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2023/3/17 10:45

頑固でお茶目な臍曲がりが作る魔法のようなラーメン【京王堀之内「口樂」】~田中貴のラーメン狂走曲~

ラーメン好きミュージシャンが一杯の味わいを一曲に例える斬新コラム――

モノ・トレンド情報誌「GetNavi」で2013年から続く連載「ラーメン狂走曲」が、2023年より「GetNavi web」へ引っ越し。通算119杯目となる今回は、最寄りの京王堀之内駅から徒歩20分以上かかる八王子の「口樂(こうらく)」を訪れた。

 

田中 貴

サニーデイ・サービスのベーシスト。2021年には2作目の著書「ラーメン狂走曲」を上梓。CSフジ「ラーメンWalkerTV2」のメインMCをはじめ、テレビ・ラジオ出演、ラーメン関連のコラム執筆も多数。TBS系「マツコの知らない世界」では「ご当地ラーメンの世界」を熱く紹介。

 

得体の知れない、掴みどころがない。謎すぎる店主

僕が好きなラーメン屋の店主は何故か一風変わった人が多い。変な人だからそのラーメンが好きということではなく、純粋に味で評価しているのだが、話してみると凄く変な人ということが多々ある。それも、ナチュラルに変な人。変人ぶってる人が作るラーメンには、何故か強く惹かれない。

 

2012年創業、八王子市下柚木にある「口樂」。ここを教えてくれたのは、同じく八王子の大名店「もつけ」の岡田智也店主。いくつか岡田さんの好きな店を伺ったのだが、自家製麺というのに惹かれ、すぐさま駆け付けたのが3年前。

 

最寄駅である京王堀之内、南大沢からは徒歩で20分はかかる場所。清潔な店内には独特な世界観のオブジェがセンスよく置かれる。まあ、この時点でちょっと変だとは感じていたが、店主の風貌で度肝を抜かれた。三つ編みおさげに長い髭のクールな男前。おぉぉう。インパクトあり過ぎるルックスの店主は、本格的な中華料理店で修業した色川賢一さん。

 

↑色川店主。「下のお名前は?」と聞くと、「けんいちです。一番賢いって書くんですよ。こんなですけど」とお茶目な返事

 

ブリンブリンな食感がたまらない艶やかな極太麺

料理技術の基礎はしっかり身に付けながらも、ラーメンに関しては独学だそう。当時の一番オーソドックスなメニューと思われる「鯵な漢の煮干そば」を注文。

↑「鯵な漢の煮干そば」(撮影/田中 貴)

 

寡黙な店主から手渡されたのは、強い煮干し出汁を香味油がうまくバランスを取る一杯。うどんのような艶やかな太麺がブリンと滑り込む喉越しの良さも素晴らしい。随所に垣間見える強いこだわりに感動し、今まで知らなかったことを後悔しつつ、その後通い続けている。

 

そしてこちらが、「鯵な漢の煮干そば」に相当する現在のオーソドックスなメニュー「中華そば」。

↑「中華そば」850円

 

スープは以前より澄んでいるが、煮干しの味わいはエッジを強めた印象。手揉みでウェーブを出す麺もワイルドさを増している。普通の店では、ベーシックなメニューが数年でここまで大きく変化をすることはない。

↑ひもかわのような平べったい麺も一本入る

 

口樂の最大の魅力は“得体の知れない”ところにある。次々繰り出される限定メニューの創造性と幅広さはもちろんなのだが、そもそもの通常メニューも独創的で、このように頻繁に変更される。

↑自家製麺は手揉みして独自にちぢれさせることも特徴

 

基本的には、全く別な味わいのあっさりとこってりの2種と、その時々の限定がラインナップしている。はずだ。取材を申し込んだ時には「口樂式家系ラーメン」がこってりの定番で、メインで紹介しようと思っていたのだが、取材の数日前に突然止めてしまった。

 

吉村家へのリスペクトを感じさせつつも個性的なスープと、口樂ならではの自家製極太麺の組み合わせは、家系と自ら名乗らなければそうとは思わないオリジナリティーのある豚骨醤油の名作だった。今回初めて会話をする色川店主に、挨拶もそこそこにまずその理由を伺った。

↑店主の背中越しに見えるのが餃子焼き機(後述)

 

「学生たちがそればっかり頼むから、もういいかなと思って」

 

ナイス臍曲がり。ライブでシングル曲じゃなく、マイナーな曲ばかりをやりたくなってしまう僕としては、非常に気持ちがわかる。好みの味のラーメンを作る人とは、なんだか気が合う。僕にはよく起こる現象だ。

 

アド街で紹介された人気メニューもあっさり変更

こんなウマいラーメンを出す口樂だが、ラーメン評論家からは一切評価されていない。というか、情報を足で稼ぐことをしない彼らは、この店の存在すら知らないであろう。駅から遠く離れた場所に隠れるように佇み、メニューは頻繁に変わり、おまけに店構えもちょいちょい変わる。そんな、近所の人にも理解が難しい存在からか、メディアで紹介されることは殆どない。

↑以前の外観。店が変わったのかと思うレベルの変化がチョイチョイある(撮影/田中 貴)

 

しかしなんと、昨年『アド街ック天国』の南大沢特集に出たのだとか。さすが人気長寿番組のスタッフは優秀ですな。紹介されたのは、その当時のメニュー「ルージャン麺」と、餃子をつけ麺のつけ汁に漬けて食べるオリジナルの「つけ汁餃子」。

↑当時の外観。暖簾には「元祖 名代 つけ汁餃子」の文字が(撮影/田中 貴)

 

だが、放映からしばらくして、どちらもメニューから消えた。「つけ汁餃子」はオンエアー前から人気で、暖簾も「餃子」と大きくデザインされたものに変更し、餃子焼き機まで導入する力の入れようだったのに。

↑単品の餃子は存在する。3個260円、6個520円で、タレは自家製の焼肉ダレで提供。ただし焼肉はメニューにはない

 

「人気店になりたくない訳じゃないんですけど、今やりたい事だけをやりたいんですよね」

 

取材を拒否する訳でもなく、便乗して一儲けしてやろうという気もない見事なマイペースっぷり。友達になれそうな気がする。

 

「ルージャン麺」も評判のメニューで、時折メニューにラインナップする。例の絶品極太麺に、中国の屋台でよく見かける羊肉串を思わせるスパイシーな焼豚、アチャールのような野菜類、生姜、フライドオニオンなどを特製の甘辛いタレに絡めて食べる。

作るのも相当な手間がかかるほどに多種の食材や調味料が入り、見るからに食欲をそそる。あらゆる味が混ざり合って完成する緻密に計算された味わいと、元々相当な二郎好きである色川店主ならではの豪快さが共存する一杯。

↑「ルージャン麺」880円。取材時には復活していたが、また消える可能性は高い

 

辛いルージャン麺(「中辛」+50円、「大辛」+100円)もメニューにあるが、さらなる刺激を求めるならキャロライナ・リーパーを使った「鬼辛」(+200円)という自家製の辛味がプラスされる。その都度マイナーチェンジが繰り返され、インド風、メキシコ風などのアレンジも加わる。うーん、想像しただけでたまらん…。

↑こちらがメキシコ風の「ルージャン麺」

 

接客しないでラーメンだけを作っていたいと笑顔で語る

高めのカウンターの奥、広めの厨房を忙しく動きながら、客が来ると小さな声で「いらっしゃいませ」と呟く色川店主。

 

「ラーメン作るのは大好きなんですけど、とにかく接客が苦手で…」

 

若い頃、レコーディングは大好きだけど、人前でのライブは苦手だった僕としては共感しかない。ラーメン作りに集中しているので無愛想に感じられることもある色川店主だが、現在は陽気なスタッフが入ってるので店内はいいバランスになっている。

 

気まぐれに、そして複雑に変化するメニューは、Twitterにて詳細に告知される。そう、面と向かっての接客は苦手だが、どこの店よりも親切で丁寧なのだ。そのTwitterでたまに見かけて気になるのが「居酒屋 口樂」の文字。不定期で開催される居酒屋営業では、色川店主ならではの創作料理の他、スパイスを使った口樂式レモンサワーなども提供される。

 

僕としては、電車とバスを乗り継いでも絶対行きたいやつだ。話すと気さくでオモロイ色川店主と酒を酌み交わせるなんて最高じゃないか。

そう書いて締めようと思っていたが、取材2日後に新メニュー「旅するラーメン」が登場していた。「鰹と煮干しの和風だしに爽やかな青唐が香る日本から、ライムを潰してカンボジア、えび味噌を溶かしてタイ、スパイストマトを混ぜると一気にメキシコへ!」と書かれている。

 

なにそれ! コンセプトもネーミングも素敵じゃないか。めちゃくちゃ食べたいんですけど! そんな心惹かれる新メニューが登場することを、なんで取材時に一言も話してくれなかったのか。色川店主、変というか、得体が知れないというか、掴みどころがないというか、とにかく謎すぎるが、僕にとっては最高なラーメン職人である。

 

この一杯からはこんな音色が聴こえてきた!

WIZZARD「WIZZARD BREW」(撮影/田中 貴)

ド派手な見た目の妖しい魔法使い、ロイ・ウッドが作り上げる珠玉のポップス。色川店主も夜な夜な謎のスパイスを調合して、新たなメニューを創造するのであろう。一度その魔術にかかれば、日々口樂の新作を追い続けることになるだろう。

 

【今回訪れた店】

口樂

住所:東京都八王子市下柚木2-9-11 シルキーパレスⅡ 1F

アクセス:京王相模原線「京王堀之内駅」徒歩20分以上。京王バスにて下柚木のバス停「さんもり橋」下車すぐ

営業時間:11:00〜14:00、18:00〜20:00 ※日曜は昼のみ

定休日:月曜

※営業時間、定休日、メニュー、価格は掲載時のものです

https://twitter.com/ko_u_ra_ku

 

構成/中山秀明 撮影/鈴木謙介