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2021/9/30 17:00

焼酎のふるさと宮崎「黒壁蔵」へ! 10のキーワードで読み解く全量芋焼酎「一刻者」の”こだわり”

宝酒造「一刻者」発売20周年の2021年。全国的に見ても貴重な全量芋焼酎「一刻者」は、いったいほかの芋焼酎とは何が違うのか。そして20年にわたって守り続けてきた「こだわり」とは? 宝酒造の焼酎製造の要「黒壁蔵」における製造の全工程を追うとともに、ブランド責任者などへの取材を敢行。一刻者の秘密を10のキーワードで丸裸にする!

 

一刻者について、ここまで掘り下げた記事は宝酒造でも初めてだという。全国の焼酎ラバー、一刻者ファンにとっては保存版といえる内容に仕上がったので、ぜひ最後までご覧いただきたい。

 

 

 

「一刻者」とは?

2001年9月4日にデビューした「一刻者」。この、20年前の市場や時代背景を簡単に解説しよう。“乙類焼酎”ともいわれる本格焼酎は1990年代ごろまで九州を中心に愛される地方の酒だった。それが2003年ごろになると、全国的な焼酎ブームが到来。このムーブメントをけん引したのが芋焼酎である。

 

ブーム前夜に生まれたのが「一刻者」だが、開発の起点はさらに数年さかのぼる。根幹には「芋だけの焼酎をつくったらどのような味わいになるだろう?」という職人たちの想いがあった。当時の芋焼酎の多くは、芋のでんぷんを糖に変える工程で米麹を使用するのが当たり前であった。宝酒造の芋焼酎づくりも麹に米を使っていたため、「芋100%」とは言えなかった。しかし、この米麹を芋麹にしたら、一体どんな味わいが生まれるのか……当時の蔵人たちは、その好奇心に抗えなかったのである。

 

【キーワード01】一刻者:宮崎県高鍋町の「黒壁蔵」でつくられる本格芋焼酎。芋と芋麹だけの芋以外の原料を使用しない「全量芋焼酎」であることが最大の特徴。本来、「一刻者」とは南九州の話し言葉で「頑固者」「自分を曲げない人」のことを指し、これになぞらえて芋100%への頑固なこだわりを表現した。

【キーワード02】2001年:全量芋焼酎「一刻者」が誕生した年。発売日である9月4日は2021年同日に「一刻者の日」と制定された。

 

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「黄金千貫」と「芋麹」――素材への「こだわり」

職人たちが思い描いたのは、芋と芋麹による芋100%の純芋焼酎。つまり全量芋焼酎だ。しかし、芋は米よりも麹にするための扱いが難しく、開発は困難を極めることに。そうした結果、6年もの歳月をかけて世に送り出されたのが2001年なのである。

 

「一刻者」のブランド責任者である、宝酒造の商品第一部蒸留酒課、髙井晋理(たかい・しんり)課長は先達への想いを馳せる。

 

「芋は米よりも水分量が多いため、麹菌が根付きづらいことが最大の課題だったと聞いています。突破口となったのが『焙炒(ばいしょう)処理』による製法。芋を賽(さい)の目状に切りコーヒー焙煎のように熱処理をすることで乾燥させ、最適な水分にし、麹菌が生えやすくする当社の特許技術です」(髙井さん)

 

米と芋、農産物としては同じでも水分量は真逆だ。米粒と芋ではサイズもまったく異なる。もともと乾燥している米は、水を吸わせていくためコントロールがしやすい。一方で芋は水分を多く含んでいるため芋麹づくりでは乾燥させていくわけだが、狙い通りの水分量まで減らして麹を根付かせることはきわめて難しいのだとか。

 

では、芋麹を使った全量芋焼酎の味わいは、米麹とはどう違うのだろうか。

 

「当社にも米麹を使った芋焼酎がありますが、米は芋よりも油分が多いため雑味も生まれやすく、独特の酸化臭につながることもあります。この油分が少ない芋はクリアな酒質となり、芋本来の甘やかで花のような香りをよりダイレクトに感じやすい味わいとなるのです」(髙井さん)

 

「一刻者」の魂ともいえる芋は、「黄金千貫(こがねせんがん)」という品種である。その特徴や選定、管理や収穫時期についても聞いた。

 

「『黄金千貫』は糖となるでんぷんの量が豊富な黄白色の甘藷(かんしょ)で、発酵も旺盛。食感もいいので最近では青果に用いられることもあります。味わいの特徴は、いい意味でシンプルな、ピュアな芋らしさ。粘りが少ないため加工がしやすく、芋焼酎づくりには最適な品種のひとつですね。

一方、繊細で傷みやすい側面をもっているため、『一刻者』では収穫から48時間以内に切って蒸して火を入れてといった工程へ進みます。すべて地元・南九州産の『黄金千貫』を使いますが、これは鮮度のよい採れたての芋にこだわっているからです」(髙井さん)

 

「黄金千貫」の栽培は毎年3月後半から4月にかけて始まる。種芋から苗をつくり5月ごろまでに植え、8月中旬ごろから収穫をして都度すぐに加工へ。こうして年末または年明けごろまでに、「黄金千貫」は「一刻者」へと姿を変えていく。最盛期には1日40~50トンの芋を使用するとか。

↑長年の経験を積んだ人の目によって黄金千貫が選別される(2018年撮影)

 

「芋のサイズも重要で、大きすぎても小さすぎても狙った味わいにはなりません。生産者様との信頼関係のもと、良質かつ適した大きさの芋を納品いただいています。そこから洗浄し、人の目と手で傷や汚れがないかをチェックするとともにカット。その後、潰して蒸してという工程に進みます」(髙井さん)

 

【キーワード03】芋麹:麹とは原料に麹菌を繁殖させたもの。酒づくりでは、でんぷんを糖に変える際に使われる。芋麹は芋に麹菌を根付かせたもので、一般的な米麹に比べて芋麹をつくる作業は難易度が高い。

【キーワード04】全量芋焼酎:芋と芋麹による芋100%の純芋焼酎。芋だけを使用しているため、雑味が少なくすっきりとした味わいになり、芋が本来持つ華やかな香りが際立つ。

【キーワード05】6年:「一刻者」の誕生までにかかった年月。デビューが2001年であるため、開発は1995年から始まっていたことになる。

【キーワード06】黄金千貫:南九州を中心に栽培されている甘藷。でんぷん質が多く、ホクホクとした食感ややさしい甘さが特徴。

 

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※イラストはイメージです

 

仕込みへの「こだわり」

特許である焙炒技術をはじめ、「一刻者」にはハイクオリティな製法が凝縮されている。それは芋と芋麹を発酵させて仕込むもろみづくりや、もろみからアルコールを回収する蒸留工程でももちろんのこと。生産量が多いため製造には機械も用いるが、特にデリケートな部分は職人の五感をフル活用している点もこだわりのひとつである。

 

「『黄金千貫』は繊細な芋ですし、クリアで華やかなおいしさを届けるには、細やかなコントロールや品質管理が欠かせません。例えば仕込む際の水分量や加熱時の温度、異音や異臭はないか、機械が正常に動作しているかなどを職人が直接確認し、メンテナンスを行うことも重要な仕事です。30分や1時間おきにチェックする工程もありますね」(髙井さん)

 

冒頭でも触れたが、本格焼酎とは乙類焼酎とも呼ばれ、単式蒸留機を用いてつくりだす。対となるのは、連続式蒸留機を用いる甲類焼酎だ。それぞれに特徴があり、甲類焼酎は塔のように高い連続式蒸留機で蒸留と冷却を繰り返し行うなかで雑味を取りながら、純度の高いピュアな焼酎を精製する。

 

乙類焼酎の単式蒸留機は玉ねぎのような形をした釜で、1回ぶんのもろみに対する蒸留は通常1回。そのため原料の風味などが原酒に残り、個性的な焼酎ができ上がる。「黒壁蔵」では「一刻者」以外の乙類焼酎も製造しており、様々な蒸留機が稼働しているが、「一刻者」に使われるのは小さめの単式蒸留機だ。

↑単式蒸留機

 

「『黒壁蔵』には複数の単式蒸留機がありますが、『一刻者』に使うのは全量芋ならではの香り、味わいを引き出せる小さいタイプ。大量生産には向かないのですが、複数の蒸留機をを稼働させることで安定的に蒸留しています。蒸留方法は、伝統的な常圧蒸留。こちらも、芋本来の甘みにこだわる『一刻者』に適した製法です」(髙井さん)

 

蒸留には気圧を下げることで、低い温度での蒸留を可能にする減圧蒸留と、大気圧と同じ気圧で行う常圧蒸留がある。減圧蒸留はライトですっきり、常圧蒸留はコク深くうまみ豊かな味を作りやすい特性があり、「一刻者」は後者ということだ。なお、蒸留機から出る留液はすべてが焼酎になるわけではない。これも職人の味覚と経験によって、おいしい部分のみを取り出すのである。

 

「留液は流れ出るタイミングで味が異なり、最初は荒々しく、最後は雑味を多く含むためその中間の液体のみを使用します。この見極めにも高い技術を要し、基準となる目標値はあるが最終判断は職人の鼻や舌で官能検査を行い、採用する部分を判断しています」(髙井さん)

 

【キーワード07】単式蒸留:1回ずつしか蒸留できない単式蒸留機を使い、もろみからアルコールを回収すること。何度も蒸留を繰り返す連続式蒸留機に比べて、原料の風味が残るのが特徴。

【キーワード08】黒壁蔵:宮崎県高鍋町にある、宝酒造の焼酎製造の要。シックな黒いルックスは蔵に根付く黒い微生物をイメージしたもの。実際に日向灘から吹く風のミネラル分を栄養源とするアルコールを好む黒い微生物が外壁に繁殖して工場全体は黒く見える。

 

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「石蔵」における熟成への「こだわり」

蒸留した原酒は、その後冷却ろ過で油分などを取り除いて熟成させる。寝かせることで香りは華やかに、味はまろやかになり、条件を満たすおいしさになったものからボトリング、出荷となるのだ。この熟成工程を、さらなる好環境で行えるようにしたのが「黒壁蔵」の敷地内に建設された「石蔵」である。

 

「『一刻者』の魅力のひとつに繊細で上品な味わいがありますが、このおいしさを安定してお届けするためにこだわったのが熟成環境です。『黒壁蔵』がある高鍋町は、夏はさんさんと降り注ぐ日差しで暑くなりますが、冬は冷え込む日が意外と多い場所ですから、一定の温度帯で熟成することがいっそう重要であるという答えを導き出しました。そうして2019年に完成したのが、温度変化が起きにくい構造を持つ『石蔵』です」(髙井さん)

 

↑2019年完成の石蔵

 

「黒壁蔵」の雰囲気や、頑固者を意味する「一刻者」にふさわしい貯蔵設備が誕生したのだ。幅16メートル、奥行き35メートル、高さ9.75メートルの石蔵内部にタンクが何本も置かれ、その中にはボトリング前の「一刻者」が眠る。そして今日もここから、熟成の時を経た「一刻者」が全国へと出荷されていくのだ。

 

【キーワード09】石蔵:2019年、「一刻者」を貯蔵するためだけに作られた石造りの蔵。温度変化が起きにくいため、安定した環境で熟成できる。

 

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「一刻者」のふるさと高鍋町の名所を探索

「一刻者」のふるさとである高鍋は人口約2万人の町だが、いったいどんな場所なのか。いくつかの名所を紹介したい。

 

●舞鶴公園

まずは敷地内に高鍋町歴史総合資料館を有する「舞鶴公園」。地形が鶴の羽ばたく姿に似ていたことから、舞鶴城と呼ばれた高鍋城の史跡公園だ。

↑高鍋城の石垣なども残る舞鶴公園

 

高鍋城の歴史は古く、平安時代中期に日向の豪族となった土持氏によって築かれたといわれ、その後戦国時代には伊東氏、島津氏といった主を経て、明治の廃藩までは秋月氏が居城とした。現在は秋月種樹の邸宅を復元した「萬歳亭はなれ」などがあり、公園は「桜まつり」や「灯籠まつり」の会場としても町民に親しまれている。

 

●高鍋大師

観光地として有名なのが、町北部の丘陵に位置する「高鍋大師」だ。近隣にある持田古墳群の霊を慰めるため、町内で米穀店を営んでいた岩岡保吉という人物が開山。四国八十八か所を模した仏像をはじめとする大小様々な石像が並び、街のシンボルとなっている。

↑オリジナリティあふれる石像が並ぶ

 

圧巻なのはそのスケールだ。石像は700体以上あり、なかには7メートルを超える巨大なモニュメントも。これらは1932年ごろから1976年にかけて岩岡氏が私財をなげうちつくったというが、その期間は44年。なんたる一刻者だろうか。なお、ここは高台にあるため日向灘などが一望できる絶景スポットにもなっている。拝観や見学は自由だ。

 

●蚊口浜

東に日向灘を臨む高鍋は、海の町としても人気。特にビーチスポットとして知られるのが、高鍋駅からも近い場所にある「蚊口浜(かぐちはま)」だ。南北に長い海岸は海水浴向けとサーフィン向けにエリアがわかれ、さらにキャンプ場を併設しているなど多彩な遊びができる。

また、春は潮干狩りであさりなど、秋冬は高鍋名物の天然かきがとれることで、季節を問わず多くの人が集まる行楽地となっているのだ。

 

●高鍋餃子

高鍋町のグルメといえば、全国的にも知られる「高鍋餃子」である。そもそも宮崎は餃子愛が強い県で、総務省の家計調査によると、2021年上半期の1世帯あたり餃子購入額では宮崎市が2年連続の首位。2位の浜松市に大差をつけたのだ。そんな宮崎県のなかでも有名な「餃子の馬渡」と「たかなべギョーザ」が人口2万の高鍋町にあることで、数年前から「高鍋餃子」が話題となりジャンル形成されたのである。

↑餃子の馬渡

 

「餃子の馬渡」の三代目、馬渡陽一郎店主に歴史を聞くと、創業は1967年。ルーツは、宮崎最古の餃子店といわれる延岡市の「黒兵衛」で初代が修業し、独立後に高鍋に開いたのが「餃子の馬渡」だったとか。餃子の専門店としては高鍋初。皮も具も特徴的で、1日平均1万5000個も売れるという。これは町民の3/4が毎日1個を食べている計算だ!

↑人気の焼き餃子

 

「うちは野菜が多めで、肉との割合は7対3。特に高鍋名産のキャベツは欠かせません。ほかに玉ねぎ、にら、にんにくを使っています。食感はもっちりとした弾力と強いコシにこだわり、何度も足踏みした生地を厚い皮に仕上げています。捏ねる時間は天気や温度、湿度によって変わりますが、平均すると1時間程度ですね。具材も皮も味付けも、創業時からずっと変わっていません。ある意味、うちの餃子も一刻者ですね」(馬渡さん)

 

なお、もうひとつの名店「たかなべギョーザ」はサクッとした薄めの皮で、「餃子の馬渡」とはまた違った魅力が楽しめる。オンラインショップでの販売もしているので、ぜひ「一刻者」との至福のペアリングを試してほしい。

 

【キーワード10】宮崎県高鍋町:日向灘に面した宮崎県のほぼ中央に位置する町。江戸時代には秋月家3万石の城下町として栄え、明治以降は児湯地方の中心地として発展した。「一刻者」のふるさと「黒壁蔵」がある。

 

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素材、製法、年月、環境。これらのこだわりとともに10のキーワードで「一刻者」の魅力を解説したが、どのこだわりが欠けても生まれなかった焼酎だといえるだろう。揺ぎない信念をもった一刻者が集まり、頑固に芋のうまさにこだわった全量芋焼酎。それが全量芋焼酎「一刻者」。その深いこだわりを、ぜひ味わってみてはいかがだろうか。

 

【一刻者についてもっと知りたい方はコチラ

 

取材・文/中山秀明 イラスト/大澄 剛 写真/村田 卓(go relax E more)(風景)