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2017/2/14 8:00

【西田宗千佳連載】「有機ELだけでは差別化できない」ソニーのお家事情

「週刊GetNavi」Vol.51-4

↑ソニー ブラビアA1Eシリーズ 
↑ソニー ブラビアA1Eシリーズ

 

今年日本で有機EL(OLED)テレビを発売するメーカーのなかで、ソニーは独自の立ち位置を選んでいる。一般的に、有機ELという新しいデバイスが出てきたのならば、“液晶より上の製品になる”と考える。実際、パナソニックや東芝はそういう位置づけだ。

 

しかしソニーは、有機ELを最上位に据えていない。公式には“液晶とは画質を比べて上下をつけない”ことになっている。だが実際には、“画質そのもののフラッグシップとしてはZ9D”と、テレビ事業と担当するソニービジュアルプロダクツ・高木一郎社長も話す。

 

「Z9D」とは、ソニーが2016年に発売した液晶テレビの最上位機種であり、Backlight Master Driveという特別な「直下型部分駆動バックライトシステム」を採用した製品でもある。ソニーはこの製品に絶対の自信を持っており、実際、クオリティは高い。

 

本連載で何度か述べてきたように、現状の有機ELにはまだ弱点がある。特に液晶との比較では、全体の輝度が低く、映像としての“パンチ”には欠ける。コントラストについては、Backlight Master Driveである程度カバーできるため、トータルではいまの有機ELよりも上、という自信を持っているのだろう。

 

ただし、この辺の考え方は企業によって異なる。むしろ、ソニーが“液晶と有機ELを比べない”としていることには、また別の事情が関係している。

 

ソニー・平井一夫社長は「複数の企業から有機ELテレビが出る現状、有機ELであるだけでは差別化できる市場ではなくなってきている」と話す。これは、液晶でも起きたことだ。画質は非常に重要だが、画質の違いだけで製品を選ぶ人が限られている。“有機ELである理由”がなければ、高画質化・低価格化が進む液晶テレビ市場との差別化は難しく、結局広がりが小さいのではないか……という指摘だ。

 

ここ数年、日本の家電メーカーは苦境に喘いだ。結果的に、“世界中に自社生産のテレビを販売する企業”の数は減った。そこに残ったのは、結果的にはソニーだけだ。パナソニックは日本・欧州で高付加価値製品を売るビジネスに集中し、東芝は実質日本だけで自社技術を使った製品を売るようになった。シャープも同様である。世界の巨大なマーケットにテレビを売るメーカーは、サムスン・LG・ソニーの3社になった、と言っても過言ではない。

 

現状、LGディスプレイが生産できる有機ELの量は、年間百数十万台分しかない。全世界で、2500ドル以上の高付加価値マーケット向けテレビだけを合算しても、年間3000万台近くの需要があり、すべてを有機ELで満たせる状況にない。ということは、当面液晶の高画質化・低価格化競争は続く、ということだ。

 

とすると、幅広いラインナップで勝負したいソニーのようなメーカーの場合、「有機ELだけに賭けるわけにもいかない」という事情が出て来る。

 

ソニーは有機ELの差別化点を“画質+薄さ”としている。それも、単に薄いだけでなく、構造がシンプルであることを生かし、画面をそのままスピーカーにする「アコースティックサーフェス」という技術を導入した。スピーカーをなくしてデザインを差別化すると同時に、音が出る場所と映像の出る場所をひとつにする(要は、出演者の顔の部分から声が聞こえるようにすることで、リアリティを増す)ことで、“有機ELにしか出来ないこと”を狙ったのである。

 

各社製品の画質の違いは、実際に比べられる機会が来ていないので、筆者にはまだコメントできない。しかし、各社がそれぞれに作戦を立て、“より高額なテレビを選んでもらう”競争に腐心していることだけは間違いなく、今年は特に“テレビの競争・差別化が目立つ”年になるだろう。

 

●Vol.52-1は2月24日(金)発売の「ゲットナビ」4月号に掲載予定です。

 

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