今年4月にリニューアルした「酒噺」サイトのキャラクター制作を手掛けていただいた”食の伝道師”ラズウェル細木先生。今回は、練馬にある先生行きつけのお店「旬味 ふじよし」で、3月に刊行された『酒は思考の源でR(あーる)』について伺うとともに、ラズウェル流「家飲み一人酒の楽しみ方」についてもお聞きします。
※本稿は、もっとお酒が楽しくなる情報サイト「酒噺」(さかばなし)とのコラボ記事です。
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一人酒はいろんなことを思考できる時間
『酒は思考の源でR』は、ラズウェル先生の日々の晩酌ぶりとともに、飲んでいるときの頭の中をのぞき見する新感覚グルメエッセイ漫画。テーマやタイトルには、どういった想いが込められているのでしょうか。
「大枠のテーマは一人飲み。なので、特に話し相手がいるわけじゃないですよね。すると、ものすごくいいアイデアが浮かぶこともあれば、しょうもないことを考えるときもある。でもそうやって、いろんなことを思考できる時間でもあるんです。そこから『酒は思考の源でR』と名付けました」
本書の執筆中にコロナ禍を迎えましたが、描く内容に変化はあったのでしょうか?
「僕はもともと家での晩酌が基本なんです。たまに外で飲んだときのエピソードや、新幹線飲みの話をマンガにすることもありますけど、普段の晩酌をそのままエッセイにしたのが本書なので、特別に何か変わったことはなかったと思います。特にネタにも困りませんでした」
本書には様々なおつまみが紹介されていますが、なかでもオススメの品をいくつか教えてください。
「例えば『夏晩酌』の回で紹介した『白身魚の洗い』。本書では刺身のサクを切っていましたが、切り身の刺身でもいいんです。ポイントは氷のディスプレイですから。市販の氷をたっぷり贅沢に敷き詰めた器に、氷水で締めた刺身を乗せると、それだけで豪華になるんですよね。非日常感が楽しめますし、オススメです。
ほかには『サザエさん晩酌』の後半で登場する『トマトとキュウリと卵炒め』。『トマ玉(トマトと卵)炒めは定番の中華で、本書のプロローグでも紹介しています。ここに豚肉やキクラゲを入れることもあるんですけど、ここではキュウリを使っているのがポイント。中国などで、キュウリを加熱するのは珍しくないんですけど、日本では珍しいですよね。で、この卵炒めにキュウリを使うことですごく清涼感が出ておいしいんです。暑い時季にはぜひ試してみてください」
「酒器育て」の回で『※土井善晴先生のレシピをパクりました』として登場する「ちくわのソース炒め」も気になりました。
「あのおつまみは秀逸。切ったちくわを油で炒め、ソースとみりんを回しかけ、青海苔をかければ完成ですからね。料理が苦手な人でも作ろうかなという気にさせてくれるハードルの低さと、想像以上のおいしさ。土井先生はさすがですよ」
「できあいアレンジ晩酌」の回では、ポテサラや唐揚げなど、スーパーの「お惣菜」にひと手間加えたおつまみが登場しますが、それ以外のひと手間メニューがあれば教えてください。
「よく、スーパーとかでナムル4種盛りって売ってるじゃないですか。あれに焼き海苔を刻んで振りかけると、香りが立っていっそうおいしくなります。僕が使うのは韓国海苔ではなく、普通の海苔です。海苔は僕自身がお気に入りで、スライスチーズを海苔で挟むだけでもすごくおいしいですよ。チーズの片面にコチュジャンを塗るのもオススメ。
ちなみに海苔は湿気が天敵なので、僕は冷凍庫に入れてます。振りかけるときは刻み海苔とか加工してあるタイプのほうが使いやすいですけど、いろいろな料理に活用するなら普通の四角い海苔がいいですかね」
酒器は形だけでなく薄さも大切
「酒器育て」ではお気に入りの徳利(とっくり)が出てきますが、酒器についてのこだわりを教えてください。
「専門店やデパートなど、いろんなところで買うんですけど、選ぶ基準はパッと見て気に入るかどうか。一番好きな形は、徳利だと白くてストンと長い磁器のタイプ。飲む器は広がっている盃(さかずき)が好きで、特にふちがなるべく薄いやつが好みです。厚みがあると酒の味が変わるので、薄さも大事だと思います」
調理器具に関しても教えてください。本書の「休眠調理器具活用晩酌」では様々なアイテムが登場しますが、今ハマっている調理器具はありますか?
「最近ミキサーを新調したんです。なぜかというと、南インドの定食『ミールス(※)』を作るコミュニティの会に顔を出した際に、ミキサーが必要だとレクチャーをされまして。とはいえまだミールスは作ってないんですけど、この前試しにと思って作ったのがパプリカのポタージュ。先日の『酒のほそ道』に登場させました。
実は今まで、ミキサーやフードプロセッサーが出てくるレシピはなんとなく避けていたんですけど、そろそろ使っていこうかなと。ですので、この夏にはミールスも作ってみようと考えています」
本書のコラム「一寸ひと息、生活の知恵」では器を洗う前のひと手間や、野菜クズ(※)の活用法が紹介されています。そのほかにも何か普段行っている生活の知恵があれば教えてください。
※野菜のヘタや芯、皮や固い外葉、きのこの石突きなど、通常は食べずに捨てるような部分
「割と知られた話かもしれませんが、牛乳パックをまな板代わりにするというアイデアですかね。あとはガスコンロの魚焼きグリルとかで、アルミホイルを敷いて焼く際のコツもありまして、焼くときアルミホイルはそのままの状態よりも、軽くクシャッとさせたほうが効率よく焼けるんです。なぜなら食材とアルミホイルの間に隙間ができるから。これもぜひ試してみてください」
家飲みの良さは“帰宅”がないこと
『酒は思考の源でR』の主軸となっている、「家飲み」の良さを教えてください。
「やっぱり第一は、家に帰る必要がないということです。飲んだあと電車に乗って、家まで歩いてというのは、なかなかつらいときもありますよね。しかも、なんとなくラーメン屋で食べちゃったり、コンビニに寄ってお酒を1缶買っちゃったりして。それで帰宅すると、ひと口飲んですぐ寝ちゃうみたいな。翌朝、ぬるくなった酒を見てもったいないと思うんですよね。あとは、自分の好きなおつまみを揃えられるというのも家飲みの良さだと思います」
ありがとうございます。では一方で、先生が考える「外飲み」の良さを教えてください。
「家とは逆に、自分の知らないお酒や知らない料理との出合いがあることです。やっぱり、お店で学べることはたくさんありますから。あとはお店なら“雰囲気”が楽しめることも素敵です。“みんなで好きなお酒を飲んでるぞ”という全体の一体感みたいな。知らない人同士でも、同じ場で飲んでる仲間という感じがして楽しいなと思います。
あとは僕の場合、職業柄飲んでいる方々の生態を観察することもあります。面白いオヤジさんがいたとかね。勉強になりますよ」
では、ラズウェル先生が考える「理想の酒場」とはどのようなものでしょうか。
「わがままを言わせてもらうと、大勢入っても声が響かないお店が好きかな。一緒にいる人との会話が普通に聞こえるぐらいの静けさはあってほしいです。あとは季節が限定されるんですけど、暑くも寒くもない季節に入口が開いていて、表を通る人の会話や足音が聞こえてくると、それだけでつまみになるというか、いい気分で飲めますね」
今回訪れている「旬味 ふじよし」さんの魅力も教えてください。
「いちばんはマスターの人柄。そして料理の腕前ですね。全国各地から素材の走り(季節の初物)、旬、名残りを見極め、最高の状態で楽しませてくれるんです。とにかく、何を頼んでもおいしい。雰囲気も温かく、素晴らしいお店ですよ」
おいしく飲んでいる雰囲気を伝えたい
「酒噺」サイトに描いていただいたキャラクターに込めた想いを聞かせてください。
「心がけたのは、お酒をおいしそうに飲んでいる雰囲気を伝えるということ。イラストとともに『ク~ッ』っていう“たまらなくうまい”感じを表現したフレーズを添えているんですけど、あれも大事なんですよね。ああいうシーンは昔から描いていて、自分ではちょっとマンネリかな?って思う部分もあるんです。でも読者の方からは『それが楽しみなんです』といったご意見もいただきまして。それからは、マンガの中でもいっそう心を込めて描いています」
本書のプロローグ「酒飲みの頭の中」では、先生自身が「キュビビビビビ」とおいしそうに350ml缶の発泡酒を飲んでいる姿が描かれていますよね。そのあとに自家製のコーヒー焼酎が紹介されているのも印象的です。お酒のアレンジについても探求心がすごいなと。
「ああ、甲類焼酎にコーヒー豆を漬けて造ったやつですね。あれおいしくて、家以外でも飲むんですよ。例えば新幹線内でホットコーヒーを買って、そこに持参した焼酎を割って飲むとか。あれを片手に車両の窓際で飲むと、景色も相まって至福のひとときなんです」
いつでも飲めるように焼酎を忍ばせているとは、さすがです!
「隙あらば飲みたい。それが酒飲みなんでしょうね。長年培ってきたお酒との付き合い方みたいなものが、マンガにもあらわれているのかな。とはいえ常に背徳感(後ろめたさ)はあるんです。『酒ばっかり飲んでちゃダメでしょ』みたいな。でも、その背徳感が逆にお酒をおいしくさせるんじゃないかな。もちろん飲み過ぎはダメですけどね」
最後に、読者の方々に向けてのメッセージをお願いします。
「読者の方はお会いしたことがなかったりするわけなんですけど、自分のマンガを読んでいただけるということは、お酒にシンパシーを感じてくださっているということだと思うんです。それは作品を通じて、一緒に飲み交わしているようなものですよね。だから僕にとっての読者の方は、みな“飲み仲間”だと思っています」
ラズウェル先生のお酒哲学は、『酒は思考の源でR』にもたっぷりと凝縮されています。ぜひ本書を読みながら至福の一人酒を楽しみましょう!
<取材協力>
旬味 ふじよし
住所:東京都練馬区練馬1-22-1
営業時間:月、火、木~土曜日17:00~22:00、日曜、祝日17:00~21:00
定休日:水曜日
※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年6月13日)
撮影/我妻慶一
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