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2018/7/26 16:00

「育児日記」が新時代へ! 「スマートスピーカー」を使うとストレスが減って夫婦円満に

赤ちゃんが生まれると、多くのパパママは育児日記を始めます。授乳時間や量、排泄、沐浴、睡眠、体温など、赤ちゃんの様々な行動や日々の変化を記録しておくこの日記帳は、出産した病院からもらって書き始めることが一般的ですが、実はこの作業を続けるのが結構大変。

 

最初(特に第一子のとき)は楽しみながらできるのですが、人によっては、赤ちゃんのお世話や家事、仕事で忙しいため、段々と億劫になってきてしまうケースもあります。昨今ではアナログ式ではなく、スマートフォンやアプリを使ったデジタル式のものも出回っていますが、使いやすさには課題が残ります。

そんななか、大手ベビー用品メーカーのピジョンが運営する情報サイトのコモドライフは、駅すぱあとを開発した株式会社ヴァル研究所と組み、スマートスピーカーを使って音声で入力する育児日記を開発しています。このテクノロジーはどのようにして育児日記をラクにするのか? また、どのような効果を夫婦に与えるのでしょうか? 開発者と、モニターとしてこのプロジェクトに協力したご家族に取材してきました。

 

もう手を動かす必要はない

従来の育児日記は手を動かすことを前提としていました。アナログの日記帳は手でページを開いて、ペンで書き込みます。デジタルになっても手を動かす行為は消えません。スマホは指を使ってロックを解除し、アプリを探して起動するまで待ち、タップしたりスワイプしたりして文字を打ち込みます。便利になった部分もありますが、抱っこや授乳などをしているときは赤ちゃんから手が離せません。このような状況では、その場ですぐに書くこともスマホを操作することも簡単にはできないのです。

 

音声入力はこの前提を覆します。開発中のテクノロジーはGoogle Home miniとClova Friendsを使用(前者は「助手」、後者は「博士」と呼ばれている)。「OK Google」の一言で助手の音声コマンドが起動し、授乳をしたりオムツを変えたりしながらでも、「授乳開始」「おしっこ」などと言うだけで、その場で記録が取れるのです。そして、音声入力した情報はメッセージアプリのLINEを通してスマホに届く一方、IFTTTと呼ばれるwebサービスを通してGoogleスプレッドシートにデータとして保管される仕組み。手でなく、口を動かすという一見単純な変化のように見えますが、乳児期の子どもを育てるパパママにとっては手を動かす手間が省けるだけで御の字でしょう(このテクノロジーはスマートスピーカーがない場所でも使えます)。

↑博士(右)と助手

 

「そもそも育児日記が大変なら、やめてしまえばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、赤ちゃんを病院に連れて行くとき、育児日記を読むと医者に赤ちゃんの体温や行動を正確に伝えられます。育児日記で赤ちゃんが最後にミルクを飲んだ時間や量を見ると、次のミルクの時間や飲む量を予測できます。1か月前の記録を見ると、赤ちゃんがどれほど成長したかが確認できるうえに自己肯定にもつながります。

 

このように、育児日記を付けることによって好循環が生まれます。また、インターネットを検索すると、育児日記を付けてこなかったことを後悔するパパママもいるそう。将来後悔することを回避するために、育児日記を書くということもあるでしょう。

 

さらに、育児日記がデジタルになって、夫婦間または祖父母などを含めた身内のグループと情報を簡単に共有できるようになりました。ピジョンとヴァル研究所が開発しているテクノロジーは、助手に伝えた情報をLINEを使ってグループメンバーに送ります。

 

モニターとして参加した松本さんご夫婦によると、平日は仕事で外出しているパパの岬さん(28歳)のスマホに、育児休暇中で家にいるママの愛子さん(29歳)から届いた通知の数は1日に40回前後。それに加えて、毎朝8時には博士がまとめた前日の記録も2人に送られます。このような方法で情報を共有することで、夫婦(今回の場合はご主人)が自発的に育児に参加するようになる。このように設計されていることに、このテクノロジーの意義があります。

実際にこのテクノロジーを10日間テストしてみて、被験者にはどのような効果があったのでしょうか? 岬さんは奥さまと生後4か月の侑君が何をしているのかをLINEを通して逐一知ることができるようになりました。「育児の大変さに気づくきっかけになった」とご主人は言います。「これまでは奥さんが育児でいかに苦労しているのかが見えていませんでしたが、このシステムによってそれらが見えるようになりました」

↑(左から)松本岬さん、侑君、愛子さん

 

この変化は行動にも現れ、岬さんは侑君が夜中に泣くと自発的に起きるようになり、奥さまに量を聞かなくてもミルクを自分一人で作るようになったそう。愛子さんは「夫にとって育児が他人事から自分事になりました。私のストレスも減りましたね」と言います。機械の認識ミスがあったり、薬や離乳食も記録できるようになればよいといった要望も出ていたりしましたが、ご夫婦はモニター期間終了後もこのテクノロジーを継続して使いたいと話していました。

データをどう活用する?

このテクノロジーはまだ開発段階です。「現状では、デバイスを使って育児を他人事から自分事にするということに主眼を置いている」と今回の育児共有化計画のディレクターを務める豊田博樹さんは言いますが、次の段階に進めば、課題はデータの活用でしょう。データからパターンを割り出し、赤ちゃんの行動を予測。さらに、パパとママに「何をすべきか」というアドバイスも示唆する。豊田さんは次の段階でこのようなことも視野に入ってくるだろうと述べていました。赤ちゃんの行動の予測は機械を使わなくともできますが、このような機能は夫婦の育児生活をサポートしてくれるかもしれません。

 

現在、育児日記はテクノロジーによって変わりつつあります。田中祐介、土屋宗一、阿曽歩著「近代日本の日記帳 : 故福田秀一氏蒐集の日記資料コレクションより」によると、育児日記は1930年代には日本にありました。「育児日記は、母子健康手帳が1930年第後半から40年代前半にかけて制度化されたときに徐々に使われるようになりましたが、その後、皇后美智子さまが『ナルちゃん憲法』を作りご自身で子育てをされたときに急速に広がったと聞いたことがあります」と助産師の浅井貴子さんは言います。ナルちゃん憲法が全国のママたちに大きな影響を与えたのが1960年代。それからもうすぐ60年が経とうとしています。育児日記は新たな時代に入ったのかもしれません。