デジタル
2019/10/31 7:00

【西田宗千佳連載】アップルと携帯電話事業者の工夫で「分離プランショック」を逃れた日本市場

Vol.84-2

 

iPhone 11発売にあたり、アップルはかなり慎重に販売戦略を組み立てた。特に大きいのは「日本をどう攻略するか」だった。その証拠は、価格を見れば明白だ。実は、iPhone 11の日本での販売価格はかなり安い。昨年のiPhone XSやXRと比べて価格が下がっているというだけでなく、他国のiPhone 11の販売価格よりも数千円安くなっている。さらに今回は、「iPhone XSがメイン、XRがその下」ではなく、「iPhone 11がメイン、ProとPro Maxが付加価値モデル」という位置付けになった。そのため、本来iPhone 11 ProとiPhone XSが比較されるべきところが、iPhone 11とiPhone XSが比較される形になっている。だから、一見「さらに大幅にiPhoneがお買い得になった」ように見えるのだ。

 

Apple iPhone 11

 

このような施策を用意した理由は、日本では10月から「分離プラン」の徹底がルール化されたためだ。携帯電話事業者が長期契約を前提に本体価格を大幅に割り引くことができなくなった結果、高価なハイエンドスマホについては、購入価格が上がった。

 

もちろん、大手携帯電話事業者はそれに対応する施策を用意した。ソフトバンクとKDDIは「どの事業者でも使える」という建て付けの割引にすることで「通信費での割引ではない」という方法論を持ち込んだし(その後、物言いがついて、KDDIはさらにルールを変更することになった)、NTTドコモは分割回数を48回ではなく36回にすることで補填額を小さくして「通信費による大幅な割引」という条件をくぐり抜けた。どちらも、古いスマホの買い取りを前提にして、携帯電話事業者からの出費と消費者側の負担感を減らす考え方だ。

 

どちらにしろ、昨年に比べて大幅に販売価格が上がらないように工夫しているわけだが、これにアップルの「値下げ策」が組み合わさって、「iPhoneが意外と高くならない」状況が維持された。これが、iPhone販売好調の大きな要因だ。

 

ただし、最新のiPhoneが高価な製品であることに変わりはない。日本の場合、携帯電話事業者による本体買い取りという方法論が定着した結果、「ハイエンドスマホが高い」という印象を緩和することができているだけだ。携帯電話事業者による割引プランを使わず「一括購入」する人は少数派であり、SIMロックフリースマホの市場では、相変わらず7万~8万を超えるハイエンド商品はほとんど売れていない。一括払いで購入しても負担が小さいスマホは、やはり2万円から5万円までの間の「ミドルクラスからローエンド」の端末であり、特に日本ではミドルクラスが主軸になる。iPhoneにしても、旧モデルであるiPhone 8がいまだに多数売れているのは、金銭的な負担が小さい割に性能が高いからだ。

 

では、日本におけるハイエンドスマホは今後どうなるのか? その点は次回のウェブ版で解説する。

 

 

 

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