デジタル
2018/4/11 18:52

最新テクノロジーは障がい者をどう支援する? 世界最大級のカンファレンスに参加してきた

先日、世界中から5000人以上が参加する世界最大級の支援技術やユニバーサルデザイン、アクセシビリティのカンファレンス「CSUN2018」(障がい者のための支援技術会議)に参加してきた。第33回目となる今年は、アメリカはサン・ディエゴで3日間にわたって開催。その会場で展示されていたアイテムを紹介していきたい。

 

障がい者雇用のバリアを取り払うビジネス関連ツール

日本では2018年4月から、障がい者の法定雇用率が段階的に引き上げられる。東京パラリンピックを控え、パラスポーツ選手は売り手市場が続くというが、狭き門だ。多くの企業は、現場での雇用を検討することになるだろう。展示会場ではビジネス関連ツールが多く並び、世界的にも障がい者雇用に関して積極的な姿勢がうかがえた。

 

まずはそのなかの1つ、聴覚障がい者向けの電話CaptioCall(https://captioncall.com/)をご紹介しよう。

 

こちらは、相手が話した言葉をAIが即座に文字化してパネルに表示することができる電話機器。話者はそれを読めばいい。ただしこちらからの発信は音声になるので、口頭での会話能力は必要だ。テレフォンオペレーターはどちらかというと視覚障がい者の雇用が多いイメージがあるが、こうした機器によってそのバリアが取り払われていくのだろう。

視覚障がい者向けとしては、ポータブルなスキャナー各種が出展されていた。

 

こちらの機器はiPad程度の大きさで、カメラで読み込ませた画像から文字を取り込むことができる。文字の拡大、コントラストの変更が可能で、弱視や色弱の人が個別に読みやすい表示に変更することが可能だ。OCRで取り込んだ文字を音読することもできる。

こうしたスキャナー&OCR&音読のシステムは、主に教育現場で使用されているという。障がいのある子どものなかには、言葉を覚えることは問題がなくても、文字を読むことが不得手な場合もあるそうで、その不得手をこうした機器でサポートしようというわけだ。

 

こうしたサポート機能のついた機器は、対応している言語が英語やスペイン語といった話者の多い言語が中心で、日本語対応のものはまだまだ少ない。こうした海外の製品が日本に上陸するまでには時間がかかりそうだ。日本で独自の商品を開発するか、日本語対応を待つことになるだろう。

 

通常のレジュメと点字を手軽に印刷できるプリンターが画期的!

続いてご紹介するのは、点字プリンターとしても使えるEasyTactix(http://www.sinka.co.jp/#/)。

使用するのは特殊加工されたペーパー。プリンターで加熱することで表面が膨らむ仕組みだ。展示会場では大音量で展示物をプリントしている機器がいくつかあったが、このEasyTactixは従来のように紙に物理的に凹凸を加えて印刷するわけではないので、大きさも、音も、比較にならないほど小さい。

そのうえ、ワードやエクセルで作ったファイルを、アドオンソフトを入れることでワンクリックで点字に変換できるため、通常のレジュメと点字の両方を準備しなければならない書類などを作成する際に便利だ。すでに公共施設などでの引き合いがあるという。

 

また、インクジェットプリンターとあわせて使うと、凹凸のついた立体画像がプリントできる。視覚障がい者向けだけではなく、手軽に立体デザインを印刷できるのだ。サンプルで置いてあった畳みやメロンのプリントは、触って見ると驚くほど実物に近かった。

 

海外で進むWEBのアクセシビリティの徹底ぶりに驚き

CSUNでは展示のほかに、朝8時~17時まで、20もの会場で同時に講義が開催される。そちらのほうがむしろメインとも言えそうだ。そこでは最新の研究発表や製品紹介、各種事例などの発表がある。当然、すべての講義を見ることは不可能(しかも言語はすべて英語)だが、気になるものをピックアップして聴講してみた。

 

自分が理解できそうなテーマを選んだこともあるが、驚いたのは、海外(主にアメリカ)ではWEBのアクセシビリティがかなり徹底されているということ。「Web Accessibility Testing 101: A Checklist for Beginners」という講義を聴講してみたが、そのリストの多さに驚いた。項目も多岐にわたり、これが初心者向けかと思うほどの量だ。

 

また基本的に、弱視、色弱などの人のための色選びや表示の仕方などの気遣いがなされている。例えば、人によっては黄緑と黄色の区別がつきにくい。そのため、色のピースを組み合わせるゲームなどでは、色だけではなくピースのデザインも変えるなどの配慮がなされている。円グラフは、色を分けるだけではなく、各区分けの間に白い線を入れるだけで、見やすくなる。こうした配慮は今後、デザイナーとして当然持つべき知識になっていくのだろう。

ほかの講義を聴講した人によると、アメリカでは障がい者が閲覧しにくいデザインのWEBサイトを構築した場合、多額の賠償金を請求されることもあるという。日本ではまだそのような訴訟を耳にしたことはなく、まだまだ健常者主体の社会なのだと実感させられた。