていれば、いろんなことがあります。コミュニケーションのエラーが起こったり、嫌なことがあったり、感情って些細なことでも揺れますよね。だからこそ、「常に僕たちが向かっていくのはここだよね」ということをブレずに発信するよう意識しています。

水槽の水は、全員が意識して気をつけていれば綺麗に保てますが、一旦濁ってしまうと、綺麗に戻すのが難しいですよね。経営のトップは、水槽の水を綺麗にもできるし濁らせてしまう力も大きいので、常に気を引き締めて、全員の意識を同じ方向に定めていかねばと思っています。

ふたつめは、人事評価形態にいまお話した理念を直結させている点です。たとえばうちの会社は挨拶を頑張っているんですが、人事項目に「挨拶をしていますか?」というものがあるんですよ。極端な話、手っ取り早く評価を上げるには、挨拶をしっかりしたらいい。「この会社ではこれをやれば、きちんと評価される」というものを、わかりやすく組み込んでいます。それを実践している人を評価する、という経営者として社員への約束ですね。

これらの想いや理念は、今後もブレません。同じ志を持った仲間を集めて、さらに上を目指していきたいと思っています。

 

『Nadia magazine』を通じて、新しい層へ「Nadia」の魅力を伝えていきたい

 

――このたび、Nadiaとワン・パブリッシングがタッグを組み、『Nadia magazine』というムック本が発売されました。webメディアと紙のメディアがコラボするということで大きな可能性を感じますが、葛城さんがこのムック本に期待されていることは何でしょうか?

 

葛城 「食で誰かのために貢献していきたい」というテーマは変わりませんが、これまでNadiaというサイトでは届かなかった方々へ『Nadia magazine』を通じてレシピを届けられるのが一番の喜びです。インターネットが使えない環境の人や紙ベースの方が料理しやすいという人は、たくさんいらっしゃると思うので。また、Nadia Artistたちの活躍の場、露出の場が増えることにもなりますので、そちらも注目しています。『Nadia magazine』を通じて、より多くの方にNadiaの魅力が届くといいなと思っています。

 

 

葛城さんから発せられる言葉一つひとつに熱い想いが込められていて、OCEAN’Sという会社、そして「Nadia」というサイトの底しれぬパワーを感じた取材だった。今後のNadiaの動向、そして葛城さんのさらなるチャレンジに注目したい!

 

 

【プロフィール】

葛城 嘉紀(かつらぎ よしき)

大阪府藤井寺市出身。 同志社大学卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社し、L’Arc~en~Cielやゴスペラーズなどの音楽プロモーターとして音楽業界に従事。その後、株式会社リクルートにて新規事業開発およびSUUMO事業の営業や事業企画に携わる。2011年に独立。株式会社OCEAN’Sを創業し、「食」と「料理」の分野で活動している。アマチュアキックボクサーとして試合にも出場している。

Nadia https://oceans-nadia.com/

 

【Nadia magazine vol.01】

2021年1月14日発売

判型・ページ数:A4・96ページ
定価:本体680円+税

https://www.amazon.co.jp/dp/4651200672

 

 

(撮影:我妻慶一/取材・執筆:水谷花楓)