フランスで次世代シェアリングサービスを体験
フランスは欧州の中でも特にスタートアップが盛んな地域です。今年のIFA NEXTにはフランス貿易投資庁 ビジネスフランスが主催するプロジェクト「La French Tech」や、ハードウェア系スタートアップの立ち上げを支援するベンチャーキャピタル「HARDWARE CLUB」などフランスの団体が強い存在感を放っていました。La French Techの代表、マキシム・サバヘック氏によると「今年はIFA NEXTに19のスタートアップが参加しました。CES、MWC、IFAとスタートアップが集まるイベントにLa French Techとして旗を掲げて参加することで、先端テクノロジーに積極的な姿勢で取り組むフランスのポジションをアピールできていることも収穫のひとつ」なのだとか。
スタートアップに積極的なフランスといえば、実は筆者は今回、ベルリンでのIFA取材の帰り道にパリに暮らす友人宅に立ち寄って、いま地元のパリジャン&パリジェンヌたちの間で流行っているという「電動キックボード」のシェアリングサービスを体験してきました。
パリは言わずと知れた世界有数の大都市。自動車の排気ガスによる大気汚染、騒音など環境にダメージを与える問題への取り組みとして自動車や自転車のシェアリングサービスが定着しつつあります。
そして今年、ついに登場したのがスケートボードにハンドルを取り付けて、電動モーターを合体させたような電動キックボードのシェアリングサービス。友人の進言によると、LIME(ライム)とBIRD(バード)のふたつが特に脚光を浴びているということだったので、それぞれを体験してみました。
サービスの仕組みはとてもシンプル。iOS/Android対応のアプリをスマホにインストールして、街中でフリーになっているキックボードをアプリ上に表示されるマップで探して、見つけたらバーコードをスキャンして解錠。利用料金はロックの解錠に1ドル、レンタル料金は1分0.15ドル(約16円)。なぜか指標はユーロではなくドル換算ですが、10分乗ると1.5ドル(約166円)を目安と考えて利用することにしました。解錠して、利用を終えて返却するまでは時間課金制で乗り放題ですが、1度のフル充電から乗れる範囲は20マイル前後(=約32キロ)の圏内とされています。支払いはアプリに登録したクレジットカードで決済できます。
キックで弾みを付けて、右のハンドルにあるレバーを押し込むと電動モーターが起動。こがなくても前に進みます。左側のハンドルにはブレーキが付いています。電動タイプのキックボードなので、脚で地面を蹴ってこがなくても、スクーターよりも少し遅いぐらいのスピードでパリの市内を気持ち良く滑走できます。250ワットのモーターを積んでいて、最高速度で23キロぐらい出ます。体感は自転車ぐらいでした。運転免許証は不要。車道、または自転車専用レーンを走るのが基本ですが、速度を落として歩道を走っている人もみかけました。
目的地まで辿り着いたら“乗り捨て”ができるのがLIMEとBIRDの特徴。特に専用ステーションもないので、例えばルーブル美術館前で見つけたキックボードを拾って、セーヌ川のほとりのカフェまで移動して乗り捨てることも自由にできて便利です。外国人の私もアプリと支払い用のカードを登録してすぐに使えたので、パリの市内観光がとても快適でした。
LIMEとBIRDはどちらも基本的なサービスの利用方法は一緒です。そして、同じ問題を抱えていました。まず電動式なので充電が必要な乗り物ですが、週末にもなると皆がひっきりなしに使うため、メンテナンスの速度が追いつかずにバッテリー切れで乗れないキックボードが街中に転がっています。そして解錠しようとすると「故障しているから使えない」というアラートが表示されることもありました。そのため、実は急いでいるときにはあまり頼りにならないサービスです。
それぞれの会社ともに街中で稼働しているキックボードのメンテナンスにあたるスタッフを雇っているそうなのですが、好評すぎるのか、あるいはスタッフがのんびりしているのか、とにかくメンテナンスの速度が追いついていないようでした。
また乗り捨てが自由なので、キックボードが道の真ん中、店の玄関の真正面に放置されていることもよくあり、ユーザーのマナーやモラルも問われるサービスです。乗り物自体が劣化するスピードも速いのではないでしょうか。来年もしパリを訪れた時に、LIMEもBIRDもより使いやすくなっているのか、あるいは消滅しているのか気がかりです。
「こういったスタートアップの実験的なサービスがスクラップ&ビルドを繰り返しながら次々と生まれているところがパリの魅力」と、筆者を案内してくれたパリ在住4年目の友人が話していました。マクロン大統領の政権になってから、スタートアップの勢いはますます加速しているようです。確かに、日本も2020年の東京オリンピック開催に向けて、観光客でも手軽に利用できる交通手段の拡充にもっと真剣に取り組むべきではないかと感じた次第です。