グルメ
お酒
2022/3/23 19:15

麦焼酎の歴史とつくりを知り、味わいを楽しむ噺

【意外と知らない焼酎の噺05】

日本酒と並ぶ日本の伝統的なお酒・焼酎。ただ、その製造方法などは、あまり詳しく知られていないかも。そこで、焼酎のいろはから専門的なコトまで、『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長がナビゲーターとなって探っていきます。

 

※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。

 

第5回のテーマは、「本格焼酎とは何か<麦焼酎編>」。前回紹介した「芋焼酎」と肩を並べる人気の「麦焼酎」。その歴史や製造方法、味の特徴などについて深掘りしていきます。

 

【酒噺のオススメ記事はコチラ】
「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】
「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 【意外と知らない焼酎の噺02】
いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺【意外と知らない焼酎の噺03】
芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺【意外と知らない焼酎の噺04】

 

●狩野卓也(右):酒文化研究所・代表取締役。洋酒メーカー勤務などを経て、1991年に同研究所を設立。1996年より現職。酒文化及び酒類ビジネスに関する調査研究や執筆、講演活動を行っている。著書に『酒と水の話-マザーウォーター』(紀伊国屋書店、同研究所編・共著)など。
●倉嶋紀和子(左):雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名

 

「麦焼酎」はどこで生まれた?

倉嶋 今回のテーマは麦焼酎ということで、まずはその歴史から教えてください。確か、長崎の壱岐島が発祥だと思うのですが、芋焼酎より歴史は古いんですよね。

 

狩野 はい。この企画の第1回「焼酎って何」で、いま私たちが目にしている焼酎が生まれたのは戦国時代(室町時代後半)という話をしましたよね。壱岐は大陸からの焼酎伝来ルートでもあり、壱岐焼酎の歴史は16世紀まで遡ります。芋焼酎は、原料であるさつまいもの伝来が17世紀ごろで、焼酎作りに使われるのはその後ですから、麦焼酎のほうが芋焼酎より歴史が古いと言えますね。

 

倉嶋 なるほど。焼酎の原料は大昔から栽培されていた麦や米が主流だったということですか。

 

狩野 そもそもは、米や麦をはじめ雑穀や酒粕などいろんなものから作られていました。米は年貢で納める高価な作物でしたから大変貴重です。そのため庶民が食べていたのは、米の裏作で作る麦や雑穀が中心でした。そして、壱岐は島ながら平野が広く米や麦といった穀物の一大産地でした。こういうバックボーンが麦焼酎のルーツの理由と考えられます。

 

倉島 なるほど。年貢の対象である米をお酒にするのは難しかったけど、麦なら可能だったと。それで、穀倉地帯の壱岐では麦焼酎が生まれたということですね。ちなみに、きび・あわ・ひえといった雑穀でも焼酎はつくれると思いますが、なぜ麦だったのでしょうか。

 

狩野 大きな理由として、雑穀は麦、芋、米などに比べてでんぷんが少ないからでしょう。でんぷんが少ないと発酵の効率が悪く、たくさんの量をつくりづらいですから。

 

 

倉島 なるほど、前回の芋焼酎の話にも通じますね。芋焼酎のさつまいもは、でんぷん含有量の多い品種が選ばれやすく、それが「黄金千貫(こがねせんがん)」だったと。麦と雑穀では、より効率的に焼酎をつくれる麦が選ばれたということですね。

 

狩野 最初は、農家が余った麦を持ち寄ったりして、自家醸造に近い状態でつくっていたのだと思います。「あそこの家はおいしい焼酎をつくれるらしいよ」といった感じで、各地に焼酎づくりの名人がいたんでしょうね。

 

倉島 自家醸造というと、どぶろく(米・麹・水が原料の濾過していない酒)に近いイメージです。

 

狩野 そういう牧歌的なつくり方が最後まで残っていたのは、東京都の島しょ部である青ヶ島の焼酎。ここでは芋や麦焼酎が作られていますが、昭和中期まではそんな形式でした。同島に法人化された酒蔵ができたのは1984年です。

 

倉島 平成になる数年前まで寄合で焼酎をつくっていたのですね。

 

狩野 いずれにせよ、焼酎の製法などが確立されていくなかで、九州を中心に焼酎蔵が誕生しました。明治末期には連続式蒸留が伝来して新式焼酎(現在の甲類焼酎の原型)が登場しますから、本格(乙類)焼酎である麦焼酎も、ひとつのカテゴリーとして確立されていったのです。

 

麦焼酎はどのようにつくられるのか

倉嶋 では、麦焼酎はどのようにつくられるのかを教えてください。

 

狩野 基本的には前回お話しした芋焼酎と大きな違いはありません。芋は水分が多いので傷みやすく、収穫後にすぐ下処理をしないといけませんが、麦は長期保存が利くため、比較的時季を問わずにつくれる点は特徴だと思います。これは米焼酎にも同じことがいえますね。

 

倉嶋 麦焼酎も、麹と水、酵母を混ぜて発酵させた一次もろみに、原料の麦を加えて発酵させた二次もろみを単式蒸留機で蒸留後、貯蔵、割水するという工程でつくられるわけですね。

 

●本格(乙類)焼酎の製造工程

 

狩野 ほかに麦焼酎の特徴を挙げるとすれば、「麦麹」がありますね。多くの芋焼酎には米麹が使われており、高度な技術が必要な芋麹を使用しているものは少数です。米焼酎や黒糖焼酎などにも米麹を使うのですが、麦焼酎には米麹のほかに麦麹を使うことがあるんです。

↑自動製麹機。麹菌を加えて麦麹をつくる

 

倉嶋 麦麹は、麦焼酎に使われる麹なんですね。

 

狩野 そうなんです。しかも興味深いのが、もうひとつの麦焼酎の名産地である大分では、多くの銘柄で麦麹を使うのですが、壱岐焼酎では使いません。壱岐では米麹を使うことが定義されているんです。

 

倉嶋 確かに、思い返してみるとそうだった気がします! でも、なぜ麦麹は大分の麦焼酎以外にあまり使われないのですか?

 

狩野 これは私の推測ですが、ひとつは技術的に麦麹をつくること、活用することが難しいということではないかなと。かたや米麹は日本酒で太古から全国で使われているので、ノウハウも文献もたくさんある。もうひとつは、でき上がりの味や香りが関係しているのだと思います。ちなみに、後述しますが、大分ではもともと麦麹を使う文化が発達していたので、焼酎にも麦麹が使われたのでしょう。

 

倉嶋 麦麹を使ったほうが、より麦らしい味わいになるということですか?

 

狩野 それが面白いところで、麦らしさという点では米麹の麦焼酎も負けてないと思います。ただ、麦麹を使うことで、米麹とはまた違った味や香りを生み出せるということでしょう。麦麹の麦焼酎も米麹の麦焼酎も、それぞれに麦らしい風味があるのですが、甘みや香ばしさに違いがある気がします。あと、麦100%の全量麦焼酎は、その響きだけでもおいしそうですよね。

 

倉嶋 はい。二大名産地の壱岐と大分との違いのひとつが麹というのも、より個性が際立って面白いと思います。

 

狩野 それぞれのストーリーがブランディングにもつながりますしね。

 

倉嶋 大分が焼酎の名産地になったのも、壱岐のように穀倉地域だからですか?

 

狩野 穀倉地域でもありますが、それ以上に前述の麦麹文化が大きいです。それに、大分が麦焼酎大国になるのは近年のこと。昭和26(1951)年に麦の統制撤廃が実施されて麦が自由に購入できるようになると、もともと麦麹で味噌や醤油をつくる文化があった大分では、焼酎用の麦麹の開発が始まったんです。

 

倉嶋 そうか! それで麦麹による100%麦焼酎が生まれ、大分の麦焼酎の特徴が先鋭化されていったということですね。

 

狩野 そして最初の100%麦焼酎は、昭和48(1973)年に誕生しました。焼酎の長い歴史の中でいうと、比較的最近ですよね。あとは「減圧蒸留」による軽快な味の麦焼酎がヒットしたことも、大分の麦焼酎を語る上で欠かせません。

 

倉嶋 なるほど。その軽快な味も1980年代の麦焼酎ブームに関係してるんですよね。

狩野 「常圧蒸留」と「減圧蒸留」についても、あらためておさらいしましょう。「常圧蒸留」は通常の気圧で行われる伝統的な蒸留法。100℃近い温度でもろみを蒸留するため、高温で生成される風味を豊かに引き出すことができ、しっかりした味わいの焼酎になります。
一方の「減圧蒸留」は、気圧が低い場所では低い温度で水が沸騰する原理と同じ原理を生かした蒸留法。蒸留機内の気圧を下げることにより40℃~ 50℃で蒸留できるため、常圧蒸留よりも高温で生成する成分が抑えられ、口当たりの軽やかな焼酎がつくれるんです。

 

 

倉嶋 減圧蒸留の技術はいつごろ開発されたんですか?

 

狩野 焼酎に応用されたのは1970年代だと思います。もともと減圧蒸留は、アルコール精製の技術として生まれたもの。お酒をつくるために開発された技術ではないんです。科学が進歩した結果、気圧を下げても爆発せず液体も焦げない高性能な蒸留機が生まれ、それですっきりとしたアルコールを取り出せるようになったということなんです。

 

倉嶋 そうやって軽やかな味わいの本格(乙類)焼酎が生まれたことで、東京などの都市圏でも本格焼酎が飲まれるようになったんですね。

 

狩野 だと思います。本格焼酎に飲み慣れていない東日本では、本格焼酎は風味がきつくて飲みにくいイメージがありました。でもライトな味わいの本格焼酎は飲みやすいということで、東京をはじめ全国でヒットしたのでしょう。

 

倉嶋 飲みやすさですか。飲み慣れてくると、風味の強さがむしろおいしいともいえますけどね。

 

狩野 飲みやすさやおいしさという点では、貯蔵・熟成した焼酎の再評価もエポックメイキングな出来事です。甕貯蔵や熟成は時間をかける製法なので、贅沢なつくり方ですよね。焼酎は手軽に飲める大衆のお酒として親しまれてきましたから、熟成焼酎は一般的にはポピュラーではなかったんです。

 

倉嶋 社会が豊かになったことで貯蔵・熟成焼酎を商品化する余裕が生まれ、消費者に浸透していったということですね。

 

狩野 おっしゃる通りです。味わいとしては甕や樽で寝かせると、まろやかになって飲みやすくなったり、コクや香りに深みが出て風味豊かになったりしますよね。

 

倉嶋 つくり手のほうも、意欲的に味の進化へ取り組んでいったと。

 

狩野 甲類焼酎に定期的なブームが起こっているように、本格(乙類)焼酎にも何回かブーム繰り返しながら飲まれるエリアを広げていったことも焼酎文化の継承や発展には欠かせません。伝統がいまでも残っているのは、飲み手がしっかり支持しているということでもありますね。

 

倉嶋 焼酎ブームについては本企画の第3回「甲類焼酎の飲み比べ」でも学びましたね。本格(乙類)焼酎ですと、1970年代のお湯割りブーム、1980年代の麦焼酎ブーム、2000年代の芋焼酎ブームがありますよね。

 

狩野 それぞれのブームが起こった時代に、そのブームをけん引するヒット商品があったというのも焼酎の特徴ですよね。そしてブームがあったからこそ、焼酎の味わいもどんどん進化・多様化していったのです。

 

麦焼酎を飲み比べてみる

倉嶋 こうして歴史やつくり方を振り返ると、やっぱり焼酎は面白いです。焼酎王国の九州のなかでも県によって特色が違いますし。

 

狩野 多くはその土地の風土が関係してるんですよね。鹿児島や宮崎南部はシラス台地で、さつまいもが名産だから「芋焼酎」。宮崎でも北部になると、「そばや雑穀の焼酎」もあって、米どころの熊本・球磨人吉は「米焼酎」。長崎・壱岐と大分は「麦焼酎」。ということで、今回のテーマである麦焼酎の飲み比べに移りましょう。

 

倉嶋 はい! ぜひぜひ。

 

狩野 まずは、麦焼酎発祥の地である、長崎・壱岐の麦焼酎です。

 

倉嶋 これは、麦の香ばしさと、ふくよかな甘みが感じられますね!

 

狩野 米麹由来の甘い香りと麦の香ばしい香りが同時にかぎ取れて濃厚な焼酎に感じられますね。壱岐焼酎は米麹1/3、大麦2/3という原料構成がルールづけられているためか、減圧蒸留ではあるものの、すっきりさわやかというより濃厚でしっかりという印象をうけます。

 

 

倉嶋 甘味がある濃醇な味だから、水割りや炭酸割りの方がより特徴が活かされておいしいかもしれないですね。炭酸割りは、意外にチョコレートケーキとの相性もよさそうです。

 

狩野 続いて、大分の麦焼酎「知心剣(しらしんけん)」。国産二条大麦を100%使用した、全量麦麹仕込の麦焼酎です。しかも麹づくりに使われる麹菌はコクや香り豊かな酒質になる黒麹で、独自の低温蒸留を用いていること、3年以上貯蔵熟成していることも特長です。

倉嶋 「しらしんけん」は大分の方言で「一生懸命」のことですよね。うん、甘みが印象的で、酸味やボディもしっかり感じますけど、バランスがよくて飲みやすいです。

 

狩野 香りからしてインパクトがありますね。壱岐焼酎のやわらかな甘みとはまた違う、香ばしい甘みを感じます。バランスのよさは、独自の低温蒸留や長期熟成も関係しているのかな。風味はしっかりしてますけど、スイスイ飲めます。

 

倉嶋 おいしいです! この麦チョコのような甘香ばしさが、大分の麦焼酎のひとつの魅力なのかもしれません。

↑本格麦焼酎「知心剣」

 

 

狩野 次はスタンダードな麦焼酎である「よかいち<麦>白麹仕込」。やさしくまろやかな酒質に仕上がる白麹菌を使用することに加え、コクの強いタイプやすっきりしたタイプなど数種の焼酎をブレンドした、調和のとれた味わいとなっています。

 

 

倉嶋 ああ、同じ麦焼酎でも「知心剣」とは香りから違ってこれまたイイ! 味もすっきりしていて、余韻には鋭いキレを感じます。

 

↑本格焼酎「よかいち」<麦>

 

狩野 いわゆる麦焼酎の定番ですよね。甘香ばしい麦のインパクトは「知心剣」より控えめで、でもコクやキレのバランスがよく、飲み飽きないおいしさです。

 

倉嶋 確かに、万人受けしそうな味ですね。

 

狩野 最後は「琥珀のよかいち」。樫(かし)樽でじっくり寝かせた樽熟成酒を100%使用し、豊かな香りとまろやかな口あたりに仕上げられています。使っている麹は淡麗な白麹(麦麹)で、減圧蒸留によるすっきりとした余韻も特長ですね。

 

↑本格焼酎「琥珀のよかいち」<麦>

 

倉嶋 おお、これは色からして熟成の貫禄を感じます。

 

狩野 うん。まろやかな口当たりと、樽香由来のリッチな風味。洋風な食事にも合いそうです。

 

倉嶋 先ほどのふたつの麦の甘みとは違う、大人な甘みが魅力ですね。

 

狩野 そう、ウイスキーのようなニュアンスがあって。とはいってもウイスキーとは明らかに違うんですよね。アルコール度数が低いというだけでなく、どこか繊細でまろやかで。

 

倉嶋 麹で仕込むと、このなんともいえない焼酎の和のニュアンスが出るんでしょうね。それに、料理に合わせてみると、相性の広さも感じます。飲み方を変えればその幅はより広がりますし。

 

狩野 こってりした味には特に合うと思います。九州の醤油を使った甘じょっぱい料理、たとえば豚の角煮などでしょうか。脂がのっていて味付けも濃厚ですが、麦焼酎ならしっかりマッチして油っこさも切ってくれます。

 

倉嶋 お湯割りなら温度帯でも調和しますから、理にかなった組み合わせですよね。馬刺しや魚の刺身ならロックでキリッと合わせたり、チキン南蛮や鶏天には炭酸割りを合わせてさっぱり楽しんだり。

 

狩野 蒸留酒である焼酎は糖質ゼロですから、食中酒にも最適ですよね。

 

倉嶋 うれしい限りですよね。でもだからといって飲み過ぎには気を付けないと。これからもお酒とはいい付き合いをしていきます!

 

 

前回の芋焼酎編と合わせ、本格焼酎の二大原料についてじっくり学んだ倉嶋さん。次回の「意外と知らない焼酎の噺」も、ぜひご期待ください。

 

<取材協力>

薩摩おごじょ

住所:東京都新宿区新宿3-10-3 B1F
営業時間:月〜土曜日17:00〜24:00
定休日:祝・日曜日

※営業時間等に関しましては、店舗にご確認ください(取材日:2022年2月18日)

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・知心剣
https://shirashinken.jp/

・本格焼酎「よかいち」麦
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/yokaichi/mugi/

・本格焼酎「琥珀のよかいち」麦
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/yokaichi/kohaku/

 

【意外と知らない焼酎の噺】バックナンバーはこちら▼

「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺【意外と知らない焼酎の噺01】
「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 【意外と知らない焼酎の噺02】
いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺【意外と知らない焼酎の噺03】
芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺【意外と知らない焼酎の噺04】

 

 

 

TAG
SHARE ON