デジタル
2019/11/27 7:00

【西田宗千佳連載】シャープが発表した「巻き取り式ディスプレイ」のインパクト

Vol.85-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「巻き取り式ディスプレイ」。先日、有機ELの本領発揮ともいうべき同機構をシャープが実現した。

 

 

「巻き取り」機構は収納性や可搬性に貢献

11月8日、シャープはNHKと共同開発した「巻き取り式ディスプレイ」を公開した。大きさは30V型となっており、4K表示にも対応。有機ELを採用している。その名のとおり、くるくると巻き取って収納できるのが最大の特徴だ。

 

こういった巻き取り式のディスプレイ自体は、決して珍しい発想ではない。「有機EL」という技術が持つ構造上の特質を生かしたもので、こうしたアイテムが登場することは十分予測可能だったといってもいい。巻き取り式ディスプレイは過去、ソニーも試作している。だが、近年の成果でもっとも目覚ましいものと言えば、LGエレクトロニクスが2019年中の商品化を予定している65V型の4K巻き取り式ディスプレイ・テレビ「LG SIGNATURE OLED TV R」が挙げられるだろう。同商品は、日本では発売される予定がないものの、海外市場ではまもなく出荷が開始される見込みとなっている。

 

大小の違いはあれど、巻き取り式ディスプレイの特徴はどれも同じだ。巻き取ることでディスプレイを「片付けられる」ようにしている点をメリットとしている。LGの製品は、画面を完全に出さないとき・少しだけ出すとき・すべて出すときの3つのモードを持っていて、それぞれでデザインや役割が変わる。部屋の雰囲気や生活シーンに合わせて、テレビの存在感を消せるのがポイントである。

シャープ 30V型4Kフレキシブル有機ELディスプレイ

有機ELの自由度はテレビやPCでも重要に

そうしたなかでシャープが試作したものは、30V型と小さいが、そのぶん、巻き取ったときのサイズがさらに小さくなっている。巻き取り半径はたった2㎝で、ディスプレイ部は100gしかないのだ。これは、ポスターの筒ほどのサイズの中に、30V型・4Kのディスプレイが収納できてしまうということ。据え置き用途にも使えるが、このサイズであれば持ち歩いてもさほどかさばらないだろう。

 

そもそも有機ELディスプレイだとなぜ巻き取りが可能になるのか? それは、自発光型の有機ELは液晶に比べて構造がシンプルであるからだ。そのため、ディスプレイを構成する基板を樹脂などのフレキシブルな素材にすることで、形を比較的自由に変えられる。こうしたメリットは、原理的にカラーフィルターとバックライトが必要な液晶では得難いものである。

 

以前より有機EL界隈では、こうした構造上の特徴を生かして「曲がるディスプレイ」が試作されてきた。すでにスマホでは湾曲式ディスプレイを採用するものが多く登場しているし、最近はGalaxy Foldのように「二つ折り」のディスプレイを採用するものも現れた。これらはどちらも有機ELならではの構造を生かしたものである。ただ、テレビやPC用のディスプレイのように、比較的画面サイズが大きいものの場合には、スマホ以上に「丸める」「曲げる」といった要素がより重要になってくる可能性が高い。

 

ではこうした「巻き取り式のディスプレイ」がこのタイミングで増えてきた理由とはなんなのだろうか?そして、こうした技術は家電をどのように変えていくのだろうか? そうした予測については、ウェブ版で解説していくこととしよう。

 

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