Vol.82-3
ソニーの「WF-1000XM3」ヒットの理由のひとつは、ノイズキャンセル機能が優秀であることだ。
同社のノイズキャンセルヘッドホンはいくつか種類があるが、フラッグシップシリーズは「1000X」の型番がついている。特にヘッドバンド型の「WH-1000XM3」は、3万5000円前後と比較的高価な製品なのだが、ノイズキャンセル性能の高さと音質の良さから、この種の製品のなかでも特に評価が高い。BOSEのフラッグシップ製品である「QuietComfort 35」シリーズと並び、ノイズキャンセルヘッドホンの代名詞といっていいだろう。
WF-1000XM3は、WH-1000XM3と同様に「1000X」の一角を担う存在で、WH-1000XM3ほどとは言わないものの、完全ワイヤレス型でありながらそれに近いノイズキャンセル性能を実現している。
ならば同じハードウエアを使っているのか……というと、そうではない。完全ワイヤレス型のWF-1000XM3には、ヘッドバンド型とは違う技術的な難しさがある。
一番大きいのは消費電力の違いだ。ヘッドバンド型は比較的ボディが大きく、容量が大きなバッテリーを搭載できる。しかし完全ワイヤレス型のイヤホンは小型であることが求められるため、搭載できるバッテリーのサイズは小指の先にも満たない。ヘッドバンド型に使われているパーツをそのまま使うと消費電力が大きくなってしまい、動作時間が短くなるのだ。
大きいことや電力が使えることは、音質にとってはプラスに働く。そのため、ハイレゾ相当の音質も指向したヘッドバンド型で今のパーツを使っていることは理に適っている。だが、制約の多い完全ワイヤレス型だと、「ハイレゾクラスの音」と「バッテリー動作時間」のどちらを採るのかはある種、二者択一となる。汎用性を重視する本製品としては、後者が優先されるだろう。
また、ノイズキャンセルの精度を高めるには、外音を取り込むマイクとともに、ヘッドホンの内側で反響する音を消すために、それを取り込むマイクも必要になる。
そのためソニーは、2つのマイクを仕込み、そのノイズキャンセルを実現するための新規チップを開発した。それが「QN1e」というオリジナル開発のLSIだ。同社によれば、ノイズキャンセルのための技術そのものは、WH-1000XM3に使われているものに近いとのことだが、消費電力を下げてチップ面積を小さくするために、時間をかけて独自開発したのである。
ノイズキャンセル機能を搭載しないなら、バッテリー動作時間を延ばすのももう少し簡単だ。だが、ソニーは「1000X」の型番にふさわしい機能・性能を実現するために、独自開発せざるを得なかったのである。
では、こうした製品が出てくることでBluetoothの完全ワイヤレス型イヤホンの市場はどう変わっていくのだろうか? その辺は次回のウェブ版で解説する。
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