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2019/8/1 21:10

iPadとApple Pencilで「プロっぽく描ける」アプリ、Morpholio Traceを作った人の話

iPadとApple Pencilの組み合わせで、誰でも手軽に本格的な建築スケッチが楽しめるアプリ「Morpholio Trace」の上手な使い方を、アプリの開発者である長谷川徹氏から学べるToday at AppleのセッションがApple京都で開催されました。

↑Apple京都で人気のiPad対応の建築スケッチ用アプリ「Morpholio Trace」の開発者による直伝セッションが開催されました

 

筆者は今年の春にApple新宿でこのアプリを初めて体験した後にすっかり気に入ってしまい、すぐに年間2200円の有料会員登録を申し込みました。以来、風景スケッチの腕前は少しずつ上達していると思いますが、さらにスキルアップを目指すため長谷川氏のレクチャーに参加した次第です。

 

建築家が「欲しいアプリ」を自ら作った

Morpholioは2011年に当時ニューヨークを拠点に活動していた4人の建築家が立ち上げたクリエイティブスタジオです。共同設立者である長谷川徹氏は建築家でありながらプログラマーとしてもアプリの開発に直接携わっています。長谷川氏はまた、京都造形芸術大学で教鞭も執る客員教授として活躍の場を広げています。

↑Morpholio Traceアプリの開発者、長谷川徹氏がセッションの特別講師として登壇しました

 

長谷川氏は日本の大学を卒業後、アメリカに渡り米コロンビア大学建築学部にて、当時はまだ珍しかったPCとデジタルテクノロジーを駆使したペーパーレスの建築メソッドを学びました。長谷川氏の興味は建築やデザイン、アートの領域にとどまらず、人間の脳の仕組みと、ひらめきを喚起するヒューマンインターフェースの研究にまで広く及ぶようになります。やがてiPhoneやiPadなどアップルのデバイスに出会い、「人間の発想を拡張するためのツール」としてiOSアプリの開発にのめり込んでいきます。

Morpholio Traceは「建築家として自分が便利に感じられるアプリがほしい」という強い思いから生まれたと長谷川氏は説いています。

↑セッションの参加者から寄せられる質問に対して長谷川氏が直接、熱心に答えていました

 

「建築の世界では手で図面を描いてから立体模型を起こして、クライアントからのフィードバックをトライアルアンドエラーを繰り返しながら形にしていくというワークフローが一般的でした。近年ではデジタルテクノロジーを活用することにより、従来の作業が大幅に簡略化され、アイデアをより素速く、直感的に具現化できるようになりました。」(長谷川氏)

 

写真をトレーシングしながらプロっぽいスケッチが簡単に描ける

Morpholio Traceができることは白いキャンパスにゼロから建築スケッチを描くことだけではありません。現実世界の風景をiPadに内蔵されているカメラで撮影して、風景写真の上に半透明なレイヤーを置いて、まるでトレーシングペーパーの上にお絵描きをする感覚で、手軽に風景スケッチを描くこともできます。筆者のように絵心のないビギナーが、iPadで絵を描くことを趣味のひとつにまでできた理由もここにあります。

 

そしてMorpholio Traceにはアップルの拡張現実プラットフォームである「ARKit」の仕組みが組み込まれています。アプリに搭載されている「ARカメラ」の機能を使うと、iPadの内蔵カメラでキャプチャした現実の景色に建築スケッチを重ねて描くためのガイドラインが自動作成されます。Apple Pencilを使い慣れていなくてもプロっぽいスケッチが簡単に描けてしまいます。

↑現実の風景をiPadのカメラで取り込んで、その上に透視図を描いていくための「ARカメラ」の上手な使い方を参加者一堂で実践しながら学びました

 

未来っぽい四条通りを描いてみた

この日のMorpholio Traceのワークショップは30人を超える満員の参加者で賑わっていました。各自にiPadとApple Pencilが配られ、はじめに長谷川氏から「ロトリングペンツールのペン先の細さを変える方法」などアプリの細かな使い方や、建物のデッサンを立体的に、そしてリアルに描くための実践的なテクニックなどが紹介されました。

↑Apple京都の目の前に広がる四条通りの風景をキャプチャして、2020年の未来の四条通りをイメージしながらスケッチを描いていきます

 

参加者全員でApple京都のストアを一歩出て、ARカメラでキャプチャした四条通りの景色にスケッチを重ねながら思い思いの四条通りの風景を描くフィールドワークも盛況でした。長谷川氏は「ここまで大勢の参加者を集めてワークショップをしたことはありません」と目を輝かせながら参加者の質問に答えていました。セッションの最後には参加者が描いたいくつかのスケッチをApple京都の大きなビデオウォールに映しながら、長谷川氏が一件ずつ丁寧にコメントを加えました。

 

「白いキャンパスにゼロからスケッチしようといきなり言われても、きっと誰もが戸惑うものです。iPadでキャプチャした街並みや写真の上に重ねて描画していくと、ハンドスケッチに比較的早く馴染めると思います。実際に手を動かして描いてみると、風景を構成する重要な線、強弱の付け方などがよく見えてきます」(長谷川氏)

 

Morpholio TraceのARカメラを使いこなせるようになると、例えば自分の部屋をキャプチャした写真に手描きのスケッチを重ねて模様替えのシミュレーションも楽しむことができます。「以前であればかなりの手間をかけなければならなかったクリエイティブな表現が、身近なモバイルデバイスであるiPadとApple Pencilを用意するだけで誰でも簡単にできることに大きな意味がある」と、長谷川氏は力を込めながら解説していました。

 

【Morpholio Traceを使ったオブジェクトスケッチ】

↑筆者もイベントに参加してiPad ProとApple Pencilを使ってスケッチしてみました。ARカメラで撮影した写真に半透明のレイヤーを重ねる

 

↑オブジェクトをトレースする感覚で絵を描いていけます

 

↑このように簡単に“プロっぽい”建築スケッチに仕上がります

 

ユーザーと一緒に成長を続けていくアプリ

Morpholioのアプリは発表から数年の間に、機能追加を重ねながら進化を遂げてきました。今では建築家などプロフェッショナルの期待に応えるパフォーマンスを満載していることに長谷川氏は満足する一方、同時にエントリーユーザーがアプリを気軽に使ってみたくなるような、出会いの機会を積極的に増やしていきたいと語っていました。

 

Morpholioがいま特に力を入れて取り組んでいるのはインスタグラムやYouTubeなど、アプリの機能を視覚的に解説できるソーシャルメディアを活用したアプリのプロモーションを強化することです。

 

「Morpholio Traceのユーザーが細かな機能の使い方などをソーシャルメディアにアップしてくれた動画も数多く見つかります。私たちが提供する公式の情報と、ファンに発信していただいた情報をつなぎ合わせてネットワークを強化しながら、初めてアプリに興味を持った方、現在使っている方の両方にとって有益になる情報を拡充していきたいと考えています。」(長谷川氏)

 

デジタル技術が普及したことによって、建築ツールだけでなく私たちの生活全般がとても便利になりました。でも一方で、技術が前に進むほどに、私たちの身の回りにあるハードやソフトの機能はますます複雑化しています。もはや分厚い取り扱い説明を読むよりも、Webに公開されている動画を見た方が理解も深まることも増えているように筆者も感じています。長谷川氏は今後もMorpholioのアプリを継続して機能強化していきたいと宣言していました。開発者にとっても、ヘルプや取扱説明のアップデートにかける時間をなるべく省いて、可能な限りアプリの開発に多くの時間を割けるようになることがベストであると言えます。これからはソーシャルメディアの力を活用しながら、開発者とユーザーが一緒に製品やサービスを育てていくケースが一般的になってくるのかもしれません。

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