ようやく日常が戻ってきつつある2023年。春夏の行楽シーズンを前に、今回は「チェアリング」をご紹介します。「チェアリング」とは、アウトドア用のイス(チェア)をいろいろな場所に置いて座り、くつろいだり、お酒を飲んだりして楽しむアクティビティのこと。「チェアリング」の開祖のひとり・パリッコさんと漫画家・ラズウェル細木さんに「チェアリング」の楽しみ方を伺います。
生みの親が語る「チェアリング」の定義と誕生秘話
パリッコさんとラズウェル細木さんは、共に「お酒」をテーマにするクリエイターであり、自宅の距離が近いことや共通の知人がいたことから意気投合して十年来の飲み仲間に。
そして今回のテーマ「チェアリング」は、何を隠そう今回登場するパリッコさんがライター仲間のスズキナオさんと生み出したムーブメント。その定義から聞きました。
パリッコさんによると「定義は、『人の迷惑にならない場所でアウトドア用のイスに座ってのんびり過ごす』っていうことぐらいですね」とのこと。
重要なのは、アウトドア用のイスを持って外へ出るということ。もともとあるベンチだったり、切り株や岩に座ったりするのは「チェアリング」とは言わないとか。
パリッコ「当初は、さらにお酒を嗜む行為も含めて『チェアリング』だったんですけど、お酒じゃなくてノンアルやソフトドリンクでもいいし、なんなら飲まなくても好きに過ごせば『チェアリング』でいいと思っています」
では、どんなきっかけで「チェアリング」が生まれたのでしょうか? その誕生のエピソードをラズウェル細木さんとともに振り返っていきます!
パリッコ「僕がかつて『酒場人』という雑誌を作っていて、3号まで出版したんですね。その2号目でナオ(スズキナオ)さんと企画を考えているときに、『これ面白いんじゃない?』みたいなテンションで思いつきました。
僕も昔から近所の石神井公園にイスを持ち込んでボーッとするのが好きで、それをふたりでやってみたら、そこに酒場が生まれるんじゃない? みたいなノリですね。でもやってみたら、予想以上に快適で『これはアリだな』って」
ラズウェル「『酒場人』には僕も第1号から出させてもらいました。『チェアリング』の企画も面白かったですよ。場所はお台場だったかな」
パリッコ「そうそう、ビーチでやったんですけどかなり心地よくて。そしたらナオさんが『次はあっちに見える公園でチェアリングしてみません?』みたいに言い出したんですよ。そうして僕らの間で定着し、徐々に広まっていった感じです」
重要なのは「アウトドア用のイス」であること
ラズウェルさんは、アウトドア用のイスであることが重要ポイントであり、さらに「チェアリング」と名付けたことで、その行為が確立されたことが革命的だったと言います。
ラズウェル「花見にイスを持ち込む人がいるように、イスを持ち出して外で飲む行為自体はずっと前からありました。僕自身、何年も前に『酒のほそ道』(33巻「チェアパッカー」)で主人公の岩間宗達にやらせようとしたんですけど、いまよりずっとニッチだったから、目立って恥ずかしいので結局やらなかったというオチにしたんです。それが『チェアリング』と命名されたおかげで、堂々とできるようになりましたからね」
アウトドア用のイスの重要性は、持ち運びやすさと快適さにあるとか。
パリッコ「コンパクトにたためるうえ、軽くて持ち運びやすいのが魅力ですけど、座り心地のよさも見逃せません。特に座面が低いタイプはリラックスできますが、これはアウトドアチェアならではでしょう。『やってみると意外に快適』というのは、このイスにあると思います」
ラズウェルさんは、「花見をやるにしても、一度『チェアリング』の心地よさを知るともう地べたに座るのはムリですよ」と言います。
ラズウェル 「先日も花見をしたんですけど、けっこう肌寒い日もあるじゃないですか。となると、ゴザだとお尻も冷えてきて長時間はしんどくなるんです。でも『チェアリング』ならそうならないし、疲れない。アウトドアブームの影響もありますけど、『チェアリング』が世の中の花見の景色を変えたと言ってもいいんじゃないかと思います」
パリッコ 「そこまで!? でも、『チェアリング』と名付けたことでそれを楽しむ人が増えたのならば、面白いことだなぁとは思いますね」
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オススメの「チェアリング」グッズ
では、イス以外のオススメの「チェアリング」グッズは? パリッコさんは「テーブルがあるとより快適さが増す」と言います。
パリッコ 「昔はイスだけでもいいと思っていました。でも、小さくていいのでアウトドアテーブルがあると段違いだということに気付きまして。やっぱり、つまみながら飲むシーンでは地べたにそれらを置くよりも、テーブルがあったほうが楽だしよりおいしく感じます」
この日のパリッコさんは小さなアウトドアテーブルのほか、フタが天板になるキャリーカートも持参してきました。
パリッコ「今日はラズウェルさん用のイスも持ってきたのでキャリーカートを使いましたけど、荷物が多くなければ必要ないです」
ラズウェル「パリッコさん、イスありがとう! それにこのイス、ドリンクホルダーが付いてるタイプだからいっそう便利です」
パリッコ「そうですね。飲んだり食べたりするなら、ドリンクホルダー付きのほうがいいかもしれません。アウトドアチェアも、座面の下にバッグを置けるタイプとか、メチャメチャ軽いとか、小さくなるとか種類豊富なので、選ぶ際はその辺もチェックするといいですね」
「チェアリング」スポット選びの極意
ふたりのお話を聞いていると、思ったよりも「チェアリング」はハードルが低いと感じた方も多いはず。では、いざ「チェアリング」をやるとなった場合、適したロケーションなどはあるのでしょうか?
パリッコ「それはもう、自分が好きな景色の場所でいいと思います。アドバイスをするとしたら、人通りがなく通行の妨げにならないところがベストですね。あとは今日みたいに公園でやるにしても、住宅地にあるような小さな公園だと広くないから人目が気になっちゃうと思うんです。なので、一般的にもピクニックに使われるような大きな公園がいいと思います」
ラズウェル「そうですね。あとはマナーとしては、子どもたちが近くで遊んでるようなら、場所を変えるとか。もちろん、騒がないとかゴミは持ち帰るとか一般的マナーは当然としてありますけどね」
パリッコさんが初めて「チェアリング」をしたのはお台場。その理由は、水がある場所を自然と求めたからだとか。
パリッコ「僕はなんとなく、水のそばって空気の揺らぎがあって好きなんです。公園を選ぶ際にも、ボートに乗れたり釣り堀があったりするような、大きな池がある公園でやってますね。海や川もいい。川も隅田川みたいに船が通る大きいところが好きで、水や船の流れを見ながらボーッとしてるとすごく気持ちいいんですよ」
ラズウェル「確かに水辺は心地いいですね。あとは周辺環境の点で、近くにトイレやコンビニがある場所を選ぶと何かと便利です」
「チェアリング」で選ぶべきお酒とおつまみ
次はお酒とおつまみの選び方について。まずはお酒のオススメから聞きました。
ラズウェル「お酒は缶でもビンでもいいですが、缶チューハイなどRTDと呼ばれるタイプ(READY TO DRINKの略で、ふたを開けてすぐにそのまま飲めるもの)が楽です。もちろんコップがあったほうが氷を入れられたり、香りをしっかり感じられたりするメリットもあるんですけどね」
パリッコ「コップを使うかどうかは、飲みたいお酒によりますよね。飲みたい銘柄がボトル入りしかなければ自然とコップが必要になりますし、焼酎のお湯割りが飲みたい場合は割るためのコップが要りますからね」
ラズウェル「そう。寒いときには、あらかじめ水筒にお湯割りを作って入れておくといいんですよ。水筒もキャップがコップになるタイプを使ってね」
パリッコ「『事前お湯割り』はイイですよね。
ラズウェル「でもRTDは気軽ですし、そこはもう自由だと思います。まあ僕らが愛する大衆酒場気分を楽しむなら、今日飲んでいる『タカラcanチューハイ』がベストですね」
パリッコ「はい。やっぱり甘くないというのが僕としてはお気に入りで。甘くないからどんなつまみにも合うし、飲み飽きないのもうれしいですよね。あと缶のデザインも好き」
おつまみに関しては、ワンハンドで食べられるものがベスト。なかでも、パリッコさんは『御三家』として挙げるほど「チェアリング」に適したアテがあるといいます。
パリッコ「いろいろ試した結果、サンドイッチ、巻き寿司、焼売(シウマイ)のトリオが最適解だと行き着きました。片手でつまめる上に、指があまり汚れないというのが大きなポイントです」
特にサンドイッチと巻き寿司は、その発祥の由来にも裏付けされているとパリッコさん。
パリッコ「サンドイッチは、サンドイッチ伯爵が趣味のカードゲームに興じる際、遊びながら片手でつまめる食事があればと思って生み出されたと言われてますよね。また、鉄火巻きは、鉄火場(賭博場)で博打をしながら手軽につまめる食事を、ということで生まれたという説が濃厚。先人と目的は違えど、やっぱり理にかなってるんだと『チェアリング』で気付きました」
ラズウェル「しかも今日のサンドイッチは食パン1/4サイズで小さめだから、特に『チェアリング』向けですよ。おまけにコロッケ、ハム、たまごサラダのアソートタイプで味が多彩。まさにもってこいなヤツです!」
パリッコ「一見、サンドイッチは食事だから酒に合わせづらいと思われがちなんですけど、具材に注目してほしいんです。コロッケ、ハム、たまごサラダなどの王道つまみが、指が汚れないように食パンで挟んであるってことですよね。つまり、お酒にはドンピシャに合うんです!」
ラズウェル「もしサンドイッチがない場合は、ちょっと大きいけどコロッケパンとかメンチカツパンとかがオススメです。手が汚れがちな揚げ物でも、パンに挟んであればノンストレスですからね」
パリッコ「巻き寿司も、今日みたいな太巻きは味の付いた具材が数種入ってるから、醤油要らずでより楽なんです。細巻きを選ぶ際はトロたく、かんぴょう、梅きゅうなど、味の濃いネタがオススメですね」
ラズウェル「そうそう。けっこう小袋入りの醤油って開けづらいし容器が汚れるから、使わないに越したことはないんですよ」
パリッコ「焼売も、たいていは醤油なしで十分においしいからそのままでいけますよね。練りからしはあったほうがいいですけど、まあなくてもそこまで問題じゃないです」
ラズウェル「ちなみに『御三家』の焼売が餃子じゃないのは、焼売のほうがみっちり詰まっているから肉汁の流出が少ないうえ、楊枝などでつまみやすいという点が大きいです。まあ、楊枝を使わず手づかみで食べてもいいんですけどね」
パリッコ「気軽さを重視する『チェアリング』は、ゴミが少ないほうが後片付けも楽でいいんです。なので、缶詰やコンビニ総菜などもおいしいんですけど、僕はあまり選ばないですね」
ラズウェル「ほかには、串系はワンハンドで食べられる点ではかなり優秀。その上で焼鳥は、汚れやすいタレよりも塩のほうがいいと思います」
そして意外な盲点が、スナック菓子や乾きもの。これらは手軽につまめるものの、「チェアリング」にはベストな選択肢ではないということ。理由は、屋外であるゆえの外的要因にありました。
ラズウェル「これは実際に『チェアリング』するとわかるんですが、つまみにはある程度重さがあったほうがいいんです。なぜなら、軽いと風に飛ばされやすいから。サンドイッチや巻き寿司も、“遠慮の塊”が残ると軽くなって飛ばされやすいので、ラストはすぐに食べ切りましょう。ドリンクも軽くなる前に飲み干したほうがいいですね。食べ飲み終わった容器も、風で飛ばされないようすぐにゴミ袋などにまとめておくのがベターです」
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ワンランク上の「チェアリング」の楽しみ方
アウトドア用のイスさえあれば成り立つ「チェアリング」ですが、より充実させるとしたらどんなアイテムがあるといいのでしょうか? ワンランク上の楽しみ方を教えてもらいました。
パリッコ「暑い季節にはなおさらですが、お酒はやっぱり冷えてたほうがおいしいです。だから、氷やクーラーボックスはあるに越したことはないですね。そのうえで、もっと手軽に冷たさをキープできるのが真空断熱の缶ホルダーや『クージー』と呼ばれる缶カバーです」
ラズウェル「確かに冷たさがキープできるので、これからの季節にはあるといいですね」
パリッコ「ほかにはウェットティッシュがあると便利ですね。先ほどお話した『御三家』であればさほど汚れることもないんですけど、片付けるときにイスの足をきれいにしたり、お酒やおつまみをうっかりこぼした際にふき取ったりできますから」
最後にあらためて、「チェアリング」をもっと楽しくするコツや心構えなどを聞きました。
ラズウェル「僕はひとりよりも集まって飲むほうが好きなので、イスを持って集まってくれる仲間を増やすことがネクストステップだと思います」
パリッコ「僕もそうですし、本当に『チェアリング』って、やってみると想像以上に楽しいので、未体験の人に声掛けして誘うことをぜひオススメしたいです」
ラズウェル「そう! 一見バカバカしく見えるけど、やってみると楽しいという意外性こそ『チェアリング』が広まった大きなポイントだと思います」
パリッコ「ストレス社会とか生きづらいとかって言われる世の中だからこそ、『チェアリング』って素敵だなと思っていて。ただボーッとするだけでも、脳がリフレッシュされて気持ちがスッキリするんです」
ラズウェル「『チェアリング』は、安上りで気軽なキャンプみたいな認識で始めてみたらいいと思います。キャンプは郊外まで出ないとなかなかできないし、ほとんどが要予約ですけど、『チェアリング』は都会でも大きな公園があればできますから」
パリッコ「たとえば港区でも、大きな公園なら水のせせらぎ、緑が風に揺れる音、鳥のさえずりなどが聞こえますもんね。マイナスイオンというか、そういったヒーリング効果もあるんじゃないかと思いますし、さらにお酒があれば最高のストレス解消ですよ」
アウトドアブームとともにますます注目を集める「チェアリング」。天気のいい休日などに、ぜひ実践してみてください!
記事に登場した商品の紹介はこちら▼
・タカラcanチューハイ
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/regular/
・松竹梅「白壁蔵」<純米大吟醸>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/
<取材協力>
練馬区立武蔵関公園
住所:東京都練馬区関町北3-45-1
撮影/鈴木謙介