Vol.146-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが発表したXRデバイス向けの技術「Android XR」。AppleやMetaが先行する分野で、Googleが目指す方向性を探る。
今月の注目アイテム
Samsung
Project Moohan XRヘッドセット
価格未定
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空間コンピューティングOSであるAndroid XRを搭載したデバイスは、遅くとも今年の後半には登場する。最初の製品となるのは、サムスンと共同開発中の「Project Moohan」だろう。これはVision ProのGoogle版、といえるような製品。筆者もまだ実機を体験したことはないものの、Vision Proよりも軽く安価な製品を目指しているという。
また、Android XRは“ハードウエアパートナーを広げやすいだろう”という予想もある。スマートフォンやタブレットに多数のメーカーがあるように、Android XRの供給を受ければデバイスの開発は容易になる可能性が高いからだ。
では他社はどう対応するのだろうか?
Metaは2024年春、Meta Quest向けOSである「Horizon OS」を他社に供給する戦略を発表した。アプリストアも再構築し、Androidスマホで動いているアプリをそのまま、Meta QuestをはじめとしたHorizon OS対応機器で動かせるようにもしている。“Androidアプリがそのまま動き、複数の企業からデバイス製品が出る”という意味では、完全に競合する存在だと言える。
他方で、Metaのパートナー戦略は、Googleほどオープンではない。現状は、特定少数のパートナーと組んで製品バリエーションを広げる形を採っている。なぜかと言えば、XR機器はスマホやタブレットに比べ開発難易度が高く、良い製品を作るのが難しいからである。デバイスを作る時、OSだけでなく多数のノウハウが共有されなければいい製品はできない。
Googleとの競合があるから……という面は否めないものの、当面GoogleとMetaは「似て非なる道」を歩くことになる。
一方で、Appleのやり方はもう少しシンプルだ。内部では次世代製品とOSアップデートの開発が粛々と進められている。プラットフォーマーは増えても市場の変化がまだ先である以上、製品改良を続けるのが最優先課題だ。Vision Proに続く製品がいつ出るか多数の噂はあるが、どれも根拠には欠けている。はっきり言えるのは、「すぐにVision Proのプロジェクトがなくなったり、後続製品が出なくなったりはしない」ということくらいだろう。
どちらにしろ、動きが活発になるのは2025年後半になってからだ。おそらくは今年5月の「Google I/O」、6月に開催されるAppleの「WWDC」、9月に開催されるMetaの「Connect」という3つの開発者会議での情報公開から色々なことが一気に動き出すだろう。
なお、GoogleとMetaに共通しているのは、どちらもパートナーとしてQualcommが重要であるという点だ。XR機器向けのプロセッサーはほぼQualcommの独壇場。メジャーな企業でQualcommを使っていないのはAppleくらいのものだ。MetaとGoogleの競争で市場が拡大した場合、まず利益を得るのは両者以上にQualcomm……ということになる。
また高画質ディスプレイデバイスも必須なのだが、そこではソニーがまず支持を得ている。ただし、生産量の面で中国BOEが追いかけており、サムスンも自社デバイスで自社が開発したディスプレイデバイスを使う、と予想されている。スマホのディスプレイ競争のように、ソニー対BOE対サムスンの戦いがはじまる可能性があるので、ここにも注目しておきたいところだ。
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