デジタル
2018/9/11 17:00

脳波グッズから最新シェアリングまで――欧州の最新スタートアップから学ぶ日本の「ネクスト・トレンド」

今年も世界最大級のエレクトロニクスショー「IFA」がドイツの首都・ベルリンで開催されました。筆者にとっては今年が15回目になるIFA取材。今回は2~3年前から段々と増えてきた欧州のスタートアップ(ベンチャー企業)の面白い製品とサービスを振り返りたいと思います。

 

スタートアップを集めた「IFA NEXT」

IFAでは昨年から欧州のスタートアップを集めた特別展示「IFA NEXT」を開始。初回から好評につき、今年は展示会場の規模を約2倍に勢いよく拡大しました。出展社・来場者の数も昨年からまた一段と増えた印象。いま欧州でも最先端のITテクノロジーを活かしたスタートアップに期待が向けられています。

↑欧州のスタートアップが集結した「IFA NEXT」の会場

 

今年もIFA NEXTにはヨーロッパ人ならではの自由な発想を活かした、一見してワクワクとさせられるような製品・サービスが集まっていました。出展しているスタートアップの各社に「日本で発売する予定は?」と訊ねてみると、すでに取り扱いが決まっていたり、IFAの期間中に日本から足を運んだバイヤーとの商談がまとまりつつあるという前向きな返事もかえってきます。クラウドファンディングなどを使って日本やアジアへの進出を狙う元気なスタートアップにも数多く出会いました。

 

IFA NEXTを主催するメッセ・ベルリンの担当者、ヴォルフガング・トゥンツェ氏によれば「IFAはエレクトロニクスのイベントですが、IFA NEXTは特に出展希望者のカテゴリや製品に縛りを設けているわけではありません」とコメントしています。

↑メッセ・ベルリンでIFA NEXTを担当するヴォルフガング・トゥンツェ氏

 

世界のほかのスタートアップを集めたイベントに比べると、IFA NEXTは通電させて使うエレクトロニクス製品、ハードウェアを展示するスタートアップの割合が多めに見えますが、例えばベルリンがホームグラウンドのスタートアップ「mitte(ミッテ)」のように、沸騰させた水を独自のミネラルカートリッジに通して、「自宅でミネラルウォーターが簡単に作れるサーバー」のようにシンプルなアイデアを活かした製品もあります。デバイスをスマホにBluetoothでペアリングすると、アプリからカートリッジの交換時期がわかる簡単なIoTっぽい機能も搭載しています。欧州ではいま「きれいな水と空気」に関連する家電製品がとても流行っているようで、mitteのブースにも大勢のジャーナリストや一般来場者、バイヤーがひっきりなしに訪れていました。

↑ベルリンのスタートアップ、mitteが開発中のミネラルウォーターが作れるウォーターサーバー

 

“脳波”が次のトレンドに!?

今年のIFA NEXTに集まるスタートアップのブースは、どれもが足を止めると軽く30分ぐらいは話し込んでしまうほど内容の濃いものばかりでしたが、なかでも筆者はふたつの出展に注目しました。それぞれが共通するところは「脳波と連動するデバイス」であるという点です。

 

ひとつはイギリス・ロンドンからやってきたスタートアップ、KOKOON(コクーン)。ブランドと同じ名前の製品「KOKOON」は睡眠をサポートするヘッドバンドです。

↑イギリスのKOKOONが開発する睡眠サポート用のヘッドギア「KOKOON」

 

見た目には思い切りヘッドホンしているのですが、実は音楽を聴くためだけの製品にあらず。ブースのスタッフいわく「KOKOONは音によって入眠の段階から深い眠りを維持するところまで積極的にサポートする製品」であるといいます。イギリスでは眠りの質の改善に人々の期待が高まっているのだとか。

 

ユーザーが心地よく眠れるように、スマホアプリ「Kokoon Audio」にはCognitive Behaviour Therapy(CBT)の理論に基づいて開発されたリラグゼーション効果のある音源が多数収録されています。音楽を聴きながら次第に深い眠り(ディープスリープ)に就くと、ヘッドバンドに搭載されている脳波を測定するための電極、心拍センサーとモーションセンサーがこれを検知。ディープスリープの状態を音楽を聴きながら維持。さらに外の雑音が聞こえにくなるように自動でベストな音源をセレクトしてくれます。

↑イヤーカップの内側に電極を配置。脳波を測定する

 

KOKOONのサイトでは直販がすでにスタートしていて、価格は399ドル(約4.3万円)。売れ行きは好調とのことでした。筆者も展示されていた実機を装着してみましたが、課題はヘッドバンドのサイズがそこそこ大きいこと。これを装着したままベッドや布団で横になるのは少しつらそうです。

 

脳波系のアイテムではもうひとつ、フランスのパリに拠点を置くDREEM(ドリーム)の、こちらも睡眠の質を改善するためのヘッドギア「DREEM」にも注目しました。

↑DREEMの睡眠サポート用ヘッドギア「DREEM」

 

こちらは先ほどのKOKOONよりもぐんとダウンサイジングされていて、着け心地も快適。神経科学のノウハウをベースにして、音を活用しながらユーザーの眠りの質を入眠からディープスリープの状態を維持するところまでサポートするというデバイスです。

 

額と後頭部の箇所に密着するバンドに電極と加速度センサーを搭載して、ユーザーの眠りの状態を解析する仕組みもKOKOONによく似ていますが、音はヘッドバンドに搭載する骨伝導センサーで聴くところがDREEMならでは。スマホアプリには目覚ましのほか、睡眠の状態を改善するためのコーチング機能なども搭載しています。

↑本機は心地よく眠るための音源を骨伝導素子で鳴らして伝えるので、耳を覆わなくても音が聞こえるのが特徴

 

フランスで次世代シェアリングサービスを体験

フランスは欧州の中でも特にスタートアップが盛んな地域です。今年のIFA NEXTにはフランス貿易投資庁 ビジネスフランスが主催するプロジェクト「La French Tech」や、ハードウェア系スタートアップの立ち上げを支援するベンチャーキャピタル「HARDWARE CLUB」などフランスの団体が強い存在感を放っていました。La French Techの代表、マキシム・サバヘック氏によると「今年はIFA NEXTに19のスタートアップが参加しました。CES、MWC、IFAとスタートアップが集まるイベントにLa French Techとして旗を掲げて参加することで、先端テクノロジーに積極的な姿勢で取り組むフランスのポジションをアピールできていることも収穫のひとつ」なのだとか。

↑IFA NEXTに出展した数多くのフランス発スタートアップを組織するビジネス・フランスのマキシム・サバヘック氏

 

スタートアップに積極的なフランスといえば、実は筆者は今回、ベルリンでのIFA取材の帰り道にパリに暮らす友人宅に立ち寄って、いま地元のパリジャン&パリジェンヌたちの間で流行っているという「電動キックボード」のシェアリングサービスを体験してきました。

 

パリは言わずと知れた世界有数の大都市。自動車の排気ガスによる大気汚染、騒音など環境にダメージを与える問題への取り組みとして自動車や自転車のシェアリングサービスが定着しつつあります。

 

そして今年、ついに登場したのがスケートボードにハンドルを取り付けて、電動モーターを合体させたような電動キックボードのシェアリングサービス。友人の進言によると、LIME(ライム)とBIRD(バード)のふたつが特に脚光を浴びているということだったので、それぞれを体験してみました。

 

サービスの仕組みはとてもシンプル。iOS/Android対応のアプリをスマホにインストールして、街中でフリーになっているキックボードをアプリ上に表示されるマップで探して、見つけたらバーコードをスキャンして解錠。利用料金はロックの解錠に1ドル、レンタル料金は1分0.15ドル(約16円)。なぜか指標はユーロではなくドル換算ですが、10分乗ると1.5ドル(約166円)を目安と考えて利用することにしました。解錠して、利用を終えて返却するまでは時間課金制で乗り放題ですが、1度のフル充電から乗れる範囲は20マイル前後(=約32キロ)の圏内とされています。支払いはアプリに登録したクレジットカードで決済できます。

↑今年パリでブレイクしそうな電動キックボードのシェアリングサービス「LIME」を体験してみた

 

↑電動キックボードのハンドルにあるQRコードをアプリのカメラでスキャンして解錠する

 

キックで弾みを付けて、右のハンドルにあるレバーを押し込むと電動モーターが起動。こがなくても前に進みます。左側のハンドルにはブレーキが付いています。電動タイプのキックボードなので、脚で地面を蹴ってこがなくても、スクーターよりも少し遅いぐらいのスピードでパリの市内を気持ち良く滑走できます。250ワットのモーターを積んでいて、最高速度で23キロぐらい出ます。体感は自転車ぐらいでした。運転免許証は不要。車道、または自転車専用レーンを走るのが基本ですが、速度を落として歩道を走っている人もみかけました。

↑モンパルナス墓地からサンジェルマン・デ・プレ地区にある老舗百貨店「ボン・マルシェ」まで、約2.8kmの道のりを15分半かけて移動した。パリ観光が楽しくて仕方なくなることうけあいだ

 

目的地まで辿り着いたら“乗り捨て”ができるのがLIMEとBIRDの特徴。特に専用ステーションもないので、例えばルーブル美術館前で見つけたキックボードを拾って、セーヌ川のほとりのカフェまで移動して乗り捨てることも自由にできて便利です。外国人の私もアプリと支払い用のカードを登録してすぐに使えたので、パリの市内観光がとても快適でした。

 

LIMEとBIRDはどちらも基本的なサービスの利用方法は一緒です。そして、同じ問題を抱えていました。まず電動式なので充電が必要な乗り物ですが、週末にもなると皆がひっきりなしに使うため、メンテナンスの速度が追いつかずにバッテリー切れで乗れないキックボードが街中に転がっています。そして解錠しようとすると「故障しているから使えない」というアラートが表示されることもありました。そのため、実は急いでいるときにはあまり頼りにならないサービスです。

 

それぞれの会社ともに街中で稼働しているキックボードのメンテナンスにあたるスタッフを雇っているそうなのですが、好評すぎるのか、あるいはスタッフがのんびりしているのか、とにかくメンテナンスの速度が追いついていないようでした。

 

また乗り捨てが自由なので、キックボードが道の真ん中、店の玄関の真正面に放置されていることもよくあり、ユーザーのマナーやモラルも問われるサービスです。乗り物自体が劣化するスピードも速いのではないでしょうか。来年もしパリを訪れた時に、LIMEもBIRDもより使いやすくなっているのか、あるいは消滅しているのか気がかりです。

↑返却場所が決まっていないことがLIME/BIRDの良いところであり、悪いところでもある。交通量の多いパリの街を走る時も安全運転を心がけるなど、利用者のマナーが問われるサービスだ

 

「こういったスタートアップの実験的なサービスがスクラップ&ビルドを繰り返しながら次々と生まれているところがパリの魅力」と、筆者を案内してくれたパリ在住4年目の友人が話していました。マクロン大統領の政権になってから、スタートアップの勢いはますます加速しているようです。確かに、日本も2020年の東京オリンピック開催に向けて、観光客でも手軽に利用できる交通手段の拡充にもっと真剣に取り組むべきではないかと感じた次第です。