デジタル
2020/5/15 7:00

【西田宗千佳連載】新iPad Proの正体は「AR開発キット」だ!

Vol.90-4

iPad Pro 2020年モデルの最大の特徴は「LiDAR」を搭載していることだ。本連載で解説したように、LiDARは距離を測る「ToFセンサー」の一つ。ToFセンサーは別にAppleの専売特許ではなく、多くのハイエンドスマホへと搭載が進んでいる「トレンド機能」の一つだ。

 

ただ、他社は主にカメラ性能向上のために使っており、アプリ側で自由にToFセンサーを使える仕組みをあまり整えていない(シャープはAQUOS R5GのToFセンサーをARで使えるよう、準備中とされている)。

 

一方でAppleは、最初からセンサーをアプリ開発者に開放した。AppleのARフレームワークである「ARKit」に組み込み、開発者が新しい機能を簡単に使えるように配慮したのである。それだけでなく、ARKit自体をLiDAR対応にアップデートしたことにより、アプリを作り替えなくても、LiDARの立体把握機能を生かして、よりリアルで精度の高いARが使えるようになっているのだ。

 

Appleと他社の狙いの大きな違いは、こうした「ARの環境整備」にある。スマホでARを使えるようにする、という方向性自体は、AppleだけでなくGoogleも進めているものだ。というよりも、ToFセンサーをARのためにスマホやタブレットに搭載する、という発想は、2014年からGoogleが進めていた「Project Tango」を発端とする。Project TangoでのToF技術を生かしたスマホやタブレットは、LenovoやASUSから発売されたものの、その後が続かなかった。特殊なリサーチプロジェクトに留まり、「スマホやタブレットで当たり前に使われる技術」にはならなかったのである。

 

Apple iPad Pro 9万3280円(11インチモデル)~

 

その後、Appleがシンプルなスマホカメラで本格的ARを実現する「ARKit」をスタートすると、Googleもその後を追いかけ、「ARCore」を開発した。Project TangoはARCoreに吸収される形で終了している。

 

だが、Appleはここである意味「先祖返り」した。精度の高い高度なARを実現するには、やはり普通のカメラだけでなく、ToFセンサーが必要なのだ。ToFセンサーの低価格化に合わせてARKitをToFセンサー対応とし、最初のToFセンサー搭載機器として「iPad Pro 2020年モデル」を用意したのである。ソフト面での準備は進んだので、今後、ほかの機器、例えばiPhoneや「本格的ARグラス」が登場する時にも、ToFセンサーを組み込むことは難しくない。それらのためのアプリも、すでに売られているiPad Proを開発機材として作り始められるわけだ。

 

AR機器でAppleが成功できるかどうかはわからない。しかし、AR機器で成功するには、いままでにないAR用アプリが必要であり、用途開拓が必須であることは間違いない。そのためには、本命である「ARグラスの開発」をゆっくり待つのではなく、今から開発者がどんどん先行してテストを行えるよう、準備をしておく必要がある。

 

正直なところ、2020年モデルのiPad Proは、2018年モデルからあまり進化していない。性能向上の幅が少なく、LiDARの搭載を除くと、コストパフォーマンスの向上がメインだ。LiDARによるARは面白いが、現状では、すべての人に必須の機能ではない。だとすれば、新iPad Proを急いで消費者が買う必然性は薄い、とも言える。

 

しかし、開発者は違う。これが実質的な「ARグラス開発キット」だと考えたらどうだろう?

 

今回のiPad ProでAppleが狙ったのは、単なる「iPadの更新」ではなく、AR時代に向けた開発のための布石だったのである。

 

 

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