最近、デパ地下などでも、 “ジャケ買い” ならぬ “缶買い” をしたくなるほど、魅力的なお菓子缶をたくさん見かけます。なぜこんなにも容れ物にすぎない缶に心惹かれるのでしょうか?
お菓子缶マニアの中田ぷうさんも、そんなお菓子缶に魅せられた一人。2023年1月に発売された著書『もっと素晴らしきお菓子缶の世界』でも、お菓子缶の魅力を紹介しています。今回はお菓子缶の魅力やぷうさん厳選の “推し缶” 、お菓子缶の活用法まで、その魅力を堪能する方法をたっぷりご紹介いただきました。
缶を集め始めたきっかけは「CHARMS」のキャンディ缶
中田さんがお菓子缶の魅力に目覚めたのは3歳のころ。祖父に買ってもらったCHARMSのキャンディ缶がきっかけだったといいます。それ以来お菓子缶のとりことなり、これまでに集めたお菓子缶の数はなんと2000缶以上に! コロナ禍をきっかけに、熱狂的なお菓子缶ブームが到来している今、次々と世に送り出されるお菓子缶を見逃すまいと「週1回のデパ地下パトロール(!)」が欠かせないのだとか。
「お菓子の缶は本来、中のお菓子を湿気や光、衝撃などから守るための工業用品ですが、実は、お店やブランドの思いが表現された、私たちにとって一番身近なアートなんです」と中田さんは言います。
「今でこそ、こうしていろいろなデザインの缶があふれていますけど、お菓子缶のルーツはイギリスのヴィクトリア王朝の時代ですね。イギリスの紅茶文化で、一緒に食べるクッキーなどの焼き菓子を保存しておくための入れ物としてお菓子缶が使われていたんです。やがて、ロンドン郊外のお店が流通缶に装飾を付けた形で、お土産用のお菓子缶が作られ始めました。1980年代になると、世界的に海外旅行ブームが起こり、これをきっかけにヨーロッパでも観光客向けの商品がどんどん作られていくようになります」(中田ぷうさん、以下同)
美しい細工が施された美術品のようなお菓子缶も
「その後、お土産用として、彩色豊かな美しい工芸品のような缶も作られていきます。エンボス加工といって、プレス機によって立体的に浮き出した模様を作る加工で、よりインパクトのあるデザインの缶も登場しました。例えばGardiners of Scotlandのファッジ缶。華やかでエレガントなイギリス的な配色、精巧なエンボス加工、もはや芸術品です」
日本の製缶技術は海苔を湿気から守るために発展した⁉
「一方、日本はというと、日本初の缶はイワシの油漬け缶。続いて、北海道で鮭缶が作られ始めます。それからのち、海苔、お茶、お菓子を入れる容器としてブリキ缶が広まっていきます。なんといっても優れものなのが、海苔の缶。もし手元にあったら見てほしいのですが、海苔の缶は湿気から海苔を守るため、継ぎ目がしっかりと溶接されているんです。だから、絶対に湿気させたくないものは海苔の缶に入れるのがおすすめです。日本の製缶技術は、 “海苔を湿気から守る” という使命から発展してきたと言ってもいいかもしれません。
ちなみに、海外で製造された缶と日本で製造された缶の違いは、第一に安全性。日本の缶は商品として売りに出されるまでに50くらいのチェック項目があって、すべて人の目や手でチェックが行われています。角も丸く加工されていてけがをしないように配慮されています。それから蓋の閉まりがいい。世界に誇る日本の製缶技術です」
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お菓子の名店が生んだお菓子缶の数々
「日本は戦後になって、ようやくお菓子缶が製缶業界の主力になっていきます。昭和の後期になると、土産物缶、お中元・お歳暮缶などのギフト缶の需要が高まり、さまざまな銘缶が世に送り出されました。お菓子缶ブームの火付け役といえば『ヨックモック』『モロゾフ』『メリーチョコレートカムパニー』。中身はもちろん、 “入れ物あってこそのときめきを” という想いから、魅力的な缶がたくさん生まれました。当時は家族の人数も多かったので、大型缶が主流でした」
今どきのお菓子缶事情とは?
最近、お菓子缶の世界も大きく様変わりしてきていると中田さんは言います。
「今は家族構成も変わって、小さめのお菓子缶が主流になりました。また、昔はパティシエも製缶業界で働く人も男性がほとんどでしたが、近年は女性も増えてきて、女性ならではの感性で作られた缶がヒットにつながっています。小さな製缶会社でもお菓子缶が作られるようになってきて、これまでより多様化してきているように感じます」
そこで、中田さんに多様化するお菓子缶の最近のトレンドを教えていただきました。
・シンプルでカッコいい「ジェンダーレス缶」
「ここ2年ほど前から、白地のシンプルなお菓子缶が目に付くようになりました。THE TAILORの缶は、シルバーの缶に繊細なエンボス加工が施された美しいデザイン。シンプルなお菓子缶ブームの先駆けといわれるBUNDY BAKEの缶に描かれたイラストには、老若男女問わず、誰でもコーヒーと一緒に食べてほしいという願いが込められています。PARIYAの缶は、店名やお店の住所、ふたを開けた中のクッキーの様子が描かれたアーバンなデザイン。今はスイーツ好きの男性も多いですから、男性にも女性にも手に取りやすいデザインが人気なのだと思います」
・海外発の猫モチーフ缶も! やっぱり人気の「動物缶」
「動物、とりわけ猫モチーフの缶は日本において不動の人気を誇ります。海外メーカーからすると、日本ではなぜ猫モチーフの缶ばかり売れるのか? と不思議に思われるようです。一説には、犬好きは自分が飼っている犬種にしか興味を示さないけれど、猫好きはどんな猫でも好き! という傾向があるようですが、これも日本に限った話で、海外ではそのようなことはないそう。理由は謎に包まれたままですが、とにかく日本人に愛される猫モチーフ缶はこれからも作られ続けるでしょう」
「さらに今年の干支はうさぎというかわいい動物だったこともあり、お正月のお菓子缶も心にグッとくるうさぎのモチーフ缶が目立ちました。毎年干支缶を発売するというところもあり、こうなると12年かけて全種類集めたくなること必至です」
・思いよ届け! 気持ちがつながる「寄付缶」
「最近は犬や猫の保護活動につながるお菓子缶も見かけるようになりました。Patisserie un. fleurでは『行き場を失った猫たちを助けたい』と、猫モチーフ缶を含む対象商品の売り上げの一部を保護猫活動団体に寄付しています。2019年に発売されてからこれまでに5,000缶を越える売り上げがあり、お菓子缶を買うことで同時に保護活動にも協力できるとして支持を集めています」
中田ぷうさんの “推し缶” 4選
これまでにもたくさんのお菓子缶を紹介してきた中田さんに、今おすすめのお菓子缶を4つ厳選していただきました。
pâtisserieginkgo(パティスリージャンゴ)「Ludique(ルディック)」
3500円(税込)
缶のサイズ:約16.5×12×5cm
大阪にあるパティスリーのクッキー缶。エダムチーズ、トマトバジル、ベーコンマスタードなど、お酒にも合う10種類のクッキーが詰め合わされています。目を引くような黄色と甘すぎない猫のイラスト、立体加工のデザインが素敵です。犬派、猫アレルギーの店主が、庭に生み捨てられた猫との日々から猫の癒しの力とかわいさに気づいてこの缶を作ったというエピソードも心にしみます。
La Sablesienne (ラ・サブレジエンヌ)「ラ・フレーシュ動物園(ピュアバター)」
3996円(税込)
缶のサイズ:約13×19.5×7cm
サブレの生みの親、フランスのサブレ侯爵夫人のレシピをもとに、今でも伝統的な製法で作られている発酵バター100%のサブレの詰め合わせ。ラ・フレーシュ動物園はラ・サブレジエンヌ発祥の地、ロワール地方の町に実在する人気の動物園です。缶は水色とピンクをベースにしながら、大人っぽい仕上がりで、写実的な動物のイラストとともに、フランスならではの美学とエスプリを感じさせます。
HONEY BUNNY「cookie can!!」
1380円(税込)※受注生産のため要予約
缶のサイズ:約12×12cm
兵庫県の芦屋にあるアメリカンパイのお店のクッキー缶。ジンジャークッキー、ダブルチョコチャンククッキー、三つ編みパイなど、ひとつひとつ手作りされた素朴な焼き菓子が、ラフなスタイルで収められています。缶は線画×オレンジカラーのスタイリッシュなデザイン。この店を営むアメリカ好きのご夫婦のこだわりを感じさせます。手軽なサイズ感は、ちょっとした贈り物にもおすすめです。
La trinitaine(ラ トリニテール)「フラワー」
2160円(税込)
缶のサイズ:約19.5×13×7cm
フランスを代表する薄焼きガレット&厚焼きパレットの詰め合わせで、バターの風味がきいた濃厚な味わいが楽しめます。ギフト用、お土産用として作られた蝶番缶のシリーズは、名所、名画、動物など、廃盤になったものを含めるとこれまでに500種類以上も販売されています。なかでもこの「フラワー」は2009年の発売以降、非常に人気がある商品。輸入スーパーなどでも買える手軽さも魅力です。
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食べた後にも楽しめる! お菓子缶の活用法
「お菓子缶は中身を食べた後も楽しめるのがいいところ。もちろん飾って楽しむのもいいのですが、ぜひ、いろいろ活用してみてください。特に蝶番で蓋を開け閉めできるお菓子缶は、小物入れやお弁当箱に便利です。深さが7㎝くらいの缶は、まさにマニキュアがシンデレラフィット! 深さ5.5㎝くらいだと、食パンを半分に切ったサンドイッチがぴったり収まるサイズ。ほかにも、マスクの収納やペン、大切な宝物入れとしても活用できます」
知れば知るほど奥が深いお菓子缶の世界。ひと缶ひと缶に込められた思いを中のお菓子と一緒にぜひ味わってみてください。
プロフィール
お菓子缶研究家・フードジャーナリスト / 中田ぷう
祖父に買ってもらったキャンディ缶をきっかけにお菓子缶の世界にはまる。メディアにも数多く出演し、お菓子缶の魅力を伝えている。著書に『闘う!母ごはん』『すばらしきお菓子缶の世界』『もっと素晴らしきお菓子缶の世界』がある。
Instagram
『もっと素晴らしきお菓子缶の世界』(光文社)