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2019/3/9 7:00

【西田宗千佳連載】「老舗」「スタートアップ」「大手」が入り乱れるスマートグラス市場

Vol.76-3

スマートグラスの開発を検討している企業は、簡単にいえば3つに分けられる。「老舗」と「スタートアップ」と「大手」だ。

 

まだビジネスが立ち上がっていないものに対して老舗、という言葉を使うのは奇妙に思われるかもしれないが、実のところ、Google Glass以前から同様の技術を開発していた企業は多い。そうした企業のほとんどが狙ったのは、流通や工場、航空機整備といった「特定業務」向けである。海外では「Vuzix」、国内だと「エプソン」あたりが該当するだろうか。この他にも、アメリカで軍事向けに作っていた、という企業は驚くほど多い。実は、目に光を導いて現実に映像を重ねる、という技術は軍事目的で昔から使われており、そんなに新しい技術ではない。それを民間転用する企業も10年単位での歴史があるところが少なくない。

 

スタートアップはもちろん、新興の企業。新しく登場したデバイス群を使い、2015年あたりから開発を進めている企業がほとんどだ。「North」「ODG」「Nreal」「Realmax」と、挙げていくときりがない、というより、筆者も把握しきれていない。スマートグラス向けの表示技術が高品質・低コスト化し、プロセッサーなどの半導体についても、スマートフォン向けのものを転用できるため、開発に着手するのは容易になっているのだ。

↑Norh「Focals」

 

そして、さらに「大手」。大手といえば、「Google」はもちろんだが、HoloLensを使っている「マイクロソフト」、2020年以降に向けて開発しているといわれている「アップル」、「ファーウェイ」なども含まれる。これらの企業であっても、ハードウエア開発上のポイントは、スタートアップ企業と大差ない。少なくとも光学系については、自社内で完全に差別化したものを開発できているところは少なく、パートナーとの連携でビジネスをやっている。だが、大きく違うのは「ソフト」だ。自社のサービスプラットフォームや画像認識などのAIといった部分との連携は、大手のほうが進んでいる。マイクロソフトやアップル、GoogleがAR技術を開発しているのも、こうしたプラットフォームでの運用を前提としたものと考えられる。

 

ただ、そのぶん開発には時間がかかる。業務用に近い機器や、コンシューマ向けも想定しつつシンプルな用途に絞った機器ならば開発はスムーズに進むが、ある程度一般的な用途を狙うのであれば、相応に洗練された作りでなくてはならない。初代Google Glassの失敗もここにある。

 

逆にスタートアップは、スピード感を生かして「まず市場に出して磨く」ことを考えている。そもそも、スマートグラスをなにに使うと便利か、ということすら見えていない状況だ。時間をかけたから勝つ、と決まっているわけではない。

 

では、実際どこに使われるのか? 初期の市場はどこにあるのか? そうした部分は、次回のVol.76-4で解説したい。

 

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