冷凍食品メーカーのニチレイフーズが全国で展開していた自販機「24hr.HOT MENU」。焼きおにぎり、ホットドッグなどを気軽に食べられる自販機でこれまでにパーキングエリア、公園、オフィスビルなどで展開されており、目にしたこと、口にしたことがある人も多いでしょう。
ですが、この「24hr.HOT MENU」は2021年5月をもって自販機の中の商品の供給を終え、以降は徐々に引退していく予定。SNS上では残念な思いを綴る投稿が多く上がっていました。それほどまでに支持を得ていた自販機は、なぜ廃止されてしまうのか? そこで、ニチレイフーズの「24hr.HOT MENU」担当者・渋江信二郎さんに、これまでの「24hr.HOT MENU」の流れと、廃止の理由、そして気になる自販機廃止後の代替商品などについて話を聞きしました。
「24hr.HOT MENU」の歴史は29年。全盛期には全国約3500台が稼働した
--まず、「24hr.HOT MENU」の成り立ちから教えてください。
渋江信二郎さん(以下、渋江):自販機は1991年に自販機が誕生し、1993年から全国展開しました。始めた頃は、オフィスユーザー向けをイメージしていて、たとえば残業時などで、軽い夜食みたいな感じで食べていただきたいと思っていました。
それが後にスキー場、温浴施設、アミューズメント施設、サービスエリア、パーキングエリア、公園、運動施設、病院など、人が多く集まる場所に展開を広げていったという流れです。
自販機のメリットは、24時間いつでも温かいものを買えること。ちょっと小腹が空いた際などにご利用いただく方が多かったと認識しています。
--最盛期で、全国でどれほどの数を展開していたのですか?
渋江:最盛期で約3500台くらいです。特に全国にあるサービスエリア、パーキングエリアの4割ほどに設置していたくらい、ご支持をいただいていました。
--今回の廃止を受けてSNSでは、残念がる声が多く上がっていました。
渋江:ネット上には、ニチレイ商品に対する有志のファングループの方がたくさんいらっしゃいます。そういったご意見を見ると、おそらく自販機ならではの思い出が強いのではないかとも思っています。
たとえば、子どもの頃、遊園地にお父さんと行き、その場で食べた思い出。仕事で残業していて行き詰まった際に、深夜に食べた思い出。病院で緊迫された後に、安心して食べた思い出など……「24hr.HOT MENU」はこういったエピソード付きの商品で、心とお腹を満たすことができたのかなと思っています。ご利用くださった方には「今まで本当にありがとうございました」と、感謝の気持ちでいっぱいです。
「廃止を避けられなかった」自販機の特殊構造
--多くの支持を得ていた「24hr.HOT MENU」が、なぜ廃止されることになったのでしょうか。
渋江:「24hr.HOT MENU」を見たことがある方ならご存知の通り、普通の飲料の自販機と同じくらい大きさなんですね。でも、あの機械の中には「冷凍保存をする機能」に加え、購入した後に「すぐに温める機能」も合わせ持っていました。
温めるほうのレンジはコンビニなどでも採用されている業務用のものを内蔵していて、さらに四角いパッケージが転がりながら落ちてくる構造も備わり、すごく特殊な作りになっていました。
しかし、自販機を製造してくださっていたメーカーさんが2010年を機に生産を取りやめることになりました。その後、部品交換などの修繕はできていたんですけど、根本的なトラブルを起こした際には、対応できなくなると。「冷凍保存」「温める」の両方を兼ね備える構造を、改めて開発するというわけにはいかず、やむなく廃止・撤去することになりました。
「24hr.HOT MENU」の一部商品に代替となるものも?
--現在残っている台数は全国でどれくらいですか?
渋江:5月下旬時点で言いますと、首都圏を中心に400台くらいはまだ稼働をしています。ただ、「24hr.HOT MENU」に入っている商品の生産自体はすでに終えているので、在庫がなくなり次第、撤去させていただく予定です。おそらく秋口にはほぼ撤去が終わっているのではないかと思います。
--完全になくなった際、「思い出の味」がもう口にできなくなるのが寂しいです。例えば、スーパーなどで販売されている冷凍食品で代替できるものはありませんか?
渋江:「24hr.HOT MENU」に入れていた商品は、あくまでも「24hr.HOT MENU」用で完全なる代替商品はありません。ただし、近しい商品はいくつかあります。おおむね下記になります。
「『24hr.HOT MENU』焼おにぎり」
「焼おにぎり(10個入)」
醤油だれを「塗って焼いて」を繰り返し、香ばしく仕上がっているおにぎり。近しい味が楽しめるとのことです。
「『24hr.HOT MENU』からあげチキン」の場合
「お弁当にGood! からあげチキン」
お弁当用商材として人気がある同商品。「24hr.HOT MENU」は廃止になりますが、代替品としてこちらもぜひ賞味して欲しい冷凍食品です。
「『24hr.HOT MENU』今川焼」の場合
「今川焼(あずきあん)」
「24hr.HOT MENU」の今川焼と生産工場が異なりますが、こちらもニチレイフーズでは代替品になると考えているそうです。
--ちなみに、人気があったホットドッグ、ハンバーガーなどはいかがですか?
渋江:残念なことに代替商品としてご紹介できる弊社商品がないんです。また、「24hr.HOT MENU」ならではの台湾飯というご飯も人気があったのですが、これも現在は代替商品がありません。
「24hr.HOT MENU」では、自販機ならではのメニューを展開していたため、スーパーなどの量販店の市場での展開とは全く異なるんですね。そういった背景もあり、どうしても完全に廃盤にせざるを得ない商品もあったというわけです。この点はご愛顧くださった方に、本当に申し訳なく思っています。
ニチレイフーズの愚直な「味」へのこだわりは「24hr.HOT MENU」廃止後も続く
--「24hr.HOT MENU」廃止を惜しむ多くの声があるのは、先程あった「思い出補正」もあるかもしれません。しかし、「味」が美味しくなければ、29年間も支持を得られないと思います。ニチレイフーズの冷凍食品にかけるこだわりをお聞かせください。
渋江:私どもが商品に対する考え方の根本には、「プロの料理人の製法・工程を忠実に再現する」というものがあります。
たとえば、中華料理のプロの動作が炒飯を作る場合、理由はわからないけど、「ここでいったんお玉をひっくり返す」みたいな作業がありますよね。こういった動作には必ず、美味しさを実現するための理由があるわけですが、こういったことを愚直に追及して、商品を作り上げています。
渋江:また、各商品の隠し味に使っている出汁にしても、弊社の商品は実は全部手作業なんです。人間の手で鶏ガラをとり、アクをすくう作業も全て人の手によって行います。ここまでやっている冷凍食品メーカーはおそらく他にないと思います。だからこそ味を信頼していただいているのだと思います。
--「24hr.HOT MENU」の商品にも、こういった「味」に対する強いこだわりが反映されていたというわけですね。
渋江:はい。今回の「24hr.HOT MENU」廃止は本当に残念ですが、今後もこの姿勢は変わりません。今後はスーパーなどでの冷凍食品で、さらなる美味しさをお届けし続けたいと思っています。
ニチレイフーズの企業コンセプトは「くらしに笑顔を」だそうです。今回廃止になる「24hr.HOT MENU」はこのコンセプト通り、身近な場面で、気軽に美味しく軽食を楽しませ笑顔をもたらしてくれた商品だったように思います。
本文にある通り、秋口までに姿を消すことになる「24hr.HOT MENU」。お近くで見かけた際は、ぜひ最後に味わってみてはいかがでしょうか。
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