デジタル
2018/4/7 6:30

【西田宗千佳連載】日本の電子書籍ストアは「旧作を多数売る仕組み」で世界をリードする

「週刊GetNavi」Vol.65-3

前回解説したように、電子書籍には在庫のリスクが基本的に存在しない。そのため、紙の書籍とは本質的に異なるビジネスが展開されている。

 

もっとも大きな違いは「まとめ買い」を推進していることだ。紙の書籍は、書店で在庫しにくいだけでなく、個人の視点でいえば場所を取る。特に巻数の多いコミックは、家に置いておくことさえ難しく、購入に対する心理的なハードルになっている。電子書籍は場所を取らないため、そうした問題が起きない。だから、「費用ではなく場所がハードルになっている」顧客に対して売るためには、電子書籍が適しているわけだ。そもそも、コミックを含め、毎月大量に本を買う、という人は少数派だ。文字物の本については、年間1、2冊買えばいいところ……という人がほとんどであり、出版市場は「大量に本を買う少数の人々」に支えられている構造、といっていいほどだ。

 

一方、電子書籍ストアは、書店に対して圧倒的に不利な点がある。それは「本が売っているかどうか、検索しないとわかりづらい」ことだ。画面の上は案外狭い。比較的情報量を増やせるPCの画面であっても、同時に表示できるのは数十冊程度だ。だが、書店の棚は、一気に数百・数千冊を展示できる。書店を一回りする方が、電子書籍ストアを一生懸命見るより、簡単に多数の書籍と出会える。だからそもそも、「まだ知らない本」と出会うには、電子書籍ストアより、書店の方が有利なのである。

↑Amazon「Kindle Oasis」

 

そのため電子書籍ストアでは、頻繁にセールを開き、注目を集めて購入につなげる施策が採られている。特に多いのは、全巻まとめて買うとポイントが多く還元される、といったパターンだ。また、割り引きキャンペーンも数多く行われている。コミックや小説が原作のドラマや映画は多く、それらとの連動キャンペーンも多い。

 

なにかにつけてキャンペーンを行い、販売サイトのトップページやSNSで告知をし、それを販売の機会につなげる、という手法が、現在の電子書籍ストアを支えている。こういうやり方だと、評価の定まっていない新作よりも、ある程度知名度のある旧作の方がプロモーションしやすい。このことが、電子書籍における「新作と旧作の比率」を決める大きな要因であることは間違いない。

 

意外に思われるかもしれないが、このような「電子書籍の売り方」の面で、日本は世界の最先端を行っている。他国では、日本のように積極的なキャンペーンも、割り引き施策も行われてはいない。紙の書籍と同列にプロモーションされるだけで、「電子書籍ならではの売り方」の開拓について、日本の電子書籍ストアは非常に積極的だ。Amazonも、他の電子書籍ストアに引きずられる形でビジネスを行っている部分があるくらいだ。

 

一方で、こうしたやり方が出版業界を救う形になっているかというと、そうでもないのが問題となっている。なにが問題なのか? そのあたりのことは次回のVol.65-4で解説する。

 

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