2020年3月末、国内3キャリアが5G商用サービスをついに開始し、限定的ではありますが5Gネットワークを提供しています。とはいえ、いま世の中は新型コロナウイルスの影響で外出を控えなくてはいけませんし、それにともなって世間の購入意欲も下がり最新の5G対応スマホを手に入れようという余力はないかもしれません。
しかし、もし5Gがすでに普及し、自由に使えるようになっていたとしたら。テレワーク環境がもっと快適になったり、その息抜きにVRコンテンツを楽しめたりするのだろうか。エンタメのみならず、医療や製造などあらゆる分野で期待される5Gが、この事態が収束したあと、その活用方法や分野ももしかしたら変化するのだろうか。この原稿を書きながら、そんなことを想像し、やはり今だからこそ5Gの必要性は引き続きあるのだろうと思っています。
長くなってしまいました。さて、今回紹介するのは「ネットワークスライシング」。ネットワークというものは、接続する機器が多ければ多いほど混雑し、接続が不安定になったり、通信が遅延したりしてしまいます。ひと言で説明するなら、その混雑を解消するのがネットワークスライシングという技術なんです。
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必ずしも速くなくていい?
本連載では何度も触れていますが、5Gの特徴は「高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」の3つ。4Gのときよりもさらにたくさんの機器がネットワークに接続し通信しあうと予想されています。
「たくさんのデバイス」と言っても、その種類はさまざま。自動運転や遠隔操作ロボットのようにリアルタイム性が求められるものもあれば、室内の温度や湿度といった小容量の観測データを定期的にやりとりする機器もあります。ということはつまり、必ずしもすべての機器が高速で通信する必要はないんですね。
加えて、機器の接続数が増えればそれだけ周波数帯が混雑し、通信の安定性や速度が保ちにくくなることは冒頭で述べたとおり(周波数帯については第2回を参照)。もしもネットワークが混雑するあまり、自動運転や遠隔手術の通信が途切れてしまったら……。大事故につながりかねませんよね。
そこで、機器やデータ、その容量や用途によって適した通信をできるようにしよう、というのがネットワークスライシングの肝なのです。
それぞれのデータに適した通信を
では実際にどうするのかというと、名前の通り「ネットワーク」を仮想的に「スライス(分割)」するんです。わかりやすいように、ネットワークを道路にたとえましょう。
ネットワークスライシングなしの道路は、幅の広い一車線みたいなもの。大小さまざまな車が走りますが、飛ばしていく車もいれば、のんびり同じペースで走る車もいます。しかし、いくら道幅の広い5Gネットワークとはいえ、車が増えればやがて渋滞してしまいます。
ネットワークスライシングは、その道路を分割してレーンを作るイメージです。あるレーンは大型車に、別のレーンは小型車にというように、車(データ)の大きさや性質に合わせたレーンを用意することで渋滞を避ける、ひいては事故を防ぐというわけです。
このように、幅の広いレーンを作れば、それだけ大容量のデータを伝送できます。反対に容量の小さいデータは狭いレーンのほうが、大容量通信と干渉せずに通信できます。もともとの道幅(周波数帯域)は決まっていますが、データごとに適したレーンにスライスすることで、各デバイスが安定して通信できるのです。「ネットワークスライシング」、ぜひ覚えておいてください。