デジタル
2020/2/29 7:00

【西田宗千佳連載】昨年モデルも十分買い得な「今年の4Kテレビ市場」

Vol.88-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「2020年のテレビ市場」。なかでも製品が登場しはじめた8Kテレビの動向と、各社の戦略を紐解く。

 

 

前回触れたとおり、テレビ市場の中核は、現状「8K」ではなく「4K」だ。理由はシンプルで、8Kテレビは、まだ、大型で付加価値の高いものになりすぎるからだ。

 

テレビの価格はディスプレイパネルの生産コストに大きく左右される。ディスプレイパネルは、大きなものを工場で「いくつに切り出すのか」で価格が決まる部分がある。小さいパネルは多数に分割できるので生産量が増え、そのぶんコストもこなれやすいのだが、大きいものは一度に作れる枚数が限られることから、なかなかコストが下がらない。8Kの解像度を生かすには、現状、ある程度以上(最低でも65インチ以上)のサイズが必要だ。画質の低い8Kテレビを作っても意味がなく、「大画面で高付加価値」な製品になるのは避けられないのだ。

 

高付加価値型が中心なのは「4Kテレビ」も同じだ。ただし、8Kほど超大型一辺倒ではないことや、機能・コスト的に成熟が進んだことなどから、特に今年はお買い得さが際立っている。と同時に、「今年のテレビは、昨年モデルに比べて進化ポイントは少ない」とも言える。もちろん、デザインや細かな機能は進化・変化しているので最新モデルのほうが良いに決まっているのだが、昨年は、有機ELを使った製品の完成度が特に上がった年だった。今年はさらに改善が進んでいるものの、少なくとも今夏くらいまでに登場するモデルに関しては、「昨年の製品だがグレードがより高いモデルを安価に買える」場合などは、昨年モデルを選んでも損はない。

 

国内でいえば、画質を重視したハイエンドモデルは有機ELで、普及価格帯は液晶と、はっきりと位置付けが分かれてきている。液晶だからといって極端に画質が落ちるわけではないが、搭載される高画質化回路も含め、有機ELモデルは「ハイエンド志向」である一方、液晶モデルは「上位機種をのぞくと、有機ELモデルに比べて劣るものを採用している」場合が多い。コストパフォーマンスは液晶のほうが良いのだが、画質重視であれば、有機ELモデルを選んだほうがトータルバランスは良い。(ただし、有機ELを採用していないシャープは例外となる)。

 

ソニー ブラビア Z9H

 

むしろ気をつかうべきは、画質より「音」のほうだ。UHD BDやネット配信で、Dolby Atomosを中心とした「立体オーディオ」対応が本格化しているからだ。予算の一部をDolby Atomos対応のスピーカー(サウンドバーでもいい)に回したほうが、コンテンツを楽しむ時の満足度が上がる。テレビにもDolby Atomos対応モデルが増えているので、そこは注意して選ぶようにしたい。とはいえ、音声についても去年から傾向自体は継続しており、大きな進歩は生じていない。

 

オリンピックイヤーというと「テレビが売れる年」というイメージが強かったが、それも過去のことだ。メーカー各社は、大きく差別化した新製品をオリンピックニーズに合わせるというより、「完成度が高く、お買い得な製品を用意する」方向にある、という印象が強い。すなわち、「このタイミングで買おうと思う人は、付加価値よりもお買い得感を求める人」という分析が、メーカー側にも存在するようである。

 

では、すでに発表済みの製品のうち、「ハイエンド」と「ミドル以下」にはどのような違いがあるのか? その辺は次回のウェブ版で解説する。

 

 

 

 

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